上 下
12 / 58

12. 実は私、すごいのかもしれません

しおりを挟む

 それからは、大忙しだった。

 ソフィアさんの使用している薬で、効果がありそうなものを選んで飲ませる。だが、その処方は王都としてはとても古いものだ。そして、内服薬だけでなくあらゆる手段で治療をする。

 足が動かない老人には、足のツボに薬用の灸を据えた。
 高熱の患者の額には、冷却効果のある湿布。そして、手足が動かなくなる合併症対策に、早期から手足の治療も開始する。
 比較的元気な人には、体力を増強するハーブと薬湯。
 私を信じていない患者たちだが、みんな私の指示を聞いてくれた。これも、ソフィアさんみたいに一人一人に寄り添ったからかもしれない。

 こんな私を、ソフィアさんは驚いたように見ていた。私の治療はきっと、ソフィアさんの思いもよらない方法なのだろう。王宮での当然が、ここでは当然ではないのだから。
 ソフィアさんは、私の治療に対して不信感すら覚えているかもしれない。それでも私を信じて味方をしてくれるソフィアさんの存在が、とても心強かった。



 昼過ぎになり、ようやく患者が途切れた。こんなにたくさんの患者を観たのは、合戦時の治療に呼ばれた時以来だ。あの時はへとへとだったが、今は意外にも元気だ。数日間、ジョーと歩きっぱなしの旅をしていたからかもしれない。

 ジョーか。今ごろ、ジョーは何をしているのだろう。私のこと、覚えてくれているかな。
 ジョーのことを考えると、急に胸がどきんと甘く鳴った。ジョーのことで、頭がいっぱいになってしまう。だけどいけないと首を振る。何より今は、治療だ。

「ソフィアさん!今のうちに、薬草を取りに行ってきますね!!」

 そう告げて、ようやく裏にある薬草園へと向かったのだ。

 

 
 治療院の薬草園は、王宮薬草園ほどではないが、とても大きかった。そこに様々な薬草が植わっている。状態がいいものもあるし、萎れているものもある。萎れているものは、きっと水のあげすぎだろう。

 薬草のいい香りを嗅ぐと、王宮薬草園を思い出してしまった。
 師匠、元気にされているかな。師匠からいただいたたくさんの知識が、今ここで役立っていることに改めて気付く。
 そして、師匠の薬草園に近付くためには、この薬草園に足りないものがまだまだたくさんある。

 私は急いで薬草を摘み、治療院へ戻る。そしてそれを洗い、皮を剥いたり切ったり煮たり。
 ソフィアさんは、こんな私をずっと興味深そうに見ている。

 ある薬草の根の土を落とし、屋根先に吊るしていると、

「その薬草、根は使えないんじゃないの?」

 ついにソフィアさんが聞いたのだ。だから私は答える。

「確かに根に栄養はありません。
 ですが、これを干して粉にしたものは、子供でも飲みやすい甘い解熱剤になります」

「そうなんだ!」

 ソフィアさんは、目をキラキラさせて私の話を聞いている。新入りの私を拒絶することだって出来るのに、こうやって認めてくれているのだ。

「アンちゃん。そこの小鍋のものは?」

「あれは精神安定剤のブレンドです。
 あれを飲むと心が落ち着き、ぐっすり眠れます」

「じゃあ、この汁は?」

「筋肉弛緩剤です。
 針に付けて動かない手や足に刺すと、筋肉を緩めて動くのを助けてくれます」

「すごいね、アンちゃんって!私の知らないことばっかりで!!」

 もちろん、自分の技術を自慢するわけではない。だが、こうも褒められると嬉しいのも事実だ。私のほうが年下で、新入り薬師なのに!

「ありがとうございます!」

 満面の笑みでソフィアさんに礼を言っていた。

「でも、ソフィアさんを見て、私も気付かされることがありました」

「えっ?」

 驚いたように、彼女は私を見る。
 そう、何よりも大切なことは、ソフィアさんの患者に寄り添う姿勢だ。ソフィアさんは技術は最新のものではないが、その人柄から人々に慕われているのだ。

「私も、ソフィアさんみたいに、みんなから信頼される薬師になりたいです」

「何を言ってるの、アンちゃん」

 からかっているの?なんて言いたそうなソフィアさん。こうやって私さえも認めてくれる人柄は、私は持っていない。私がソフィアさんみたいな人だったら、ジョーももっと好きになってくれたのかな。ジョーのことを思うと、胸がずきんと痛むのだった。


「さあ、アンちゃん。午後の部ももうすぐだわ。
 そろそろお昼にしましょう!」

「はい!」

 お昼と聞くと、急にお腹が空いてきた。怒涛の午前中だった。だが、たくさんのことを考えさせられた午前中だった。午後も、初心に返って頑張らなきゃ。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

入れ替わった花嫁は元団長騎士様の溺愛に溺れまくる

九日
恋愛
仕事に行こうとして階段から落ちた『かな』。 病院かと思ったそこは、物語の中のような煌びやかな貴族世界だった。 ——って、いきなり結婚式を挙げるって言われても、私もう新婚だし16歳どころかアラサーですけど…… 転んで目覚めたら外見は同じ別人になっていた!? しかも相手は国宝級イケメンの領主様!? アラサーに16歳演じろとか、どんな羞恥プレイですかぁぁぁ———

私の婚約者に、私のハイスペックな後輩が絡みまくるお話

下菊みこと
恋愛
自分のことは棚にあげる婚約者vs先輩が大好きすぎる後輩。 婚約者から先輩をもぎ取る略奪愛。 御都合主義のハッピーエンド。 ざまぁは特になし。 小説家になろう様でも投稿しています。

【第2部開始】すべてを奪われたので、今度は幸せになりに行こうと思います

不死じゃない不死鳥(ただのニワトリ)
恋愛
※第二部始まりました。 皇帝の一人娘であるアリシア。 彼女の人生は不幸の連続だった。 大好きだった母は毒殺され、 帰るべき帝国は内戦中。 避難先の王国でも、不遇な扱いをうける辛い日々。 大切な家族も、仲間もいなくなってしまった。 彼女はすべてを奪われたのだ。 これ以上、父には迷惑を掛けられない。 そう思い、アリシアは崖から身を投げる。 脳内に流れるのは、楽しかった日々の映像。 彼女は思った。 これで、もう痛い思いをしなくてすむのだと。 これはそんな少女の物語。 ※設定ゆるめです。 お気に入り、感想いただけると、執筆の励みになります。 誤字多めかもです。申し訳ありません。 少し文章を変えました。 読みにくいなどありましたらご指摘お願いします。 hotランキング入りできました。皆様、本当にありがとうございます

獣人の世界に落ちたら最底辺の弱者で、生きるの大変だけど保護者がイケオジで最強っぽい。

真麻一花
恋愛
私は十歳の時、獣が支配する世界へと落ちてきた。 狼の群れに襲われたところに現れたのは、一頭の巨大な狼。そのとき私は、殺されるのを覚悟した。 私を拾ったのは、獣人らしくないのに町を支配する最強の獣人だった。 なんとか生きてる。 でも、この世界で、私は最低辺の弱者。

【完結】親に売られたお飾り令嬢は変態公爵に溺愛される

堀 和三盆
恋愛
 貧乏な伯爵家の長女として産まれた私。売れる物はすべて売り払い、いよいよ爵位を手放すか――というギリギリのところで、長女の私が変態相手に売られることが決まった。 『変態』相手と聞いて娼婦になることすら覚悟していたけれど、連れて来られた先は意外にも訳アリの公爵家。病弱だという公爵様は少し瘦せてはいるものの、おしゃれで背も高く顔もいい。  これはお前を愛することはない……とか言われちゃういわゆる『お飾り妻』かと予想したけれど、初夜から普通に愛された。それからも公爵様は面倒見が良くとっても優しい。  ……けれど。 「あんたなんて、ただのお飾りのお人形のクセに。だいたい気持ち悪いのよ」  自分は愛されていると誤解をしそうになった頃、メイドからそんな風にないがしろにされるようになってしまった。  暴言を吐かれ暴力を振るわれ、公爵様が居ないときには入浴は疎か食事すら出して貰えない。  そのうえ、段々と留守じゃないときでもひどい扱いを受けるようになってしまって……。  そんなある日。私のすぐ目の前で、お仕着せを脱いだ美人メイドが公爵様に迫る姿を見てしまう。

王妃候補は、留守番中

酒田愛子(元・坂田藍子)
恋愛
貧乏伯爵の娘セリーナは、ひょんなことから王太子の花嫁候補の身代りに王宮へ行くことに。 花嫁候補バトルに参加せずに期間満了での帰宅目指してがんばるつもりが、王太子に気に入られて困ってます。

嫌われ王妃の一生 ~ 将来の王を導こうとしたが、王太子優秀すぎません? 〜

悠月 星花
恋愛
嫌われ王妃の一生 ~ 後妻として王妃になりましたが、王太子を亡き者にして処刑になるのはごめんです。将来の王を導こうと決心しましたが、王太子優秀すぎませんか? 〜 嫁いだ先の小国の王妃となった私リリアーナ。 陛下と夫を呼ぶが、私には見向きもせず、「処刑せよ」と無慈悲な王の声。 無視をされ続けた心は、逆らう気力もなく項垂れ、首が飛んでいく。 夢を見ていたのか、自身の部屋で姉に起こされ目を覚ます。 怖い夢をみたと姉に甘えてはいたが、現実には先の小国へ嫁ぐことは決まっており……

記憶を持ったままどこかの国の令嬢になった

さこの
恋愛
「このマンガ面白いんだよ。見て」 友人に言われてマンガをダウンロードして大人しく読んだ。 「君はないね。尻軽女にエルマンは似合わないよ」 どこぞの国の物語でのお見合い話から始まっていた。今はやりの異世界の物語。年頃にして高校生くらいなんだけど異世界の住人は見るからに大人っぽい。 「尻軽ですって!」 「尻軽だろう? 俺が声をかけるとすぐに付いてくるような女だ。エルマンの事だけを見てくれる女じゃないと俺は認めない」 「イケメンだからって調子に乗っているんじゃないでしょうね! エルマン様! この男は言葉巧みに私を連れ出したんですよ!」 えっと、お見合い相手はエルマンって人なんだよね? なんで一言も発さないのよ!それに対して罵り合う2人。 「もういい。貴女とは縁がなかったみたいだ。失礼」 冷酷な視線を令嬢に向けるとエルマンはその場を去る。はぁ? 見合い相手の女にこんな冷たい態度を取るなら初めから見合いなんてするなっての! もう一人の男もわざとこの令嬢に手を出したって事!? この男とエルマンの関係性がわからないけれど、なんとなく顔も似ているし名前も似ている。最低な男だわ。と少し腹がたって、寝酒用のワインを飲んで寝落ちしたのだった。

処理中です...