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44. 彼もお兄様も元気です
しおりを挟むジョーの傷口の消毒をして一階に降りると、ソフィアさんが治療院の片付けをしていた。疫病の流行も完全に落ち着き、この街には平穏が訪れている。
ソフィアさんは私に気付き、片付けの手を休めて笑顔で告げた。
「アンちゃんが戻ってきてくれて、嬉しいわ」
「私もです。ありがとうございます!」
私はソフィアさんに迷惑をかけてばかりだ。今回だって、ポーレット領に帰ると言い出したり、お兄様やジョーを二階に泊めたり……こんな私の暴走を、ソフィアさんは受け止めてくれた。こんなに優しい人は、どこを探しても他には見つからないと思う。
「アンちゃんのお母様の本、凄いわね」
目を輝かせるソフィアさんを見て、お母様のことを自慢に思った。
「はい。あの本は母の実験中の記録だったみたいで……書いてあることは、正式には認められていないのですが……」
それでも、お母様はすごい。最年少で王宮薬師長になっただけの腕はあるのだ。そして、私ももっと頑張らねばと励みになった。
今回の一件についても、お母様のおかげでジョーを助けることが出来た。きっと、お母様は天国で喜んでくださっているだろう。
「それにしても、お姫様のキスで目を覚ますなんて、素敵ね」
それを聞いてかあっと血が顔に上る。治療中は必死で、そんな気にもならなかったのも事実だが。
どちらにせよ、ジョーが生きていてくれて、本当に嬉しい。
「私はこのまま、オストワルに残ろうと思います。
これからも、よろしくお願いします」
頭を下げる私を見て、ソフィアさんは嬉しそうに笑ってくれた。
私は、この地でお母様に負けないようなすごい薬師になろうと思う。そして、ジョーとともに幸せになるのだ。
ソフィアさんと談笑していると、薬草園へ散歩に出かけて行ったお兄様が帰ってきた。手にはなぜか、大量の焼き菓子やらチョコレートやらを持っている。
「ど、どうされたのですか?」
思わず聞くと、お兄様は嬉しそうに教えてくれた。
「僕、どうやらこの地で人気者みたいで。
ジョーを救ったアンの兄って言われて、たくさんお礼もらったんだよ」
一番の人気者は、この街を守っているジョーなのかもしれないが……お兄様が嬉しそうなので、何も言わないでおくことにした。
「ジョーにあげたら喜ぶかな?」
「駄目です。チョコレートを食べると、痛み止めの効果が落ちてしまいますから」
そうやってお兄様を嗜めながらも、幸せだなあと思った。こうやって、ジョーやお兄様が生きてくれているだけで、私はとても幸せだ。
「さあ、お兄様!二階に上がってください。
明日からはリハビリとして、さらに動いてもらいますよ。
……ジョーが元気になったら、一緒に剣の練習をするのもいいですね」
「ジョーは駄目だよ。
どうせ僕、ジョーにボコボコにやられるから」
お兄様はそう言い残して、ジョーとお兄様のベッドのある二階へ上がっていった。私はお兄様が消えていった階段を見上げながら微笑んでいた。
お兄様のことは好きだし、お兄様は危険を犯してまで私を守ってくれた。でも、私の心はジョーとともにある。
こうやって、ジョーの近くにいて、その顔を見ているだけで幸せだと思う。私は、ジョーと一緒にいられて、すごくすごく幸せだ。
「アンちゃんも看病しっぱなしで疲れているでしょう。今日は早く帰ってゆっくり休んでね」
ソフィアさんの心遣いは嬉しいが、私にはまだたくさん仕事が残っている。
お兄様とともに戦ってくれたポーレット領の騎士たちの多くも、怪我を負っていた。私は薬師として、皆を元気にしたい。
「ありがとうございます。
ですが、これから騎士団本部に行ってきます。
騎士団の宿舎にいるポーレット領の騎士たちの様子も診てこないと!」
私はソフィアさんに頭を下げ、騎士団本部に向かう。街を走る私を見て、人々が
「アンちゃん、お帰り!」
なんて嬉しい声をかけてくれた。
ここが私の居場所なのだとしみじみ感じる。
「ただいま!これからも、よろしくお願いします!」
私は元気に答えていた。
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