57 / 58
第二章
57. 彼は全ての夢を叶えてくれる
しおりを挟む
その夜、舞踏会が盛大に開催された。そして私は疲れきった体に鞭を打ち、舞踏会に参加する。
アンドレ様の腕に掴まり、アンドレ様とともに歩く。今までと何も変わらない関係だが、今までよりもずっと安心している。そして、今までよりもずっとアンドレ様が大好きだ。
アンドレ様の前世が慎司だと分かったから、その気持ちの大きさを知ったから、迷うことは何もない。私はこうして、ずっとアンドレ様の隣にいる。
「皆のもの、この国の平和を祈り、乾杯」
国王陛下の声と共に、乾杯の音が鳴り響く。そして、ホールには音楽が流れ始める。ドレスとタキシードを纏った男女が手を組み、一斉に踊り始める。
「リア、無理はしなくてもいい。
俺はこうして、ここにいるだけで十分だ」
気を遣うアンドレ様に、満面の笑みで返す。
「いえ、将軍が踊らないわけにはいかないでしょう。
私だってずっと練習したのですから」
口調はいつも通りだ。だが、アンドレ様が慎司だと分かると、途端に打ち解けてしまった。今までは将軍だから夫だからと、心のどこかで気を遣っていた。だが、もう昔のような関係に戻っている。
「もし私が、アンドレ様に恥をかかせるようなダンスを踊ったら、大急ぎで連れて帰ってください」
「俺は今すぐにでも連れて帰りたいんだが」
笑いながら踊る私たちを、多くの人々が驚いたように見ていた。そして、『ずっと連れ添った夫婦みたい』だとか『相思相愛』だとか噂していたことを、私たちが知るはずもない。私は足の痛みも忘れて、アンドレ様にしがみついてずっと踊っていた。
そして……人々がダンスに疲れ、踊る人がいなくなった頃、ようやく私のリサイタルが始まる。
いつの間にか中央に出されたグランドピアノに近付くと、拍手喝采が起こる。私のピアノの噂はどんどん広がり、どうやら有名な音楽家となってしまったようだった。
一礼した私は、ふと前を見る。前列にはアンドレ様が座っていて、緊張した面持ちで私を見ている。それで、前世を思い出した。音大の卒業リサイタルの時も、慎司は前列で演奏を聴いてくれた。その時の慎司は、私よりも緊張していたかもしれない。それで私は慎司の緊張を和らげるため、手を下に下げたまま小さくピースサインを作ったの。
私はアンドレ様を見て、下げている手で微かにピースサインを作る。するとアンドレ様は顔を真っ赤にして下を向く。
(こういうところ、変わっていないですね)
私は気を取り直してピアノの椅子に座り、深呼吸して手を鍵盤に置く。そして、あの頃のようにピアノの世界へと入り込んでいった。
前世の私の夢は、ピアニストだった。前世ではピアニストになることは出来なかったが、今世ではアンドレ様が叶えてくれた。私はいつの間にか偉大な音楽家となっており、今日だって私の演奏目当てに集まった人だっているようだ。
練習に練習を重ねた曲を披露する。毎日の練習が身を結んだのか、仕上がりは上々だ。魂を込めてピアノを弾いているため、何度も意識が遠くなりかけた。だが、必死に最後まで弾き切った。
長時間だがあっという間のリサイタルを終えると、盛大な拍手をいただいた。人々は立ち上がり、延々と拍手を続ける。なかには、ハンカチを目に当てている人さえいる。
そして、いつの間にか目の前には大きな花束を持ったアンドレ様が立っており、そっとその花束を渡された。
「あ、ありがとうございます!」
満面の笑みで受け取ると、満面の笑みを返してくれるアンドレ様。
こうして、私のリサイタルも大盛況で幕を下ろしたのだった。
こうして、長い一日がようやく終わろうとしていた。人生で一番長くて濃い一日だった。この一日で、アンドレ様と私の関係は変わってしまった。私たちの間に隠し事はなくなり、ようやく本当の夫婦となることが出来たのだ。
「それにしても、綺麗なお花ですね」
館へ戻ると私はいただいた花束を花瓶に生ける。華やかな花のおかげで、室内がぐっと明るくなる。アンドレ様は私の隣に立ち、甘い声で囁く。
「花よりも、君のほうが綺麗だ」
かあーっと顔が熱くなると同時に、恥ずかしくもなる。
「慎司はそんなこと言いません」
苦し紛れに吐いた私に手を回し、頬に唇を付けながらアンドレ様は囁いた。
「俺は慎司ではないから……だから前世出来なかった分、全力で君に愛を伝えるから」
「も、もうッ!何言っているんですか!? 」
真っ赤な私と、同じように真っ赤なアンドレ様。私たちは顔を見合わせてまた笑い、唇を重ねた。
満身創痍だ。疲れ切って体が悲鳴を上げている。だが、今夜はまだまだ眠れないのだろう。
アンドレ様の腕に掴まり、アンドレ様とともに歩く。今までと何も変わらない関係だが、今までよりもずっと安心している。そして、今までよりもずっとアンドレ様が大好きだ。
アンドレ様の前世が慎司だと分かったから、その気持ちの大きさを知ったから、迷うことは何もない。私はこうして、ずっとアンドレ様の隣にいる。
「皆のもの、この国の平和を祈り、乾杯」
国王陛下の声と共に、乾杯の音が鳴り響く。そして、ホールには音楽が流れ始める。ドレスとタキシードを纏った男女が手を組み、一斉に踊り始める。
「リア、無理はしなくてもいい。
俺はこうして、ここにいるだけで十分だ」
気を遣うアンドレ様に、満面の笑みで返す。
「いえ、将軍が踊らないわけにはいかないでしょう。
私だってずっと練習したのですから」
口調はいつも通りだ。だが、アンドレ様が慎司だと分かると、途端に打ち解けてしまった。今までは将軍だから夫だからと、心のどこかで気を遣っていた。だが、もう昔のような関係に戻っている。
「もし私が、アンドレ様に恥をかかせるようなダンスを踊ったら、大急ぎで連れて帰ってください」
「俺は今すぐにでも連れて帰りたいんだが」
笑いながら踊る私たちを、多くの人々が驚いたように見ていた。そして、『ずっと連れ添った夫婦みたい』だとか『相思相愛』だとか噂していたことを、私たちが知るはずもない。私は足の痛みも忘れて、アンドレ様にしがみついてずっと踊っていた。
そして……人々がダンスに疲れ、踊る人がいなくなった頃、ようやく私のリサイタルが始まる。
いつの間にか中央に出されたグランドピアノに近付くと、拍手喝采が起こる。私のピアノの噂はどんどん広がり、どうやら有名な音楽家となってしまったようだった。
一礼した私は、ふと前を見る。前列にはアンドレ様が座っていて、緊張した面持ちで私を見ている。それで、前世を思い出した。音大の卒業リサイタルの時も、慎司は前列で演奏を聴いてくれた。その時の慎司は、私よりも緊張していたかもしれない。それで私は慎司の緊張を和らげるため、手を下に下げたまま小さくピースサインを作ったの。
私はアンドレ様を見て、下げている手で微かにピースサインを作る。するとアンドレ様は顔を真っ赤にして下を向く。
(こういうところ、変わっていないですね)
私は気を取り直してピアノの椅子に座り、深呼吸して手を鍵盤に置く。そして、あの頃のようにピアノの世界へと入り込んでいった。
前世の私の夢は、ピアニストだった。前世ではピアニストになることは出来なかったが、今世ではアンドレ様が叶えてくれた。私はいつの間にか偉大な音楽家となっており、今日だって私の演奏目当てに集まった人だっているようだ。
練習に練習を重ねた曲を披露する。毎日の練習が身を結んだのか、仕上がりは上々だ。魂を込めてピアノを弾いているため、何度も意識が遠くなりかけた。だが、必死に最後まで弾き切った。
長時間だがあっという間のリサイタルを終えると、盛大な拍手をいただいた。人々は立ち上がり、延々と拍手を続ける。なかには、ハンカチを目に当てている人さえいる。
そして、いつの間にか目の前には大きな花束を持ったアンドレ様が立っており、そっとその花束を渡された。
「あ、ありがとうございます!」
満面の笑みで受け取ると、満面の笑みを返してくれるアンドレ様。
こうして、私のリサイタルも大盛況で幕を下ろしたのだった。
こうして、長い一日がようやく終わろうとしていた。人生で一番長くて濃い一日だった。この一日で、アンドレ様と私の関係は変わってしまった。私たちの間に隠し事はなくなり、ようやく本当の夫婦となることが出来たのだ。
「それにしても、綺麗なお花ですね」
館へ戻ると私はいただいた花束を花瓶に生ける。華やかな花のおかげで、室内がぐっと明るくなる。アンドレ様は私の隣に立ち、甘い声で囁く。
「花よりも、君のほうが綺麗だ」
かあーっと顔が熱くなると同時に、恥ずかしくもなる。
「慎司はそんなこと言いません」
苦し紛れに吐いた私に手を回し、頬に唇を付けながらアンドレ様は囁いた。
「俺は慎司ではないから……だから前世出来なかった分、全力で君に愛を伝えるから」
「も、もうッ!何言っているんですか!? 」
真っ赤な私と、同じように真っ赤なアンドレ様。私たちは顔を見合わせてまた笑い、唇を重ねた。
満身創痍だ。疲れ切って体が悲鳴を上げている。だが、今夜はまだまだ眠れないのだろう。
209
あなたにおすすめの小説
妹に全て奪われて死んだ私、二度目の人生では王位も恋も譲りません
タマ マコト
ファンタジー
第一王女セレスティアは、
妹に婚約者も王位継承権も奪われた祝宴の夜、
誰にも気づかれないまま毒殺された。
――はずだった。
目を覚ますと、
すべてを失う直前の過去に戻っていた。
裏切りの順番も、嘘の言葉も、
自分がどう死ぬかさえ覚えたまま。
もう、譲らない。
「いい姉」も、「都合のいい王女」もやめる。
二度目の人生、
セレスティアは王位も恋も
自分の意思で掴み取ることを決める。
婚約破棄された氷の令嬢 ~偽りの聖女を暴き、炎の公爵エクウスに溺愛される~
ふわふわ
恋愛
侯爵令嬢アイシス・ヴァレンティンは、王太子レグナムの婚約者として厳しい妃教育に耐えてきた。しかし、王宮パーティーで突然婚約破棄を宣告される。理由は、レグナムの幼馴染で「聖女」と称されるエマが「アイシスにいじめられた」という濡れ衣。実際はすべてエマの策略だった。
絶望の底で、アイシスは前世の記憶を思い出す――この世界は乙女ゲームで、自分は「悪役令嬢」として破滅する運命だった。覚醒した氷魔法の力と前世知識を武器に、辺境のフロスト領へ追放されたアイシスは、自立の道を選ぶ。そこで出会ったのは、冷徹で「炎の公爵」と恐れられるエクウス・ドラゴン。彼はアイシスの魔法に興味を持ち、政略結婚を提案するが、実は一目惚れで彼女を溺愛し始める。
アイシスは氷魔法で領地を繁栄させ、騎士ルークスと魔導師セナの忠誠を得ながら、逆ハーレム的な甘い日常を過ごす。一方、王都ではエマの偽聖女の力が暴かれ、レグナムは後悔の涙を流す。最終決戦で、アイシスとエクウスの「氷炎魔法」が王国軍を撃破。偽りの聖女は転落し、王国は変わる。
**氷の令嬢は、炎の公爵に溺愛され、運命を逆転させる**。
婚約破棄の屈辱から始まる、爽快ザマアと胸キュン溺愛の物語。
婚約破棄された公爵令嬢エルカミーノの、神級魔法覚醒と溺愛逆ハーレム生活
ふわふわ
恋愛
公爵令嬢エルカミーノ・ヴァレンティーナは、王太子フィオリーノとの婚約を心から大切にし、完璧な王太子妃候補として日々を過ごしていた。
しかし、学園卒業パーティーの夜、突然の公開婚約破棄。
「転入生の聖女リヴォルタこそが真実の愛だ。お前は冷たい悪役令嬢だ」との言葉とともに、周囲の貴族たちも一斉に彼女を嘲笑う。
傷心と絶望の淵で、エルカミーノは自身の体内に眠っていた「神級の古代魔法」が覚醒するのを悟る。
封印されていた万能の力――治癒、攻撃、予知、魅了耐性すべてが神の領域に達するチート能力が、ついに解放された。
さらに、婚約破棄の余波で明らかになる衝撃の事実。
リヴォルタの「聖女の力」は偽物だった。
エルカミーノの領地は異常な豊作を迎え、王国の経済を支えるまでに。
フィオリーノとリヴォルタは、次々と失脚の淵へ追い込まれていく――。
一方、覚醒したエルカミーノの周りには、運命の攻略対象たちが次々と集結する。
- 幼馴染の冷徹騎士団長キャブオール(ヤンデレ溺愛)
- 金髪強引隣国王子クーガ(ワイルド溺愛)
- 黒髪ミステリアス魔導士グランタ(知性溺愛)
- もふもふ獣人族王子コバルト(忠犬溺愛)
最初は「静かにスローライフを」と願っていたエルカミーノだったが、四人の熱烈な愛と守護に囲まれ、いつしか彼女自身も彼らを深く愛するようになる。
経済的・社会的・魔法的な「ざまぁ」を経て、
エルカミーノは新女王として即位。
異世界ルールで認められた複数婚姻により、四人と結ばれ、
愛に満ちた子宝にも恵まれる。
婚約破棄された悪役令嬢が、最強チート能力と四人の溺愛夫たちを得て、
王国を繁栄させながら永遠の幸せを手に入れる――
爽快ざまぁ&極甘逆ハーレム・ファンタジー、完結!
【完結】政略婚約された令嬢ですが、記録と魔法で頑張って、現世と違って人生好転させます
なみゆき
ファンタジー
典子、アラフィフ独身女性。 結婚も恋愛も経験せず、気づけば父の介護と職場の理不尽に追われる日々。 兄姉からは、都合よく扱われ、父からは暴言を浴びせられ、職場では責任を押しつけられる。 人生のほとんどを“搾取される側”として生きてきた。
過労で倒れた彼女が目を覚ますと、そこは異世界。 7歳の伯爵令嬢セレナとして転生していた。 前世の記憶を持つ彼女は、今度こそ“誰かの犠牲”ではなく、“誰かの支え”として生きることを決意する。
魔法と貴族社会が息づくこの世界で、セレナは前世の知識を活かし、友人達と交流を深める。
そこに割り込む怪しい聖女ー語彙力もなく、ワンパターンの行動なのに攻略対象ぽい人たちは次々と籠絡されていく。
これはシナリオなのかバグなのか?
その原因を突き止めるため、全ての証拠を記録し始めた。
【☆応援やブクマありがとうございます☆大変励みになりますm(_ _)m】
異世界転生公爵令嬢は、オタク知識で世界を救う。
ふわふわ
恋愛
過労死したオタク女子SE・桜井美咲は、アストラル王国の公爵令嬢エリアナとして転生。
前世知識フル装備でEDTA(重金属解毒)、ペニシリン、輸血、輪作・土壌改良、下水道整備、時計や文字の改良まで――「ラノベで読んだ」「ゲームで見た」を現実にして、疫病と貧困にあえぐ世界を丸ごとアップデートしていく。
婚約破棄→ザマァから始まり、医学革命・農業革命・衛生革命で「狂気のお嬢様」呼ばわりから一転“聖女様”に。
国家間の緊張が高まる中、平和のために隣国アリディアの第一王子レオナルド(5歳→6歳)と政略婚約→結婚へ。
無邪気で健気な“甘えん坊王子”に日々萌え悶えつつも、彼の未来の王としての成長を支え合う「清らかで温かい夫婦日常」と「社会を良くする小さな革命」を描く、爽快×癒しの異世界恋愛ザマァ物語。
『龍の生け贄婚』令嬢、夫に溺愛されながら、自分を捨てた家族にざまぁします
卯月八花
恋愛
公爵令嬢ルディーナは、親戚に家を乗っ取られ虐げられていた。
ある日、妹に魔物を統べる龍の皇帝グラルシオから結婚が申し込まれる。
泣いて嫌がる妹の身代わりとして、ルディーナはグラルシオに嫁ぐことになるが――。
「だからお前なのだ、ルディーナ。俺はお前が欲しかった」
グラルシオは実はルディーナの曾祖父が書いたミステリー小説の熱狂的なファンであり、直系の子孫でありながら虐げられる彼女を救い出すために、結婚という名目で呼び寄せたのだ。
敬愛する作家のひ孫に眼を輝かせるグラルシオ。
二人は、強欲な親戚に奪われたフォーコン公爵家を取り戻すため、奇妙な共犯関係を結んで反撃を開始する。
これは不遇な令嬢が最強の龍皇帝に溺愛され、捨てた家族に復讐を果たす大逆転サクセスストーリーです。
(ハッピーエンド確約/ざまぁ要素あり/他サイト様にも掲載中)
もし面白いと思っていただけましたら、お気に入り登録・いいねなどしていただけましたら、作者の大変なモチベーション向上になりますので、ぜひお願いします!
聖女じゃない私の奇跡
あんど もあ
ファンタジー
田舎の農家に生まれた平民のクレアは、少しだけ聖魔法が使える。あくまでもほんの少し。
だが、その魔法で蝗害を防いだ事から「聖女ではないか」と王都から調査が来ることに。
「私は聖女じゃありません!」と言っても聞いてもらえず…。
政略結婚した旦那様に「貴女を愛することはない」と言われたけど、猫がいるから全然平気
ハルイロ
恋愛
皇帝陛下の命令で、唐突に決まった私の結婚。しかし、それは、幸せとは程遠いものだった。
夫には顧みられず、使用人からも邪険に扱われた私は、与えられた粗末な家に引きこもって泣き暮らしていた。そんな時、出会ったのは、1匹の猫。その猫との出会いが私の運命を変えた。
猫達とより良い暮らしを送るために、夫なんて邪魔なだけ。それに気付いた私は、さっさと婚家を脱出。それから数年、私は、猫と好きなことをして幸せに過ごしていた。
それなのに、なぜか態度を急変させた夫が、私にグイグイ迫ってきた。
「イヤイヤ、私には猫がいればいいので、旦那様は今まで通り不要なんです!」
勘違いで妻を遠ざけていた夫と猫をこよなく愛する妻のちょっとずれた愛溢れるお話
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる