追放された薬師は、辺境の地で騎士団長に愛でられる

Mee.

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52. 平和な日が続きます

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 ジョーが甘すぎるから、治療院でいつもの生活に戻るとホッとする。
 だが、街中にはジョーと私が正式に結婚するという事実が、あっという間に流れていた。


「アンちゃーん!オストワルに残ってくれて、ありがとうね!!」

 朝一番、ケーキ屋の奥さんが、また大きな包みを持って訪れた。その包みには何が入っているのか大体想像がつくが、私は知らないふりをする。

「こちらこそ、この街に残れて嬉しいです。
 みなさんとこうやってお話も出来るし」

 そう言いながら、私は剣の稽古で傷ついた子供の処置をする。子供は目を輝かせながら、

「僕は第一騎士団に入るんだ!
 ジョセフ様と一緒に戦うんだ!」

なんて言っている。
 こんな子供までを虜にするジョーはすごいとつくづく思う。

「そうそう、ジョセフ様と言えば……」

 ケーキ屋の奥さんの言葉に身構える私に、彼女は包みを開いて私にそれを見せた。
 そこには、私の予想通りの婚約おめでとうケーキがあったのだが、前回と少し仕様が変わっている。ケーキがハート型になっているし、ジョーは騎士団の隊服を着て剣を持っているし。奥さんも、さらにケーキ作りの腕が上がったのだろう。

「このケーキのおかげで、うちの店は大繁盛よ」

 奥さんは嬉しそうに言う。

「街中の人が、ジョセフ様とアンちゃんの結婚を喜んでいて、販売開始十分で売れてしまうの。
 だから毎日、ケーキを焼きっぱなしだよ」

「それは、このケーキが美味しいからだと思います」

 笑顔で告げていた。

 ジョーとの結婚が本当になったため、私ももう結婚を否定することはなくなった。そして、何よりも皆さんから祝福されていることが嬉しいのだ。
 ジョーは美男で強いため、狙っている女性だっていただろうに。


 そんななか、

「アン!」

不意に現れるジョーは、いつものように治療院の扉を開けて中に入ってくる。
 手当てをしていた男の子が、ジョーを見て目を輝かせている。そんな男の子を喜ばせてあげたいと思い、ジョーに告げた。

「将来、ジョセフ団長と戦いたいんだって!」

 するとジョーは嬉しそうに男の子の前に座り、その頭をわしゃっと撫でた。

「頼もしいな。待ってるよ」

 男の子は嬉しそうに笑っている。ジョーはきっと、いいお父さんにもなるだろう。……お父さんか……私たち、結婚するんだよね……
 色々考えて真っ赤になってしまう私を、ジョーは再び呼ぶ。

「今日の稽古、するか?」

 私は大きく頷いていた。





 広い薬草園で、私はジョーに護身術を教えてもらう。最近は、これが日課になっていた。ソフィアさんは護身術なんてと笑うが、私は至って本気だ。私が事件に巻き込まれた時、少しでもジョーの負担を軽くしたいと思ってしまうから。

 ジョーに言われた通りに棒を振るうと、ジョーはわざと棒に当たってやられたふりをする。厳しい騎士団長のはずなのに、私には甘々だ。
 そして、毎度のことながら、騎士団の仕事を放り出して私と遊んでいていいのかと思う。

 わざとらしく倒れたジョーを見て、

「もう!真面目にやってよ!」

なんて笑ってしまう。少なくとも、私はジョーの足下にも及ばないことは分かっているのだが。

 ジョーもおかしそうに笑いながら、

「俺は真面目にやっている。アンに見惚れて何も出来なくなってしまうんだ」

なんて、これまた甘い言葉を吐く。最強の騎士団長を狂わせる私が、ある意味最強なのかもしれない。

 だが、このジョーの訓練のため意外にも私が戦えるようになっていたことが、後々分かるのだった。

「明日は王都に向けて出発だ。
 国王に、どうやって謝らせてやろうか」

 ジョーはそんな不吉なことを言うものだから、

「陛下は何も悪くないんだよ!」

 慌てて否定する。それでも、私が育った王都にジョーと行けるなんて、不思議な気分だった。
 師匠も元気にされているかな。ジョーのことも報告しなきゃ。王都なんて二度と行くつもりもなかったが、意外にも王都行きに胸を膨らませる私がいた。

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