追放された薬師は、辺境の地で騎士団長に愛でられる

Mee.

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30. 彼に絆されています

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 やがて、ジョーは屋上に辿り着いた。明るい光が急に押し寄せ、目の前が真っ白になる。そしてそれが次第に晴れてくると……目の前には、遠くまで続く街とその向こうの緑の平原、さらにその奥の山々が見えた。
 初めて見るオストワルの街は、とても壮大でとても美しかった。私はこの街が好きだと心から思う。美しくて温かい、この街が。

 ジョーはそっと私を地面に下ろし、後ろからぎゅっと抱きしめる。離してくれたと思ったのに、また捕えられてしまった。私の鼓動は高鳴りっぱなしだ。



 ぎゅっとされたまま、耳元でジョーが話す。

「俺はあの山の中で、アンに会ったんだ。
 アンに会ってから、俺はいろんなことを学んだ。女性には興味がなかったが、アンには初めて添い遂げたいと思った」

「何言ってるの。……私がジョーを助けたからでしょ?」

 必死に呑まれないように抵抗する私だが、これも無駄な抵抗に終わるのだろう。
 ジョーは私をぎゅっと抱きしめたまま、続ける。

「俺は、アンが薬師としてプライドを持っているところや、患者を絶対に見離さないところも尊敬している。
 街の人とも仲良しで、誰もがアンと話をするのを楽しみにしている。
 アンは、俺が持っていないものをたくさん持っている」

 まさか、ジョーが私のことをそんな風に見てくれていたなんて。尊敬だなんて、とんでもない。だけど、ジョーにそんなことを言われてにやけてしまうのも事実だ。
 だけど言われっぱなしの私は、反撃に出た。ジョーにもいいところはたくさんある。ジョーには分かって欲しい……


「私は王宮に勤めていたから、遠いオストワル辺境伯領の話はよく知らなかったの。ただ、すごく強い騎士団と、すごく強い騎士団長がいるということくらいしか。
 そのすごく強い騎士団長は、怖くて冷たくって、戦いしか能がないのだろうと思っていた。

 ジョーは優しいし、いつも私を守ってくれるし、女の子扱いしてくれる。私みたいなただの平民に向かって。

 私、女の子で良かったって初めて思った。こんなにも、ジョーに大切にされて……」


 思わず溢すと、唇を塞がれた。一瞬何が起こったのか分からなかった。それで、少しずつ状況を理解していにつれ、体が熱を持ち始める。
 ジョーが触れる体が熱い。唇がとろけそうだ。そして、胸がきゅんきゅん言っておかしい。

 そっと唇を離したジョーは、甘く切ない声で告げた。

「アン。俺は恋に堕ちている」

 そんなに甘い声で言わないで。そんなに真っ直ぐに言わないで。ますます離れられなくなってしまうから。
 私も、ジョーのことが大好きだ。




「アン。君の家族のことが、少し分かった」

 ジョーは私を後ろから抱きしめたまま、頬を寄せる。触れた頬がかあっと熱くなる。

「俺は君の兄に、手紙を出した。もうそろそろ兄から返事が来る頃だろう。
 兄もきっと、君のことをずっと気にかけているだろう、アン•ポーレット嬢」

「……ポーレット?」

 思わず聞き返していた。 
 平民で家族のいない私は、自分がアンという名前だということしか知らなかった。私は、アン•ポーレットというのだろうか。
 そして、ポーレットという姓もどこかで聞いたことがある気がするが、思い出せないのだった。

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