上 下
14 / 58

14. 天下のイケメンが来ました

しおりを挟む


 そんななか、

「アン!」

ずっと待っていたその声が聞こえた。思わず治療の手を止めて振り返った私は……紅潮していた。

 私の記憶の中の彼は、薄汚れたシャツを着ていた。髪もボサボサに逆立っていて……
 だが、目の前にいる彼は、記憶の中の彼とは全然違っていた。黒い騎士団の服に身を包み、腰には煌めく剣を携える。金色の髪はきちんと整えられ、その整った顔を一段と際立たせている。天下のイケメン、キタ!!!

 あまりのかっこよさにくらくらする私だが、

「アン、頑張ってるんだな」

彼はいつものように私に歩み寄り、頬を緩めて頭を撫でる。
 や、やばい。騎士団の彼は一段とかっこよく、顔が真っ赤になってしまう。胸のドキドキが止まらない。彼の甘い視線に耐えられず、思わず目を逸らしてしまう。

 こんな私たちを見て、

「きゃ、きゃあーーーっ!!
 ジョセフ様が女性に笑いかけてる!!」

「し、信じられないーッ!!」

 悲鳴を上げる人々。鼻血を出して倒れてしまう人までいた。

「し、止血しないと!」

 私は彼を振り払い、慌てて倒れた人に駆け寄った。そして、鼻にタオルを当てて止血する。
 止血しながらも、まだドキドキは止まらなかった。タオルを持つ手が震えていた。

「アン、手を煩わせて悪い。君の様子が心配で、見に来たんだが……」

 その言葉は嬉しいが、人々の注目を集めるからやめて欲しい。それに……

「ジョセフ様」

 軽々しく彼を呼んではいけないと思いそう呼ぶが、彼はぎょっとした顔をする。なんでそんなに拒否反応を示すのだろうか。

「ジョーでいい。今まで通りでいい。
 ……今まで通りにしてくれ」

 甘く切ない声でそんなこと、言わないで。現実を知りながら、ますます離れられなくなってしまうから。そして、ジョーがそんなに甘いから、今まで通りでいいやなんて思ってしまうから。
 
 ジョーはいつものように、笑顔で頭をそっと撫でてくれる。その大きい手に撫でられながら、私の体は熱くなる。そのまま、頬にもそっと触れる。ぞぞーっと体を甘い戦慄が駆け抜けた。

「また来るから」

 しまいには、頬にチュッと口付けをして去っていった。私は腫れてしまいそうに熱い頬を押さえながら、ジョーが出て行った扉を見ていた。いけない、いけないと思いながら。

 ジョーはこの街の勇者、ジョセフ騎士団長だった。私に、彼の相手が努まるわけがない。
 ぼっと火照る頬を押さえ、私はただ茫然と立ち尽くしていた。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

入れ替わった花嫁は元団長騎士様の溺愛に溺れまくる

九日
恋愛
仕事に行こうとして階段から落ちた『かな』。 病院かと思ったそこは、物語の中のような煌びやかな貴族世界だった。 ——って、いきなり結婚式を挙げるって言われても、私もう新婚だし16歳どころかアラサーですけど…… 転んで目覚めたら外見は同じ別人になっていた!? しかも相手は国宝級イケメンの領主様!? アラサーに16歳演じろとか、どんな羞恥プレイですかぁぁぁ———

獣人の世界に落ちたら最底辺の弱者で、生きるの大変だけど保護者がイケオジで最強っぽい。

真麻一花
恋愛
私は十歳の時、獣が支配する世界へと落ちてきた。 狼の群れに襲われたところに現れたのは、一頭の巨大な狼。そのとき私は、殺されるのを覚悟した。 私を拾ったのは、獣人らしくないのに町を支配する最強の獣人だった。 なんとか生きてる。 でも、この世界で、私は最低辺の弱者。

私の婚約者に、私のハイスペックな後輩が絡みまくるお話

下菊みこと
恋愛
自分のことは棚にあげる婚約者vs先輩が大好きすぎる後輩。 婚約者から先輩をもぎ取る略奪愛。 御都合主義のハッピーエンド。 ざまぁは特になし。 小説家になろう様でも投稿しています。

【第2部開始】すべてを奪われたので、今度は幸せになりに行こうと思います

不死じゃない不死鳥(ただのニワトリ)
恋愛
※第二部始まりました。 皇帝の一人娘であるアリシア。 彼女の人生は不幸の連続だった。 大好きだった母は毒殺され、 帰るべき帝国は内戦中。 避難先の王国でも、不遇な扱いをうける辛い日々。 大切な家族も、仲間もいなくなってしまった。 彼女はすべてを奪われたのだ。 これ以上、父には迷惑を掛けられない。 そう思い、アリシアは崖から身を投げる。 脳内に流れるのは、楽しかった日々の映像。 彼女は思った。 これで、もう痛い思いをしなくてすむのだと。 これはそんな少女の物語。 ※設定ゆるめです。 お気に入り、感想いただけると、執筆の励みになります。 誤字多めかもです。申し訳ありません。 少し文章を変えました。 読みにくいなどありましたらご指摘お願いします。 hotランキング入りできました。皆様、本当にありがとうございます

冷酷非情の雷帝に嫁ぎます~妹の身代わりとして婚約者を押し付けられましたが、実は優しい男でした~

平山和人
恋愛
伯爵令嬢のフィーナは落ちこぼれと蔑まれながらも、希望だった魔法学校で奨学生として入学することができた。 ある日、妹のノエルが雷帝と恐れられるライトニング侯爵と婚約することになった。 ライトニング侯爵と結ばれたくないノエルは父に頼み、身代わりとしてフィーナを差し出すことにする。 保身第一な父、ワガママな妹と縁を切りたかったフィーナはこれを了承し、婚約者のもとへと嫁ぐ。 周りから恐れられているライトニング侯爵をフィーナは怖がらず、普通に妻として接する。 そんなフィーナの献身に始めは心を閉ざしていたライトニング侯爵は心を開いていく。 そしていつの間にか二人はラブラブになり、子宝にも恵まれ、ますます幸せになるのだった。

転生したらただの女子生徒Aでしたが、何故か攻略対象の王子様から溺愛されています

平山和人
恋愛
平凡なOLの私はある日、事故にあって死んでしまいました。目が覚めるとそこは知らない天井、どうやら私は転生したみたいです。 生前そういう小説を読みまくっていたので、悪役令嬢に転生したと思いましたが、実際はストーリーに関わらないただの女子生徒Aでした。 絶望した私は地味に生きることを決意しましたが、なぜか攻略対象の王子様や悪役令嬢、更にヒロインにまで溺愛される羽目に。 しかも、私が聖女であることも判明し、国を揺るがす一大事に。果たして、私はモブらしく地味に生きていけるのでしょうか!?

婚約破棄でみんな幸せ!~嫌われ令嬢の円満婚約解消術~

春野こもも
恋愛
わたくしの名前はエルザ=フォーゲル、16才でございます。 6才の時に初めて顔をあわせた婚約者のレオンハルト殿下に「こんな醜女と結婚するなんて嫌だ! 僕は大きくなったら好きな人と結婚したい!」と言われてしまいました。そんな殿下に憤慨する家族と使用人。 14歳の春、学園に転入してきた男爵令嬢と2人で、人目もはばからず仲良く歩くレオンハルト殿下。再び憤慨するわたくしの愛する家族や使用人の心の安寧のために、エルザは円満な婚約解消を目指します。そのために作成したのは「婚約破棄承諾書」。殿下と男爵令嬢、お二人に愛を育んでいただくためにも、後はレオンハルト殿下の署名さえいただければみんな幸せ婚約破棄が成立します! 前編・後編の全2話です。残酷描写は保険です。 【小説家になろうデイリーランキング1位いただきました――2019/6/17】

どうせ運命の番に出会う婚約者に捨てられる運命なら、最高に良い男に育ててから捨てられてやろうってお話

下菊みこと
恋愛
運命の番に出会って自分を捨てるだろう婚約者を、とびきりの良い男に育てて捨てられに行く気満々の悪役令嬢のお話。 御都合主義のハッピーエンド。 小説家になろう様でも投稿しています。

処理中です...