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36. 帰郷の日は、どんどん近付きます
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お兄様の足は順調に回復した。嫌々ながらに薬を飲み、鍼治療を受け、まだ走れるまでには回復していないが、違和感なく歩けるようにはなっていた。
これから足が完全に回復するまでは、申し訳ないがまずい薬を続けてもらわなければならない。
「アンのおかげだよ!本当にありがとう!」
お兄様はそう言って、嬉しそうに飛び跳ねる。慌てた私は、
「お兄様!まだ安静にしていてください。
足に負荷をかけないように!」
必死で止めた。
正直治るか不安だったが、ここまで元気になってくれて嬉しかった。
そして、あまり治療院に来なくなったジョーに変わって、お兄様が薬草園の水やりや片付けをしてくれる。その心遣いは嬉しいのだが、ジョーに会う頻度が減ってしまったのは寂しかった。
そして、ジョーとの別れも刻一刻と迫ってきている。ジョーは予想以上にダメージを負っていないようで、それがまた私を苦しめた。
「アン、僕も元気になってきたから、週末には帰ろうと思う。
これ以上領地を留守にしてはいけないからね」
「分かりました」
そう答えながら、このオストワル辺境伯領にいられるのもあと少しかと寂しく思う。
私は、このオストワル辺境伯領が大好きだった。自然に恵まれ、優しい人たちに囲まれ、ジョーがいて……だけどこの地から私がいなくなっても、ジョーをはじめとする人々は、いつも通りの日々を過ごすのだろう。
「アンちゃんがいなくなるなんて寂しいわ」
ソフィアさんが悲しそうな顔をする。
「アンちゃんのおかげでこの地の人々は救われたし、私だってすごく勉強になったわ」
「ありがとうございます」
私のほうが、ソフィアさんに感謝してもしきれないほどだ。
急に現れた見ず知らずの私を雇ってくれたし、年下で後輩の生意気な私の意見も聞いてくれた。……素直に認めてくれた。
「私こそ、ありがとうございました。
ソフィアさんにお会い出来て良かったです」
本当に、心からそう思う。ソフィアさんが私を受け入れてくれたから、今の私がいるのだ。
だけど……欲を言うと、ジョーからもそんな言葉を聞きたかった。私がいなくなると寂しいとか……行かないで欲しいとか。私のことを好きだと言ったのに、今のジョーは私を避けているほどだ。
「アンちゃん、最近元気ないけど大丈夫?」
ソフィアさんが遠慮がちに聞く。元気がないのは分かっていたが、必死でなんでもないふりをしていた。だけど、ソフィアさんには分かってしまっていたのだ。
「すみません、みなさんとお別れするのが寂しくて……
でも、これから元気に頑張ります!」
「そう……」
ソフィアさんは、なおもじっと私を見つめている。心の奥底まで見透かされてしまいそうな錯覚に陥り、わざと元気な笑顔を作った。
「アンちゃんは、ジョセフ様が好きなのね」
ソフィアさんの急な言葉に、
「えっ!?」
思わず声を上げてしまった。そして、その言葉を理解すると同時にかぁーっと顔に血が上る。
私は、ソフィアさんにジョーとの恋愛話をしたことはない。それなのに、ソフィアさんは知っていたのだ。
「ちっ、違います!」
慌てて否定するが、ソフィアさんは楽しそうで、それでいてせつなげな瞳で私を見ている。
「ジョセフ様がアンちゃんを大好きなのは知っていたけど、ジョセフ様が来なくなってから、アンちゃんはずっと暗いわ」
ソフィアさんにはバレバレだったのだ。私は間違いなくジョーに恋しているし、会えなくて寂しい。だけど、これからもずっと会えない日が続くのだ。
「ねえ、アンちゃん。
……悪いこと言わないから、オストワルに残らない?
そのほうが、ジョセフ様にとってもアンちゃんにとっても幸せだと思うよ」
きっと、私にとっては幸せだろう。だけど、こうやって引き止めてくれるのはいつもソフィアさんや街の人で、ジョーからはそんな話さえ聞いたことがない。
それが、私が悩んでいる一番の理由だ。
「ジョーは、私がいなくてもきっと平気です」
そうだよね。最強の騎士団長が、一人の女性がいなくなるだけで心を痛めていたら、騎士団は成り立たないだろう。
ソフィアさんは、なおも
「そんなことないと思うけどなぁ……」
なんて譲らなかったが、そんな言葉をジョーの口から聞きたかったものだ。
「ソフィアさんに、手紙を書きますね。
ポーレット領の近くに来られることがあったら、ぜひ遊びに来てください!」
努めて元気に振る舞った。
これから足が完全に回復するまでは、申し訳ないがまずい薬を続けてもらわなければならない。
「アンのおかげだよ!本当にありがとう!」
お兄様はそう言って、嬉しそうに飛び跳ねる。慌てた私は、
「お兄様!まだ安静にしていてください。
足に負荷をかけないように!」
必死で止めた。
正直治るか不安だったが、ここまで元気になってくれて嬉しかった。
そして、あまり治療院に来なくなったジョーに変わって、お兄様が薬草園の水やりや片付けをしてくれる。その心遣いは嬉しいのだが、ジョーに会う頻度が減ってしまったのは寂しかった。
そして、ジョーとの別れも刻一刻と迫ってきている。ジョーは予想以上にダメージを負っていないようで、それがまた私を苦しめた。
「アン、僕も元気になってきたから、週末には帰ろうと思う。
これ以上領地を留守にしてはいけないからね」
「分かりました」
そう答えながら、このオストワル辺境伯領にいられるのもあと少しかと寂しく思う。
私は、このオストワル辺境伯領が大好きだった。自然に恵まれ、優しい人たちに囲まれ、ジョーがいて……だけどこの地から私がいなくなっても、ジョーをはじめとする人々は、いつも通りの日々を過ごすのだろう。
「アンちゃんがいなくなるなんて寂しいわ」
ソフィアさんが悲しそうな顔をする。
「アンちゃんのおかげでこの地の人々は救われたし、私だってすごく勉強になったわ」
「ありがとうございます」
私のほうが、ソフィアさんに感謝してもしきれないほどだ。
急に現れた見ず知らずの私を雇ってくれたし、年下で後輩の生意気な私の意見も聞いてくれた。……素直に認めてくれた。
「私こそ、ありがとうございました。
ソフィアさんにお会い出来て良かったです」
本当に、心からそう思う。ソフィアさんが私を受け入れてくれたから、今の私がいるのだ。
だけど……欲を言うと、ジョーからもそんな言葉を聞きたかった。私がいなくなると寂しいとか……行かないで欲しいとか。私のことを好きだと言ったのに、今のジョーは私を避けているほどだ。
「アンちゃん、最近元気ないけど大丈夫?」
ソフィアさんが遠慮がちに聞く。元気がないのは分かっていたが、必死でなんでもないふりをしていた。だけど、ソフィアさんには分かってしまっていたのだ。
「すみません、みなさんとお別れするのが寂しくて……
でも、これから元気に頑張ります!」
「そう……」
ソフィアさんは、なおもじっと私を見つめている。心の奥底まで見透かされてしまいそうな錯覚に陥り、わざと元気な笑顔を作った。
「アンちゃんは、ジョセフ様が好きなのね」
ソフィアさんの急な言葉に、
「えっ!?」
思わず声を上げてしまった。そして、その言葉を理解すると同時にかぁーっと顔に血が上る。
私は、ソフィアさんにジョーとの恋愛話をしたことはない。それなのに、ソフィアさんは知っていたのだ。
「ちっ、違います!」
慌てて否定するが、ソフィアさんは楽しそうで、それでいてせつなげな瞳で私を見ている。
「ジョセフ様がアンちゃんを大好きなのは知っていたけど、ジョセフ様が来なくなってから、アンちゃんはずっと暗いわ」
ソフィアさんにはバレバレだったのだ。私は間違いなくジョーに恋しているし、会えなくて寂しい。だけど、これからもずっと会えない日が続くのだ。
「ねえ、アンちゃん。
……悪いこと言わないから、オストワルに残らない?
そのほうが、ジョセフ様にとってもアンちゃんにとっても幸せだと思うよ」
きっと、私にとっては幸せだろう。だけど、こうやって引き止めてくれるのはいつもソフィアさんや街の人で、ジョーからはそんな話さえ聞いたことがない。
それが、私が悩んでいる一番の理由だ。
「ジョーは、私がいなくてもきっと平気です」
そうだよね。最強の騎士団長が、一人の女性がいなくなるだけで心を痛めていたら、騎士団は成り立たないだろう。
ソフィアさんは、なおも
「そんなことないと思うけどなぁ……」
なんて譲らなかったが、そんな言葉をジョーの口から聞きたかったものだ。
「ソフィアさんに、手紙を書きますね。
ポーレット領の近くに来られることがあったら、ぜひ遊びに来てください!」
努めて元気に振る舞った。
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