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22. 黒い騎士に探されています
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次の日……
私に興味があるという男性と会うため、私は待ち合わせ場所に向かっていた。そもそも、私に興味があるということ自体不思議だ。私はこの街の薬師として成功し始めたから、金目的だろうか。それとも、ジョーに付きまとわれているからだろうか。
いずれにせよ、王都にいる時は恋愛になんて無関係であったし、モテるタイプではないと自覚している。
そんな私に、ジョー以外に興味を示す人がいるなんて。いや、ジョーですら、私が恩人だから大切にしているだけかもしれない。
それに、昨日のジョーの言葉を思い出して胸が痛んだ。ジョーは自分の身分を投げ打ってまで、私と一緒にいたいと言ってくれた。それがどこまで本心なのかは分からないが、あの時のジョーの泣きそうな顔……そう、王都の騎士団長よりも強いと言われているようなジョーの泣きそうな顔を思い出すと、胸がぎゅーっと絞られたように痛むのだ。
だけど、世間では貴族と平民の恋は御法度とされている。それでも仮に結婚したとしても、生活レベルに差がありすぎて駄目になってしまうかもしれないだろう。
現時点では、ジョーは私に合わせて皿洗いや薬草園の水撒きなんかをしてくれるが、元々はそんなこととは無縁の人種なのだ。
いっそのこと、ジョーに嫌われてしまえばいい。……いや、嫌われるなんて、絶対に無理だ。
そんなことを延々と考えながら待ち合わせ場所に近付く。お花畑の前のベンチだ。ジョーと訪れることが出来たら、どんなに素敵な場所だろう。
だけどその場所には、見慣れない黒い鎧に身を包んだ騎士が二人立っていたのだ。
太陽の光に黒光する鎧に、兜まで被っている。この重装備は、遠方から来たためだろうか。それとも、オストワル辺境伯領の騎士団が強いための抵抗策だろうか。
いずれにせよ、オストワル辺境伯領騎士団でないことは確かだった。そして彼らは、きょろきょろと辺りを探している。
まさかとは思うが、私……ではないよね?
心臓が嫌な音を立て始めた。
反射的に、近くの建物の陰に隠れて様子を見る。すると、彼らの会話が聞こえてきた。
「いないな。この国にすごい薬師が来たと聞き、彼女だろうと思ったのだが」
「街の人に聞いてみるか」
まさかとは思ったが、本当に私のことらしい。この人たちは私を捕まえて、一体どうするつもりなのだろうか。
濡れ衣を着せて申し訳なかったと謝られるのだろうか。それとも、私の存在を消すためにやってきたのだろうか。
いずれにせよ、私はこの地に来てからとても幸せだ。もちろん、ジョーとの叶わない恋は辛いのだが。だから王都には帰るつもりはないし、殺されるのはもっと御免だった。
とにかく、見つかりませんようにと必死で祈る。
そんななか……
「見慣れぬ奴だな。お前らは何者だ?」
私を焦がして甘く溶かす、その声が聞こえた。その声が聞こえた瞬間、身体中が熱くなる。そして、ホッとして泣きそうになった。
建物の隙間から覗くと、二人の黒い鎧の騎士の前に、いつもの隊服を着たジョーが立っている。その顔は厳しく、腰に差した剣には手がかかっていた。
「名乗って欲しいなら、お前から名乗れ」
馬鹿なのか用心深いのか、黒い騎士二人はジョーに向かって喧嘩を売っている。だからジョーは剣に手を当てたまま告げた。
「俺は、オストワル辺境伯領騎士団長、ジョセフ•グランヴォル」
その瞬間、黒い騎士たちは明らかに動揺して一歩、いや五歩くらい後ずさりする。カシャンカシャンと金属の触れ合う音を響かせながら。冗談みたいなこの光景を見て、騎士団長ジョセフの名はこの国共通の恐怖の対象であることに、改めて気付く。
黒い騎士たちは明らかに挙動不審になった。そこまでジョーの存在が怖いのだろう。だけど平静を装ったが少し震えた声で、急に敬語になってジョーに聞くのだ。
「わっ、私たちは、とある男性の私兵です。きょ、今日はある女を探してこの地に参りました。
……騎士団長ジョセフ様。王宮薬師のアンを知りませんか?」
えっ!?大声を出しそうになって、慌てて口を噤んだ。嫌な胸騒ぎが止まらない。そしてすごく怖い。
この人たちは、やっぱり私を探していたのだ。とある侯爵の私兵ということは、国王軍の騎士ではないということ……?
しかも、私が王宮薬師だったことを、ジョーに言ってしまうし!!
震える私に気付いていないジョーは、鋭い目つきでじろじろと二人の黒い騎士を見ている。
ジョーはなんて答えるのだろう。知っていると答えたら、私はどうなってしまうのだろう。
「知らない」
ジョーは凄みのある低い声で、吐き出すように彼らに言う。その声には、怒りすら感じられた。
「オストワルの地を荒らし詮索するのもは、我が騎士団の敵とみなす。
お前ら、そのツラ二度と俺の前に見せるな!」
その言葉を合図に、二人の黒い騎士はわーっと叫び声を上げながら逃げていった。隊服のジョーを前に、重装備をしているのに。
そんな様子をぽかーんと見ながら、今はデートどころではないことに気付く。この人たちの目的は分からないが、早く安全なところに避難しなきゃだ。
ジョーはすでに私に背を向け、領主館の中に入ろうとしている。オストワル辺境伯に報告でもしに行くのだろう。怖くてジョーに駆け寄りたい衝動に駆られたが、ジョーの手を煩わせてはいけないと思い、ひとまず治療院へ戻ることにした。
オストワル辺境伯が私の冤罪について知ったら、どうされるのだろう。せっかく安心して暮らせるこの地を見つけたのに、また追放されるのだろうか。胸がずきんと痛んだ。
私に興味があるという男性と会うため、私は待ち合わせ場所に向かっていた。そもそも、私に興味があるということ自体不思議だ。私はこの街の薬師として成功し始めたから、金目的だろうか。それとも、ジョーに付きまとわれているからだろうか。
いずれにせよ、王都にいる時は恋愛になんて無関係であったし、モテるタイプではないと自覚している。
そんな私に、ジョー以外に興味を示す人がいるなんて。いや、ジョーですら、私が恩人だから大切にしているだけかもしれない。
それに、昨日のジョーの言葉を思い出して胸が痛んだ。ジョーは自分の身分を投げ打ってまで、私と一緒にいたいと言ってくれた。それがどこまで本心なのかは分からないが、あの時のジョーの泣きそうな顔……そう、王都の騎士団長よりも強いと言われているようなジョーの泣きそうな顔を思い出すと、胸がぎゅーっと絞られたように痛むのだ。
だけど、世間では貴族と平民の恋は御法度とされている。それでも仮に結婚したとしても、生活レベルに差がありすぎて駄目になってしまうかもしれないだろう。
現時点では、ジョーは私に合わせて皿洗いや薬草園の水撒きなんかをしてくれるが、元々はそんなこととは無縁の人種なのだ。
いっそのこと、ジョーに嫌われてしまえばいい。……いや、嫌われるなんて、絶対に無理だ。
そんなことを延々と考えながら待ち合わせ場所に近付く。お花畑の前のベンチだ。ジョーと訪れることが出来たら、どんなに素敵な場所だろう。
だけどその場所には、見慣れない黒い鎧に身を包んだ騎士が二人立っていたのだ。
太陽の光に黒光する鎧に、兜まで被っている。この重装備は、遠方から来たためだろうか。それとも、オストワル辺境伯領の騎士団が強いための抵抗策だろうか。
いずれにせよ、オストワル辺境伯領騎士団でないことは確かだった。そして彼らは、きょろきょろと辺りを探している。
まさかとは思うが、私……ではないよね?
心臓が嫌な音を立て始めた。
反射的に、近くの建物の陰に隠れて様子を見る。すると、彼らの会話が聞こえてきた。
「いないな。この国にすごい薬師が来たと聞き、彼女だろうと思ったのだが」
「街の人に聞いてみるか」
まさかとは思ったが、本当に私のことらしい。この人たちは私を捕まえて、一体どうするつもりなのだろうか。
濡れ衣を着せて申し訳なかったと謝られるのだろうか。それとも、私の存在を消すためにやってきたのだろうか。
いずれにせよ、私はこの地に来てからとても幸せだ。もちろん、ジョーとの叶わない恋は辛いのだが。だから王都には帰るつもりはないし、殺されるのはもっと御免だった。
とにかく、見つかりませんようにと必死で祈る。
そんななか……
「見慣れぬ奴だな。お前らは何者だ?」
私を焦がして甘く溶かす、その声が聞こえた。その声が聞こえた瞬間、身体中が熱くなる。そして、ホッとして泣きそうになった。
建物の隙間から覗くと、二人の黒い鎧の騎士の前に、いつもの隊服を着たジョーが立っている。その顔は厳しく、腰に差した剣には手がかかっていた。
「名乗って欲しいなら、お前から名乗れ」
馬鹿なのか用心深いのか、黒い騎士二人はジョーに向かって喧嘩を売っている。だからジョーは剣に手を当てたまま告げた。
「俺は、オストワル辺境伯領騎士団長、ジョセフ•グランヴォル」
その瞬間、黒い騎士たちは明らかに動揺して一歩、いや五歩くらい後ずさりする。カシャンカシャンと金属の触れ合う音を響かせながら。冗談みたいなこの光景を見て、騎士団長ジョセフの名はこの国共通の恐怖の対象であることに、改めて気付く。
黒い騎士たちは明らかに挙動不審になった。そこまでジョーの存在が怖いのだろう。だけど平静を装ったが少し震えた声で、急に敬語になってジョーに聞くのだ。
「わっ、私たちは、とある男性の私兵です。きょ、今日はある女を探してこの地に参りました。
……騎士団長ジョセフ様。王宮薬師のアンを知りませんか?」
えっ!?大声を出しそうになって、慌てて口を噤んだ。嫌な胸騒ぎが止まらない。そしてすごく怖い。
この人たちは、やっぱり私を探していたのだ。とある侯爵の私兵ということは、国王軍の騎士ではないということ……?
しかも、私が王宮薬師だったことを、ジョーに言ってしまうし!!
震える私に気付いていないジョーは、鋭い目つきでじろじろと二人の黒い騎士を見ている。
ジョーはなんて答えるのだろう。知っていると答えたら、私はどうなってしまうのだろう。
「知らない」
ジョーは凄みのある低い声で、吐き出すように彼らに言う。その声には、怒りすら感じられた。
「オストワルの地を荒らし詮索するのもは、我が騎士団の敵とみなす。
お前ら、そのツラ二度と俺の前に見せるな!」
その言葉を合図に、二人の黒い騎士はわーっと叫び声を上げながら逃げていった。隊服のジョーを前に、重装備をしているのに。
そんな様子をぽかーんと見ながら、今はデートどころではないことに気付く。この人たちの目的は分からないが、早く安全なところに避難しなきゃだ。
ジョーはすでに私に背を向け、領主館の中に入ろうとしている。オストワル辺境伯に報告でもしに行くのだろう。怖くてジョーに駆け寄りたい衝動に駆られたが、ジョーの手を煩わせてはいけないと思い、ひとまず治療院へ戻ることにした。
オストワル辺境伯が私の冤罪について知ったら、どうされるのだろう。せっかく安心して暮らせるこの地を見つけたのに、また追放されるのだろうか。胸がずきんと痛んだ。
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