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55. 故郷にも行きます
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王宮を出てから、すぐ近くにあるというポーレット領へ向かった。すぐ近くと言っても、馬車でニ、三時間の距離だ。そして今日はポーレット領に泊まることになっている。
お兄様に会えるのも嬉しいし、私の故郷を見られるのも嬉しい。何より、ジョーと一緒に行けるのが嬉しいのだ。
馬車の中で色々考えている私に、ジョーは言う。
「アンは、俺が周りから怯えられていても引かないのか?」
「……え?」
思わずジョーを見た。彼はその綺麗な顔に、少し不安げな表情を浮かべている。
私は手を伸ばし、ジョーの頬に触れていた。
「引くはずないよ。
私もジョーの噂なんて聞いたことがなかったから、何を言われているのか分からないけど……
でも、ジョーはいつも優しいし、私のこと大切にしてくれるし。騎士たちからも信頼されているし……」
こんな、不安そうなジョーですら愛しい。ジョーは強いところも弱いところも、全部私に見せてくれている。
「私は、ジョーと結婚出来て幸せだと思うの。
……世界で一番、幸せだよ」
ジョーは一瞬、泣きそうな顔をした。そして、頬に当てる私の手を、ぎゅっと握る。
「アン……愛してる」
ジョーは甘く切なく告げ、大切そうに握った私の手に口付けをする。その一挙一動に、私は真っ赤になる。
「アン、世界で一番愛してる」
そのまま、そっとジョーに抱きしめられた。馬車の中だというのに、外には護衛だっているのに。誰かに見られていないかという不安と、ジョーが甘すぎるのとで、ドキドキが止まらない。
「俺も、アンといられて幸せだ」
甘い言葉に、引かれるように唇を重ねた。
私は、手遅れなほどジョーにはまって抜け出せない。これから死ぬまでずっと、ジョーの甘い寵愛を受けて過ごすのだろう。
私だって、ジョーをうんと愛したい。
◆◆◆◆◆
馬車が停まって扉が開かれると、まずジョーが馬車から降りた。そして、私の手を引いて降ろしてくれる。ジョーの行いはいつも紳士で、胸がきゅんと甘くなる。
馬車から降りた私は、ぐるっと故郷を見回した。
済んだ空には海鳥が飛び交い、潮の香りがする。
目の前には大きな運河が広がり、運河には大小様々な舟が行き交っていた。
ある船頭は陽気に歌い、またある舟はフルーツをたくさん積んでいる。
そして、運河の向こうには、大きな屋敷が建っているのが見えた。きっと、あそこがポーレット邸だ。
「ジョセフ様、アン様。ご用件は、ヘンリー様から伺っております」
馬車の前の船着き場に立つスーツの男性が、帽子を取って挨拶した。
「ご婚約、おめでとうございます」
私たちは行く先行く先で、こうやって祝福される。もちろんまだ結婚もしていないし、結婚するという実感も湧かない。だが、ジョーとの距離が近付いているのは確かだった。
「ヘンリー様が、領主館でお二人をお待ちです。
どうぞ、舟へ乗られてください」
こうやって、私は勧められるままに舟に乗り、目の前に建つ領主館へ向かったのだ。
その舟旅の道中、やはり周りの人はじろじろを私たちを見る。もちろんヘンリーお兄様の妹である私も見られているのだが、ジョーを見る目は恐怖にも近い。
ジョーは気にしないようにしているのだが、ずっとこの恐怖の視線と戦ってきたのだろう。だから私に、オストワル辺境伯騎士団に所属していると引くか?なんて聞いたのだろうし、ジョーの本名も知って欲しくなさそうだった。
ジョーが強いのは事実だが、暴君とは程遠い。私はこのままずっとジョーに寄り添って、一番の味方になろうと誓った。
だけどこんな私の不安も、
「アン!ジョー!!」
領主館の前に舟が着いた瞬間、待ってましたと言わんばかりに飛び出してきたお兄様の笑顔にかき消された。
「待ってたんだよ!ようこそポーレット領へ!!」
お兄様は嬉しそうに私たちに駆け寄り、ジョーと私の手を握る。
夕陽がお兄様の赤い髪を、さらに赤く照らしていた。
「長居出来ないだろうけど、ゆっくりしていってね!
今日は二人の婚約を祝って、パーティーを開くから!!」
お兄様に会えるのも嬉しいし、私の故郷を見られるのも嬉しい。何より、ジョーと一緒に行けるのが嬉しいのだ。
馬車の中で色々考えている私に、ジョーは言う。
「アンは、俺が周りから怯えられていても引かないのか?」
「……え?」
思わずジョーを見た。彼はその綺麗な顔に、少し不安げな表情を浮かべている。
私は手を伸ばし、ジョーの頬に触れていた。
「引くはずないよ。
私もジョーの噂なんて聞いたことがなかったから、何を言われているのか分からないけど……
でも、ジョーはいつも優しいし、私のこと大切にしてくれるし。騎士たちからも信頼されているし……」
こんな、不安そうなジョーですら愛しい。ジョーは強いところも弱いところも、全部私に見せてくれている。
「私は、ジョーと結婚出来て幸せだと思うの。
……世界で一番、幸せだよ」
ジョーは一瞬、泣きそうな顔をした。そして、頬に当てる私の手を、ぎゅっと握る。
「アン……愛してる」
ジョーは甘く切なく告げ、大切そうに握った私の手に口付けをする。その一挙一動に、私は真っ赤になる。
「アン、世界で一番愛してる」
そのまま、そっとジョーに抱きしめられた。馬車の中だというのに、外には護衛だっているのに。誰かに見られていないかという不安と、ジョーが甘すぎるのとで、ドキドキが止まらない。
「俺も、アンといられて幸せだ」
甘い言葉に、引かれるように唇を重ねた。
私は、手遅れなほどジョーにはまって抜け出せない。これから死ぬまでずっと、ジョーの甘い寵愛を受けて過ごすのだろう。
私だって、ジョーをうんと愛したい。
◆◆◆◆◆
馬車が停まって扉が開かれると、まずジョーが馬車から降りた。そして、私の手を引いて降ろしてくれる。ジョーの行いはいつも紳士で、胸がきゅんと甘くなる。
馬車から降りた私は、ぐるっと故郷を見回した。
済んだ空には海鳥が飛び交い、潮の香りがする。
目の前には大きな運河が広がり、運河には大小様々な舟が行き交っていた。
ある船頭は陽気に歌い、またある舟はフルーツをたくさん積んでいる。
そして、運河の向こうには、大きな屋敷が建っているのが見えた。きっと、あそこがポーレット邸だ。
「ジョセフ様、アン様。ご用件は、ヘンリー様から伺っております」
馬車の前の船着き場に立つスーツの男性が、帽子を取って挨拶した。
「ご婚約、おめでとうございます」
私たちは行く先行く先で、こうやって祝福される。もちろんまだ結婚もしていないし、結婚するという実感も湧かない。だが、ジョーとの距離が近付いているのは確かだった。
「ヘンリー様が、領主館でお二人をお待ちです。
どうぞ、舟へ乗られてください」
こうやって、私は勧められるままに舟に乗り、目の前に建つ領主館へ向かったのだ。
その舟旅の道中、やはり周りの人はじろじろを私たちを見る。もちろんヘンリーお兄様の妹である私も見られているのだが、ジョーを見る目は恐怖にも近い。
ジョーは気にしないようにしているのだが、ずっとこの恐怖の視線と戦ってきたのだろう。だから私に、オストワル辺境伯騎士団に所属していると引くか?なんて聞いたのだろうし、ジョーの本名も知って欲しくなさそうだった。
ジョーが強いのは事実だが、暴君とは程遠い。私はこのままずっとジョーに寄り添って、一番の味方になろうと誓った。
だけどこんな私の不安も、
「アン!ジョー!!」
領主館の前に舟が着いた瞬間、待ってましたと言わんばかりに飛び出してきたお兄様の笑顔にかき消された。
「待ってたんだよ!ようこそポーレット領へ!!」
お兄様は嬉しそうに私たちに駆け寄り、ジョーと私の手を握る。
夕陽がお兄様の赤い髪を、さらに赤く照らしていた。
「長居出来ないだろうけど、ゆっくりしていってね!
今日は二人の婚約を祝って、パーティーを開くから!!」
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