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植物採集、アンデッドとの戦闘②
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いやいや。気にしては駄目だ。
集中しろ。ここは敵地だぞ。
「俺から離れるなよ」
「ええ」
彼女は俺の服の裾を掴み、微笑んだ。
まずは地形の確認だ。横は二メートル、縦三メートル。壁はぼろぼろで触れるだけで崩れてしまう。
……召喚獣は無理そうだな。
武器は生憎持ち合わせていない。
しかしだ。アンデッドの弱点は、胸。その奥にある心臓だ。
そこを潰せばどうにかなるだろう。
――来たか。
正面に二体。緑色に腐敗した皮膚に垂れた目玉。まさしくアンデッドらしい形相だな。
「目、瞑ってろ」
言って、俺はまっすぐ突き進む。まずは一体の心臓めがけて鋭い手刀を刺し込む。
件の物体を引きちぎり、もう一体の顔面に投げつけた。
怯んだ瞬間に肩を掴み、床に叩き込む。
「終いだ」
背中から――手刀で心臓を貫いた。
「さ、さすがです」
「引いただろ。だから見るなって言ったのに」
アンナはただただ苦笑していた。
たたでさえアンデッドの形は気味が悪い。
その気味が悪い生物、いや動く人形を残忍な殺し方をしてしまったのだ。
だがこれが正式な殺し方――還し方である。
「行くぞ」
何度かそのような戦闘を繰り返し、ついに最奥地にたどり着いた。
それほど厳重ではないが、鉄の牢には鍵がかかっている。
奥には三体のアンデッドがいた。
構える。奴らは牢にいるため無力ではあるが、万が一街にまで出てきてしまったら大混乱になってしまう。
殺るなら今しかない。
『ココノ、タカラ、ワタサナイ!』
『ロハタ、ニ、アタマ、カザル!』
『セニハ、キヲツケロ!』
右、左、中央と順に喋り始めたのだ。
アンデッドは基本的に人語を話すことはできない。
コイツらは一体何者なんだ? 何故こうも厳重に保管されているのだ?
ともかく、喋るアンデッドだ。危険なのには変わりない。
「アンナ、隠れてろ」
「は、はい!」
言いながらも、アンナは嬉々としていた。
全く、堪えてほしいもんだぜ。
『タノシミ、ダナ!』
『スケールノ、デカイ、タタカイ、シヨウゼ!』
『ケケケ、コワッパガ!』
そして、中央のアンデッドが一歩踏み出してきた。
『テ、キリオトサレナイヨウニ、キヲツケロ!』
やはりコイツらは危険だ!
俺は崩しかけていた構えを再び戻す。
――しかしなんだろう。この違和感は。
何かが変なのだ。……この胸に支える思いは一体……。
俺は錠を蹴破り、中へと侵入する。
多分、このアンデッドは強い。短期決戦に持ち込まねば!
すぐに左側のアンデッドに手刀を刺し込み、引き抜かないまま中央の奴に投げつける。
けれど、あれほど喋っていた彼らは一切口を開こうとしない。
攻撃はしようとはしてくるが、そこいらのアンデッドとなんら変わりない。
……気にしていては勝負にならない。気を取られて負けてしまっては元も子もないからな。
「はあ!」
ミシミシと音を立てながら俺に近づいてくる左にいたアンデッドの顔面に飛び蹴りを食らわす。
グリンと頭が回り、俺の方へと向き直った。
ここで怯んではいけない。
そのまま彼の胸に手刀を刺し込む。躊躇せず、確実にだ。
「最後だな」
中央にいたアンデッドに向く。
何も言わない。無言である。
手刀を胸に刺し込む――瞬間であった。
『ア、マケタ』
『リンネ、シテ、マタ、アウ』
左右にいた、確実に還したやった奴らが喋り始めたのだ。
『ガ、ガ、ガクン』
言いながら、左側にいたアンデッドが土に還っていく。
『ト、ド、メ。ササレタカ』
右のアンデッドが土に溶けていく。
そして――中央にいたアンデッドが口を開いた。
『ウレシイ、ヨ』
これが、彼らの最後の言葉であった。
◆
「全く、大変だったぜ」
「ごめんなさい! まさかアンデッドたちが住み着いていただなんて……」
俺たちは全てのアンデッドを討伐し、植物採集に戻っていた。
先程と同じように、薬草を見つけてはメモを取り、そして回収する。
戦闘を終えたとは思えないほどに弛緩した空気に、俺は半ば驚いていた。
まあ、これで街の平和は保たれたのだから、気を抜いても良いのだろうが。
「ねえレイスくん」
朗らかな形相を浮かべたアンナが俺の方に駆け寄ってきた。
少し、言い淀んだあと、空を見上げる。
「どうしてか私。安心しているのです」
「……俺もだよ」
敵を殲滅したから。もちろんそれもある。
けれど、もう一つ。
そのもう一つの感情が俺たちにはどうも理解できない。
まあそうだな。
近い言葉で言うなら、アンナと同じで『安心』している。
「さて、もうこれくらいでいいだろう!」
「ええ! 集合場所に向かいましょうか!」
……不思議なこともあるもんだな。
集中しろ。ここは敵地だぞ。
「俺から離れるなよ」
「ええ」
彼女は俺の服の裾を掴み、微笑んだ。
まずは地形の確認だ。横は二メートル、縦三メートル。壁はぼろぼろで触れるだけで崩れてしまう。
……召喚獣は無理そうだな。
武器は生憎持ち合わせていない。
しかしだ。アンデッドの弱点は、胸。その奥にある心臓だ。
そこを潰せばどうにかなるだろう。
――来たか。
正面に二体。緑色に腐敗した皮膚に垂れた目玉。まさしくアンデッドらしい形相だな。
「目、瞑ってろ」
言って、俺はまっすぐ突き進む。まずは一体の心臓めがけて鋭い手刀を刺し込む。
件の物体を引きちぎり、もう一体の顔面に投げつけた。
怯んだ瞬間に肩を掴み、床に叩き込む。
「終いだ」
背中から――手刀で心臓を貫いた。
「さ、さすがです」
「引いただろ。だから見るなって言ったのに」
アンナはただただ苦笑していた。
たたでさえアンデッドの形は気味が悪い。
その気味が悪い生物、いや動く人形を残忍な殺し方をしてしまったのだ。
だがこれが正式な殺し方――還し方である。
「行くぞ」
何度かそのような戦闘を繰り返し、ついに最奥地にたどり着いた。
それほど厳重ではないが、鉄の牢には鍵がかかっている。
奥には三体のアンデッドがいた。
構える。奴らは牢にいるため無力ではあるが、万が一街にまで出てきてしまったら大混乱になってしまう。
殺るなら今しかない。
『ココノ、タカラ、ワタサナイ!』
『ロハタ、ニ、アタマ、カザル!』
『セニハ、キヲツケロ!』
右、左、中央と順に喋り始めたのだ。
アンデッドは基本的に人語を話すことはできない。
コイツらは一体何者なんだ? 何故こうも厳重に保管されているのだ?
ともかく、喋るアンデッドだ。危険なのには変わりない。
「アンナ、隠れてろ」
「は、はい!」
言いながらも、アンナは嬉々としていた。
全く、堪えてほしいもんだぜ。
『タノシミ、ダナ!』
『スケールノ、デカイ、タタカイ、シヨウゼ!』
『ケケケ、コワッパガ!』
そして、中央のアンデッドが一歩踏み出してきた。
『テ、キリオトサレナイヨウニ、キヲツケロ!』
やはりコイツらは危険だ!
俺は崩しかけていた構えを再び戻す。
――しかしなんだろう。この違和感は。
何かが変なのだ。……この胸に支える思いは一体……。
俺は錠を蹴破り、中へと侵入する。
多分、このアンデッドは強い。短期決戦に持ち込まねば!
すぐに左側のアンデッドに手刀を刺し込み、引き抜かないまま中央の奴に投げつける。
けれど、あれほど喋っていた彼らは一切口を開こうとしない。
攻撃はしようとはしてくるが、そこいらのアンデッドとなんら変わりない。
……気にしていては勝負にならない。気を取られて負けてしまっては元も子もないからな。
「はあ!」
ミシミシと音を立てながら俺に近づいてくる左にいたアンデッドの顔面に飛び蹴りを食らわす。
グリンと頭が回り、俺の方へと向き直った。
ここで怯んではいけない。
そのまま彼の胸に手刀を刺し込む。躊躇せず、確実にだ。
「最後だな」
中央にいたアンデッドに向く。
何も言わない。無言である。
手刀を胸に刺し込む――瞬間であった。
『ア、マケタ』
『リンネ、シテ、マタ、アウ』
左右にいた、確実に還したやった奴らが喋り始めたのだ。
『ガ、ガ、ガクン』
言いながら、左側にいたアンデッドが土に還っていく。
『ト、ド、メ。ササレタカ』
右のアンデッドが土に溶けていく。
そして――中央にいたアンデッドが口を開いた。
『ウレシイ、ヨ』
これが、彼らの最後の言葉であった。
◆
「全く、大変だったぜ」
「ごめんなさい! まさかアンデッドたちが住み着いていただなんて……」
俺たちは全てのアンデッドを討伐し、植物採集に戻っていた。
先程と同じように、薬草を見つけてはメモを取り、そして回収する。
戦闘を終えたとは思えないほどに弛緩した空気に、俺は半ば驚いていた。
まあ、これで街の平和は保たれたのだから、気を抜いても良いのだろうが。
「ねえレイスくん」
朗らかな形相を浮かべたアンナが俺の方に駆け寄ってきた。
少し、言い淀んだあと、空を見上げる。
「どうしてか私。安心しているのです」
「……俺もだよ」
敵を殲滅したから。もちろんそれもある。
けれど、もう一つ。
そのもう一つの感情が俺たちにはどうも理解できない。
まあそうだな。
近い言葉で言うなら、アンナと同じで『安心』している。
「さて、もうこれくらいでいいだろう!」
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……不思議なこともあるもんだな。
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