13 / 58
13. 人気者に格上げされました
しおりを挟む
治療院の二階には、小さな食堂があった。ソフィアさんが言うには、入院患者のための食堂らしい。だが、今はソフィアさん一人の手に負えず、入院は出来ないこととなっている。
私が来たから入院出来るようになるのだろうか。いや、それにはもっと人が必要かもしれない。
その食堂の椅子に座り、ソフィアさんが出してくれたハムサンドを食べながら、ようやくゆっくりとソフィアさんと話が出来た。
「アンちゃんは、都会のほうから来たんだよね?
ここに来たらびっくりするよね、田舎だから」
「いえ!のどかだけど大きな街で、人々も温かくて人情味があって、私好きです!」
これは本心だった。もちろん、ジョーが育った街だから好きなのかもしれない。だが、王都特有のギスギスした雰囲気や、他人に無関心な雰囲気、せわしなく時間が過ぎていくのとは全然違う。
治療院は忙しかったが、私はこんな温かい街が好きだ。
「ありがとう」
ソフィアさんは嬉しそうに笑う。
「昔はね、ここも争いが多くて危ない街だったんだ。怖い人がすぐに入ってくるから、夜道は男性でも歩けないような。
石造りの頑強な家が多いのも、その名残りなの」
オストワル辺境伯領の治安が悪かったことは、私も知っている。だが、街の様子を見ると、予想以上に現在は平和らしい。争いのあの字もないようだ。
「この街の騎士団が、すごく強いからですよね?」
王都で知ったことを告げると、そうなのとソフィアさんは自慢げに笑う。
「ここは国境で危ない人が多かったから、騎士団も強くなきゃならない。
ジョセフ様が騎士団長になられてから、オストワル辺境伯領騎士団は、国の中でも一番と言われる強さになったわ!」
「……ジョセフ様?」
「ええ、ジョセフ様。
長い間留守にされていたジョセフ様が帰られたから、この国もまた安泰だわ」
頷くソフィアさんの言葉に、必死で考えた。ジョセフ様?……ジョーではないよね?
色々考える私の前で、ソフィアさんが続ける。
「ジョセフ様の剣の腕は、王宮騎士団長よりも上だと言われているわ。でも、そんなに強い人だから、性格も冷たいのよ。
特に、女性には関心がなくて口も聞いてもらえないわ」
えっ!?それじゃあ、ジョセフ様はジョーではないだろう。だって、ジョーは甘くて優しくて、私の心をめちゃくちゃにするのだから。
ジョーよりも強いジョセフ様がいるのなら、この国は本当に安泰だろう。
「あっ、でもね、アンちゃん。あなたって……」
ソフィアさんが口を開いた時、呼び鈴がけたたましく響いた。がやがやと人の声も聞こえてくる。時計を見ると、なんと開院の時刻を過ぎているのだ。
「あっ、いけない。午後の部開始だわ!」
ソフィアさんと階段を駆け降りた。すると、扉の外にたくさんの人影が見えた。そして、ソフィアさんが扉を開いた瞬間、午前のようにどっと人が溢れてきた。
「ソフィア様、助けてください!うちの子が!!」
「熱が高くて死にそうです!」
「手が動かなくなってきたわ!!」
不安に駆られる人を温かく迎え、絶対に治そうと決意する。話を聞き、患部を診て触れて、的確な治療を選択する。
「あぁ、新しい薬師様!」
いつの間にか、私も患者に認められていた。これも全て、ソフィアさんを見ていて大切なものに気付いたからだろう。その患者は高熱にうなされながら、必死に言葉を紡いで教えてくれた。
「あなたの評判は……街中で広まっています。
あなたは……神様からの贈り物です」
「……え?」
状況が理解できないが、どうやら私は神様からの贈り物になってしまったらしい。胡散臭いニセ薬師から考えると、かなりの出世だ。一体、どうしてしまったのだろう。
その時扉が開き、午前中に治療した人々が入ってくる。みんな揃って顔色が良く、明るい表情をしている。
「アン様、ありがとうございます!!わしは歩けるようになりましたぞ!」
杖をついていた老人が、すたすたと歩いている。心なしか、背筋もピンと伸びたようだ。
「この子、熱が下がりましたの!」
ぐったりしていた子供も、今や元気に跳ね回っている。
「私は熱が下がったけど、手足も動くわ」
合併症を心配した女性も熱が下がり、元気そうにしている。生きる気力を失った人が、こんなにもいきいきしている姿を見ると嬉しくなる。治療をして良かったと、心から思った。
「そうそう!アン様って、ジョセフ様のご病気を治したかただったんですね!」
「えっ!?じょ、ジョセフ様!?私知りません!!」
かろうじてそう告げるのが精一杯だった。なんだか頭がくらくらする。まさか、ジョセフ様って……
私が来たから入院出来るようになるのだろうか。いや、それにはもっと人が必要かもしれない。
その食堂の椅子に座り、ソフィアさんが出してくれたハムサンドを食べながら、ようやくゆっくりとソフィアさんと話が出来た。
「アンちゃんは、都会のほうから来たんだよね?
ここに来たらびっくりするよね、田舎だから」
「いえ!のどかだけど大きな街で、人々も温かくて人情味があって、私好きです!」
これは本心だった。もちろん、ジョーが育った街だから好きなのかもしれない。だが、王都特有のギスギスした雰囲気や、他人に無関心な雰囲気、せわしなく時間が過ぎていくのとは全然違う。
治療院は忙しかったが、私はこんな温かい街が好きだ。
「ありがとう」
ソフィアさんは嬉しそうに笑う。
「昔はね、ここも争いが多くて危ない街だったんだ。怖い人がすぐに入ってくるから、夜道は男性でも歩けないような。
石造りの頑強な家が多いのも、その名残りなの」
オストワル辺境伯領の治安が悪かったことは、私も知っている。だが、街の様子を見ると、予想以上に現在は平和らしい。争いのあの字もないようだ。
「この街の騎士団が、すごく強いからですよね?」
王都で知ったことを告げると、そうなのとソフィアさんは自慢げに笑う。
「ここは国境で危ない人が多かったから、騎士団も強くなきゃならない。
ジョセフ様が騎士団長になられてから、オストワル辺境伯領騎士団は、国の中でも一番と言われる強さになったわ!」
「……ジョセフ様?」
「ええ、ジョセフ様。
長い間留守にされていたジョセフ様が帰られたから、この国もまた安泰だわ」
頷くソフィアさんの言葉に、必死で考えた。ジョセフ様?……ジョーではないよね?
色々考える私の前で、ソフィアさんが続ける。
「ジョセフ様の剣の腕は、王宮騎士団長よりも上だと言われているわ。でも、そんなに強い人だから、性格も冷たいのよ。
特に、女性には関心がなくて口も聞いてもらえないわ」
えっ!?それじゃあ、ジョセフ様はジョーではないだろう。だって、ジョーは甘くて優しくて、私の心をめちゃくちゃにするのだから。
ジョーよりも強いジョセフ様がいるのなら、この国は本当に安泰だろう。
「あっ、でもね、アンちゃん。あなたって……」
ソフィアさんが口を開いた時、呼び鈴がけたたましく響いた。がやがやと人の声も聞こえてくる。時計を見ると、なんと開院の時刻を過ぎているのだ。
「あっ、いけない。午後の部開始だわ!」
ソフィアさんと階段を駆け降りた。すると、扉の外にたくさんの人影が見えた。そして、ソフィアさんが扉を開いた瞬間、午前のようにどっと人が溢れてきた。
「ソフィア様、助けてください!うちの子が!!」
「熱が高くて死にそうです!」
「手が動かなくなってきたわ!!」
不安に駆られる人を温かく迎え、絶対に治そうと決意する。話を聞き、患部を診て触れて、的確な治療を選択する。
「あぁ、新しい薬師様!」
いつの間にか、私も患者に認められていた。これも全て、ソフィアさんを見ていて大切なものに気付いたからだろう。その患者は高熱にうなされながら、必死に言葉を紡いで教えてくれた。
「あなたの評判は……街中で広まっています。
あなたは……神様からの贈り物です」
「……え?」
状況が理解できないが、どうやら私は神様からの贈り物になってしまったらしい。胡散臭いニセ薬師から考えると、かなりの出世だ。一体、どうしてしまったのだろう。
その時扉が開き、午前中に治療した人々が入ってくる。みんな揃って顔色が良く、明るい表情をしている。
「アン様、ありがとうございます!!わしは歩けるようになりましたぞ!」
杖をついていた老人が、すたすたと歩いている。心なしか、背筋もピンと伸びたようだ。
「この子、熱が下がりましたの!」
ぐったりしていた子供も、今や元気に跳ね回っている。
「私は熱が下がったけど、手足も動くわ」
合併症を心配した女性も熱が下がり、元気そうにしている。生きる気力を失った人が、こんなにもいきいきしている姿を見ると嬉しくなる。治療をして良かったと、心から思った。
「そうそう!アン様って、ジョセフ様のご病気を治したかただったんですね!」
「えっ!?じょ、ジョセフ様!?私知りません!!」
かろうじてそう告げるのが精一杯だった。なんだか頭がくらくらする。まさか、ジョセフ様って……
559
お気に入りに追加
1,601
あなたにおすすめの小説
義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。
石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。
実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。
そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。
血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。
この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。
扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。
【完結】魔力がないと見下されていた私は仮面で素顔を隠した伯爵と結婚することになりました〜さらに魔力石まで作り出せなんて、冗談じゃない〜
光城 朱純
ファンタジー
魔力が強いはずの見た目に生まれた王女リーゼロッテ。
それにも拘わらず、魔力の片鱗すらみえないリーゼロッテは家族中から疎まれ、ある日辺境伯との結婚を決められる。
自分のあざを隠す為に仮面をつけて生活する辺境伯は、龍を操ることができると噂の伯爵。
隣に魔獣の出る森を持ち、雪深い辺境地での冷たい辺境伯との新婚生活は、身も心も凍えそう。
それでも国の端でひっそり生きていくから、もう放っておいて下さい。
私のことは私で何とかします。
ですから、国のことは国王が何とかすればいいのです。
魔力が使えない私に、魔力石を作り出せだなんて、そんなの無茶です。
もし作り出すことができたとしても、やすやすと渡したりしませんよ?
これまで虐げられた分、ちゃんと返して下さいね。
表紙はPhoto AC様よりお借りしております。
【完結】捨てられた双子のセカンドライフ
mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】
王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。
父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。
やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。
これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。
冒険あり商売あり。
さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。
(話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)
稀代の悪女として処刑されたはずの私は、なぜか幼女になって公爵様に溺愛されています
水谷繭
ファンタジー
グレースは皆に悪女と罵られながら処刑された。しかし、確かに死んだはずが目を覚ますと森の中だった。その上、なぜか元の姿とは似ても似つかない幼女の姿になっている。
森を彷徨っていたグレースは、公爵様に見つかりお屋敷に引き取られることに。初めは戸惑っていたグレースだが、都合がいいので、かわい子ぶって公爵家の力を利用することに決める。
公爵様にシャーリーと名付けられ、溺愛されながら過ごすグレース。そんなある日、前世で自分を陥れたシスターと出くわす。公爵様に好意を持っているそのシスターは、シャーリーを世話するという口実で公爵に近づこうとする。シスターの目的を察したグレースは、彼女に復讐することを思いつき……。
◇画像はGirly Drop様からお借りしました
◆エール送ってくれた方ありがとうございます!
この度、猛獣公爵の嫁になりまして~厄介払いされた令嬢は旦那様に溺愛されながら、もふもふ達と楽しくモノづくりライフを送っています~
柚木崎 史乃
ファンタジー
名門伯爵家の次女であるコーデリアは、魔力に恵まれなかったせいで双子の姉であるビクトリアと比較されて育った。
家族から疎まれ虐げられる日々に、コーデリアの心は疲弊し限界を迎えていた。
そんな時、どういうわけか縁談を持ちかけてきた貴族がいた。彼の名はジェイド。社交界では、「猛獣公爵」と呼ばれ恐れられている存在だ。
というのも、ある日を境に文字通り猛獣の姿へと変わってしまったらしいのだ。
けれど、いざ顔を合わせてみると全く怖くないどころか寧ろ優しく紳士で、その姿も動物が好きなコーデリアからすれば思わず触りたくなるほど毛並みの良い愛らしい白熊であった。
そんな彼は月に数回、人の姿に戻る。しかも、本来の姿は類まれな美青年なものだから、コーデリアはその度にたじたじになってしまう。
ジェイド曰くここ数年、公爵領では鉱山から流れてくる瘴気が原因で獣の姿になってしまう奇病が流行っているらしい。
それを知ったコーデリアは、瘴気の影響で不便な生活を強いられている領民たちのために鉱石を使って次々と便利な魔導具を発明していく。
そして、ジェイドからその才能を評価され知らず知らずのうちに溺愛されていくのであった。
一方、コーデリアを厄介払いした家族は悪事が白日のもとに晒された挙句、王家からも見放され窮地に追い込まれていくが……。
これは、虐げられていた才女が嫁ぎ先でその才能を発揮し、周囲の人々に無自覚に愛され幸せになるまでを描いた物語。
他サイトでも掲載中。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
所詮、わたしは壁の花 〜なのに辺境伯様が溺愛してくるのは何故ですか?〜
しがわか
ファンタジー
刺繍を愛してやまないローゼリアは父から行き遅れと罵られていた。
高貴な相手に見初められるために、とむりやり夜会へ送り込まれる日々。
しかし父は知らないのだ。
ローゼリアが夜会で”壁の花”と罵られていることを。
そんなローゼリアが参加した辺境伯様の夜会はいつもと雰囲気が違っていた。
それもそのはず、それは辺境伯様の婚約者を決める集まりだったのだ。
けれど所詮”壁の花”の自分には関係がない、といつものように会場の隅で目立たないようにしているローゼリアは不意に手を握られる。
その相手はなんと辺境伯様で——。
なぜ、辺境伯様は自分を溺愛してくれるのか。
彼の過去を知り、やがてその理由を悟ることとなる。
それでも——いや、だからこそ辺境伯様の力になりたいと誓ったローゼリアには特別な力があった。
天啓<ギフト>として女神様から賜った『魔力を象るチカラ』は想像を創造できる万能な能力だった。
壁の花としての自重をやめたローゼリアは天啓を自在に操り、大好きな人達を守り導いていく。
記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした
結城芙由奈@コミカライズ発売中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる