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14. 天下のイケメンが来ました
しおりを挟むそんななか、
「アン!」
ずっと待っていたその声が聞こえた。思わず治療の手を止めて振り返った私は……紅潮していた。
私の記憶の中の彼は、薄汚れたシャツを着ていた。髪もボサボサに逆立っていて……
だが、目の前にいる彼は、記憶の中の彼とは全然違っていた。黒い騎士団の服に身を包み、腰には煌めく剣を携える。金色の髪はきちんと整えられ、その整った顔を一段と際立たせている。天下のイケメン、キタ!!!
あまりのかっこよさにくらくらする私だが、
「アン、頑張ってるんだな」
彼はいつものように私に歩み寄り、頬を緩めて頭を撫でる。
や、やばい。騎士団の彼は一段とかっこよく、顔が真っ赤になってしまう。胸のドキドキが止まらない。彼の甘い視線に耐えられず、思わず目を逸らしてしまう。
こんな私たちを見て、
「きゃ、きゃあーーーっ!!
ジョセフ様が女性に笑いかけてる!!」
「し、信じられないーッ!!」
悲鳴を上げる人々。鼻血を出して倒れてしまう人までいた。
「し、止血しないと!」
私は彼を振り払い、慌てて倒れた人に駆け寄った。そして、鼻にタオルを当てて止血する。
止血しながらも、まだドキドキは止まらなかった。タオルを持つ手が震えていた。
「アン、手を煩わせて悪い。君の様子が心配で、見に来たんだが……」
その言葉は嬉しいが、人々の注目を集めるからやめて欲しい。それに……
「ジョセフ様」
軽々しく彼を呼んではいけないと思いそう呼ぶが、彼はぎょっとした顔をする。なんでそんなに拒否反応を示すのだろうか。
「ジョーでいい。今まで通りでいい。
……今まで通りにしてくれ」
甘く切ない声でそんなこと、言わないで。現実を知りながら、ますます離れられなくなってしまうから。そして、ジョーがそんなに甘いから、今まで通りでいいやなんて思ってしまうから。
ジョーはいつものように、笑顔で頭をそっと撫でてくれる。その大きい手に撫でられながら、私の体は熱くなる。そのまま、頬にもそっと触れる。ぞぞーっと体を甘い戦慄が駆け抜けた。
「また来るから」
しまいには、頬にチュッと口付けをして去っていった。私は腫れてしまいそうに熱い頬を押さえながら、ジョーが出て行った扉を見ていた。いけない、いけないと思いながら。
ジョーはこの街の勇者、ジョセフ騎士団長だった。私に、彼の相手が努まるわけがない。
ぼっと火照る頬を押さえ、私はただ茫然と立ち尽くしていた。
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