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38. ピンチかもしれません
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隣にお兄様が座り、馬車の扉が閉められる。まるで私の自由な空間が閉ざされたような錯覚に陥る。
窓から外を覗くと、並んでお辞儀をするオストワル辺境伯領騎士団の先頭に、同じように頭を下げるジョーの姿が見えた。
止めどなく溢れる涙をもう拭くことも出来ず、ひたすらジョーを思った。
ジョー、大好きだった。ジョーが駆け落ちしようと言った時、一緒に駆け落ちをしておけば良かった。唯一の家族であるお兄様と暮らせるのは嬉しいけど、ジョーがいない世界は色を失ったみたいだ。
馬車は市街地を抜け、大きな門をくぐる。そして、のどかな田園地帯へと差しかかる。
私がこの地を訪れた時は、ジョーと一緒に馬に乗っていた。ジョーが優しく抱き止めてくれていて、心臓が止まりそうなほどドキドキしていた。
「ジョセフ様が好きだったんだね」
お兄様が遠慮がちに言う。
「僕はアンと暮らせるのは嬉しいけど、アンがそんなに泣かれては辛い」
「すみません、お兄様」
そう告げるのに、涙は止まることなくどんどん溢れてくる。
私は駄目な女だ。ジョーにも、お兄様にも心配をかけて。
「アン……君が望むのなら、オストワル辺境伯領に残ってもいいんだよ」
私はお兄様を見た。涙で霞んで見えるお兄様は、少し寂しそうな顔をして私を見ている。
「ジョセフ様の言葉を待つのではなくて、アン自身が決めないと」
お兄様の言葉にはっとした。
私は、ジョーが何も言ってくれないと、やけになってポーレット侯爵領に帰ることを決めてしまった。だが、本心はジョーと残りたいと思っていた。
そうやって、私が帰る責任をジョーに押し付けていたのだ。
「お兄様……ごめんなさい……」
そう告げた時だった。
不意に外が騒がしいことに気付いた。人の叫び声や馬の鳴き声が聞こえる。
咄嗟に窓の外を見た私は青ざめた。
銀色の鎧のポーレット領騎士団は、馬に乗ったまま剣を構えている。その先には、黒色の鎧を着た騎士たちが同じように剣を構えているのだ。しかも、黒色の騎士団は数の上では圧倒的にポーレット領騎士団に優っている。
そのうち、端の方では討ち合いが始まり、ポーレット領の騎士がどんどん倒されていくのだ。
「お兄様!!」
怖くなった私は、お兄様に身を寄せた。震える私を抱き寄せながら、お兄様は腰に差してある剣に手を伸ばす。
「僕たちは、はじめから狙われていたんだ……」
お兄様は今までの能天気な声ではなくて、低くて警戒するような声で告げる。
「オストワル辺境伯領騎士団があまりに強いから近寄れなかっただけで、ずっと待ち伏せされていたのかもしれない」
オストワル辺境伯領騎士団と聞いて、胸がズキっとした。
オストワル辺境伯領を離れた私はジョーに助けを求められないだけではなく……このまま殺されてしまうのかもしれない。
「アン。これも全て僕の責任だ」
嘆くお兄様に、
「そんなことありません!」
私は告げる。
「私はお兄様に会えて、すごくすごく嬉しかったです。
お兄様と幸せに暮らせると思っていました。
でも、やっぱりジョセフ様が好きなのです」
お兄様は、悲しそうに私を見る。私は、ジョーだけではなく、お兄様にもこんな顔をさせて、駄目な女だ。
「私は、オストワル辺境伯領に戻りたい。それでいて、お兄様も幸せに生きていただきたい。
ですから……必ず生きてください!」
窓から外を覗くと、並んでお辞儀をするオストワル辺境伯領騎士団の先頭に、同じように頭を下げるジョーの姿が見えた。
止めどなく溢れる涙をもう拭くことも出来ず、ひたすらジョーを思った。
ジョー、大好きだった。ジョーが駆け落ちしようと言った時、一緒に駆け落ちをしておけば良かった。唯一の家族であるお兄様と暮らせるのは嬉しいけど、ジョーがいない世界は色を失ったみたいだ。
馬車は市街地を抜け、大きな門をくぐる。そして、のどかな田園地帯へと差しかかる。
私がこの地を訪れた時は、ジョーと一緒に馬に乗っていた。ジョーが優しく抱き止めてくれていて、心臓が止まりそうなほどドキドキしていた。
「ジョセフ様が好きだったんだね」
お兄様が遠慮がちに言う。
「僕はアンと暮らせるのは嬉しいけど、アンがそんなに泣かれては辛い」
「すみません、お兄様」
そう告げるのに、涙は止まることなくどんどん溢れてくる。
私は駄目な女だ。ジョーにも、お兄様にも心配をかけて。
「アン……君が望むのなら、オストワル辺境伯領に残ってもいいんだよ」
私はお兄様を見た。涙で霞んで見えるお兄様は、少し寂しそうな顔をして私を見ている。
「ジョセフ様の言葉を待つのではなくて、アン自身が決めないと」
お兄様の言葉にはっとした。
私は、ジョーが何も言ってくれないと、やけになってポーレット侯爵領に帰ることを決めてしまった。だが、本心はジョーと残りたいと思っていた。
そうやって、私が帰る責任をジョーに押し付けていたのだ。
「お兄様……ごめんなさい……」
そう告げた時だった。
不意に外が騒がしいことに気付いた。人の叫び声や馬の鳴き声が聞こえる。
咄嗟に窓の外を見た私は青ざめた。
銀色の鎧のポーレット領騎士団は、馬に乗ったまま剣を構えている。その先には、黒色の鎧を着た騎士たちが同じように剣を構えているのだ。しかも、黒色の騎士団は数の上では圧倒的にポーレット領騎士団に優っている。
そのうち、端の方では討ち合いが始まり、ポーレット領の騎士がどんどん倒されていくのだ。
「お兄様!!」
怖くなった私は、お兄様に身を寄せた。震える私を抱き寄せながら、お兄様は腰に差してある剣に手を伸ばす。
「僕たちは、はじめから狙われていたんだ……」
お兄様は今までの能天気な声ではなくて、低くて警戒するような声で告げる。
「オストワル辺境伯領騎士団があまりに強いから近寄れなかっただけで、ずっと待ち伏せされていたのかもしれない」
オストワル辺境伯領騎士団と聞いて、胸がズキっとした。
オストワル辺境伯領を離れた私はジョーに助けを求められないだけではなく……このまま殺されてしまうのかもしれない。
「アン。これも全て僕の責任だ」
嘆くお兄様に、
「そんなことありません!」
私は告げる。
「私はお兄様に会えて、すごくすごく嬉しかったです。
お兄様と幸せに暮らせると思っていました。
でも、やっぱりジョセフ様が好きなのです」
お兄様は、悲しそうに私を見る。私は、ジョーだけではなく、お兄様にもこんな顔をさせて、駄目な女だ。
「私は、オストワル辺境伯領に戻りたい。それでいて、お兄様も幸せに生きていただきたい。
ですから……必ず生きてください!」
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