追放された薬師は、辺境の地で騎士団長に愛でられる

Mee.

文字の大きさ
上 下
49 / 58

49. 彼の弱点は私のようです

しおりを挟む

 このまま、私はこの騎士に連れられて騎士団本部に入った。前にも入ったことはあるが、あの時はジョーと塔に上っただけだった。
 初めて入る騎士団本部は、それは広くて豪華で、多くの騎士が私を見て頭を下げる。しかも、なんと私のことを知っているのだ。

「こんにちは、アン様」

「アン様、これからもよろしくお願いします」

 こちらこそお願いしますと頭を下げながらも、この騎士たちに散々世話になったことも思い出した。黒い騎士が現れた時、ずっと護衛をしてくれていたし……私とヘンリーお兄様が襲われた時も、助けに来てくれた。

「あの……いつも色々と、ありがとうございます」

 おずおずと告げたら、彼らはさらっとした笑顔で答えるのだ。

「ジョセフ団長の命令なら、私たちは喜んで従いますから。
 その前に、ジョセフ団長がアン様を酷く好いていらっしゃるので、私たちは何でも協力したいと思うのです」

 私の予想以上にジョセフ団長は騎士たちに好かれているらしい。こんな様子を見て、私まで嬉しくなってしまうのだった。



 騎士は私を大きな建物の前に案内した。そして、石で出来た立派なその門をくぐる。そうしている間にも、建物の中からは剣を打ち付け合うような乾いた男と、男性の声が聞こえてくるのだった。それを聞き、騎士たちがここで訓練していることを悟る。

 建物の前にいる騎士たちも私に頭を下げ、私も同様に頭を下げる。なかにはやはり、治療院で見たことのある人だっているのだ。

 そして……階段を上った先で、急に視界が開けた。目下には広大な闘技場が広がり、騎士たちが剣を振るって訓練をしていた。そしてこんなに騎士がいるとジョーを見つけるのが難しいと思ったが……ジョーは意外とすぐに見つかった。

 騎士団長であるジョーは、もちろん部下を従え指導する立場なのだろう。打ち合いをする騎士のもとを歩き回り、何か教えているようだ。そんないつもと違う真剣なジョーを見ると、不覚にもときめいてしまう。

「ジョセフ団長は、幼い時から剣に生きてこられました。幼いジョセフ団長が次々に現役の騎士を打ち負かしていくので、騎士たちも負けてはいられないと訓練を頑張ったものです。
そしてジョセフ団長は問答無用の強さで団長に就任しましたが……この前の黒い騎士との戦いで、精神的ダメージを負ったようです。
ジョセフ様は自分がやられてしまったことにショックを受けたみたいですが、ジョセフ様でなかったら確実に死んでいたでしょう」

「そうなんですね……」

 ジョーは自分に厳しく、まさに騎士の鏡だろう。そして、黒い騎士との顛末にショックを受けるのもおかしい。だって、あの時はポーレット領騎士団はかなりの劣勢だったし、ジョーは一人で百人近くを相手にしてすごいと思う。
 むしろ反省しないといけないのは、ジョーを危険に晒した私だろう。

 打ち合いが終わり、ジョーが騎士たちの中心で話をしている。時々剣を振るったり、構えたりしながら。だが、遠くにいるため何を言っているのか分からなかった。
 騎士たちは、そんなジョーの話を真剣な面持ちで頷きながら聞いている。

 こうやって、騎士たちをまとめているジョーを見て、改めてすごいと思った。そして、かっこいいとも思う。もちろん外見もかっこいいのだが、内面もすごくかっこいい……


 ジョーの号令で、再び騎士たちは打ち合いを始める。今度は四人ほどの騎士がジョーに向かって飛びかかるが……
 ジョーは表情一つ変えず、その四人を一瞬で打ち負かしてしまった。あまりに冷静で華麗なジョーの動きから、目が離せない。胸がドキドキする。
 オストワル辺境伯領騎士団は、もちろん弱いわけではない。むしろ、王宮騎士団よりも強いと噂されている。その最強騎士団の中でも最強の、第一騎士団の騎士を、こうも簡単に打ち負かしてしまうなんて。

 そうこうしているうちにも騎士が次々飛びかかるが、やはりジョーに勝てる人なんていない。真剣な顔のジョーに釘付けだ。ジョーって、戦っている姿もイケメンだ……

 不意に顔を上げたジョーと視線がぶつかった。ジョーは驚いたように私を見て、私はぼっと顔に血が上る。その瞬間……カキーン!!大きな音を立てて、部下の騎士の剣がジョーの腕に当たった。あまりの衝撃に顔を歪めるジョーに、

「団長!!」

剣を投げ捨てて駆け寄る騎士たち。そんな様子を見ながら、酷くドキドキしてしまった。ジョーはかっこよかったけど、私のせいだ。私のせいで、ジョーの注意が逸れてしまったのだ。

 私を案内してくれた騎士が、額に手を当ててはぁーっとため息をつく。

「ジョセフ団長は最強ですが、アン様が弱点ですからね……」

 もう、訓練は見ないでおこうと心に誓った。
 

しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。

石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。 実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。 そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。 血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。 この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。 扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。

【完結】魔力がないと見下されていた私は仮面で素顔を隠した伯爵と結婚することになりました〜さらに魔力石まで作り出せなんて、冗談じゃない〜

光城 朱純
ファンタジー
魔力が強いはずの見た目に生まれた王女リーゼロッテ。 それにも拘わらず、魔力の片鱗すらみえないリーゼロッテは家族中から疎まれ、ある日辺境伯との結婚を決められる。 自分のあざを隠す為に仮面をつけて生活する辺境伯は、龍を操ることができると噂の伯爵。 隣に魔獣の出る森を持ち、雪深い辺境地での冷たい辺境伯との新婚生活は、身も心も凍えそう。 それでも国の端でひっそり生きていくから、もう放っておいて下さい。 私のことは私で何とかします。 ですから、国のことは国王が何とかすればいいのです。 魔力が使えない私に、魔力石を作り出せだなんて、そんなの無茶です。 もし作り出すことができたとしても、やすやすと渡したりしませんよ? これまで虐げられた分、ちゃんと返して下さいね。 表紙はPhoto AC様よりお借りしております。

【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】 王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。 父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。 やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。 これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。 冒険あり商売あり。 さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。 (話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

稀代の悪女として処刑されたはずの私は、なぜか幼女になって公爵様に溺愛されています

水谷繭
ファンタジー
グレースは皆に悪女と罵られながら処刑された。しかし、確かに死んだはずが目を覚ますと森の中だった。その上、なぜか元の姿とは似ても似つかない幼女の姿になっている。 森を彷徨っていたグレースは、公爵様に見つかりお屋敷に引き取られることに。初めは戸惑っていたグレースだが、都合がいいので、かわい子ぶって公爵家の力を利用することに決める。 公爵様にシャーリーと名付けられ、溺愛されながら過ごすグレース。そんなある日、前世で自分を陥れたシスターと出くわす。公爵様に好意を持っているそのシスターは、シャーリーを世話するという口実で公爵に近づこうとする。シスターの目的を察したグレースは、彼女に復讐することを思いつき……。 ◇画像はGirly Drop様からお借りしました ◆エール送ってくれた方ありがとうございます!

この度、猛獣公爵の嫁になりまして~厄介払いされた令嬢は旦那様に溺愛されながら、もふもふ達と楽しくモノづくりライフを送っています~

柚木崎 史乃
ファンタジー
名門伯爵家の次女であるコーデリアは、魔力に恵まれなかったせいで双子の姉であるビクトリアと比較されて育った。 家族から疎まれ虐げられる日々に、コーデリアの心は疲弊し限界を迎えていた。 そんな時、どういうわけか縁談を持ちかけてきた貴族がいた。彼の名はジェイド。社交界では、「猛獣公爵」と呼ばれ恐れられている存在だ。 というのも、ある日を境に文字通り猛獣の姿へと変わってしまったらしいのだ。 けれど、いざ顔を合わせてみると全く怖くないどころか寧ろ優しく紳士で、その姿も動物が好きなコーデリアからすれば思わず触りたくなるほど毛並みの良い愛らしい白熊であった。 そんな彼は月に数回、人の姿に戻る。しかも、本来の姿は類まれな美青年なものだから、コーデリアはその度にたじたじになってしまう。 ジェイド曰くここ数年、公爵領では鉱山から流れてくる瘴気が原因で獣の姿になってしまう奇病が流行っているらしい。 それを知ったコーデリアは、瘴気の影響で不便な生活を強いられている領民たちのために鉱石を使って次々と便利な魔導具を発明していく。 そして、ジェイドからその才能を評価され知らず知らずのうちに溺愛されていくのであった。 一方、コーデリアを厄介払いした家族は悪事が白日のもとに晒された挙句、王家からも見放され窮地に追い込まれていくが……。 これは、虐げられていた才女が嫁ぎ先でその才能を発揮し、周囲の人々に無自覚に愛され幸せになるまでを描いた物語。 他サイトでも掲載中。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

所詮、わたしは壁の花 〜なのに辺境伯様が溺愛してくるのは何故ですか?〜

しがわか
ファンタジー
刺繍を愛してやまないローゼリアは父から行き遅れと罵られていた。 高貴な相手に見初められるために、とむりやり夜会へ送り込まれる日々。 しかし父は知らないのだ。 ローゼリアが夜会で”壁の花”と罵られていることを。 そんなローゼリアが参加した辺境伯様の夜会はいつもと雰囲気が違っていた。 それもそのはず、それは辺境伯様の婚約者を決める集まりだったのだ。 けれど所詮”壁の花”の自分には関係がない、といつものように会場の隅で目立たないようにしているローゼリアは不意に手を握られる。 その相手はなんと辺境伯様で——。 なぜ、辺境伯様は自分を溺愛してくれるのか。 彼の過去を知り、やがてその理由を悟ることとなる。 それでも——いや、だからこそ辺境伯様の力になりたいと誓ったローゼリアには特別な力があった。 天啓<ギフト>として女神様から賜った『魔力を象るチカラ』は想像を創造できる万能な能力だった。 壁の花としての自重をやめたローゼリアは天啓を自在に操り、大好きな人達を守り導いていく。

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@コミカライズ発売中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

処理中です...