15 / 47
15. 見つかってしまった……
しおりを挟む
私はシャワールームで足を洗いながらため息をついた。脱衣場には、放り投げたスラックスとカツラ、丸眼鏡が落ちている。なんだか酷く疲れたし、ルーカスに令嬢を仕向けるのは至難の業だった。おまけに、お兄様だけいい思いをしてしまって……ずるい。私はこんなにも上手くいかないのに。
鏡を見ると、久しぶりに見る長い髪の私が、こっちを見返していた。今の私は化粧っ気もなく、とても地味だ。あの煌びやかな令嬢を見た後に自分を見ると、酷く惨めな気持ちになる。こんなボロボロの私を見せれば、ルーカスは嫌いになるのかな、なんて思ったりもした。
ルーカスだって、意味不明だ。足を洗って出直せだなんて。だから私は、こうやって足を洗っている。
鏡を見て再びため息を吐いた時……不意に、シャワールームの扉がガチャガチャと音を立てた。私は慌てて飛び上がり、近くにかけてあったスカートを身につける。その瞬間扉が開き、入ってきたのはなんとジョエル様だった。
やばい!ジョエル様にバレてしまう!!
セリオがセシリアだとバレたら、私はどうなってしまうのだろう!!
体に震えが走った。一刻も早く隠れたいのに、シャワールームの中には隠れる場所もない。
シャワールームにぽつんと立つ私を、ジョエル様はしっかりと見つめた。どうしよう、なんて言い訳しようと必死に考える私に、ジョエル様は驚いたように告げた。
「こんなところで、何をされているんですか? 」
……えっ!?
「さぁ、皆のところに帰りますよ」
ちょっと待ってください、なんて言う間もなく、ジョエル様は私の手を引く。そして私は否応なくホールへと連れ戻されてしまった。この、使用人のブラウスとシャワールームにかけてあった所有者不明のスカートを穿いて。
こんな姿、誰にも見られたくない。もちろん美しくないからだし、バレてしまうから。私が大嘘をついていることがバレたら、使用人たちからも白い目で見られ、ルーカスにも愛想を尽かされるだろう。いや、それでルーカスに嫌われたら、しめたものかもしれないが。
「も、申し訳ございません。忘れ物が……」
ジョエル様にそう言って、慌ててシャワールームに戻ろうとしたが……なぜかシャワールームには鍵がかかっている。そして、中からは男女の声が聞こえた。まさか、シャワールームの中でエッチなことをするわけじゃないよね!?
パニックを起こしてシャワールームの扉をガチャガチャとするが、男女は開けてくれない。
最悪だ。こうなったら帰るしかない!そう思った時だった。
「何している」
こんな時に絶対に聞きたくない声が背後から聞こえた。きっと彼は私を見て、怒りに震えながら言うのだ。お前、女だったのかと。
私は下を向きながら、ルーカスに告げる。
「も、申し訳ございません」
どうかこのまま逃げさせて。どうか気付かないでいて。必死に祈る私に向かって、
「……セシリア」
彼は私の本当の名前を呼んだ。
思わず顔を上げてしまった。だってルーカスの声は、普段私をクソチビと呼ぶその声と全然違っていたからだ。とても甘くて切なげで、普段の狂気なんて全く感じられない声だった。
ルーカスの綺麗な碧眼と視線がぶつかる。彼は切なげに眉を寄せ、口元を歪め、頬を紅潮させている。そんなに感情ダダ漏れの顔で、私を見ないで欲しい。そんな顔で見られると、心が揺らいでしまいそうだ。
だが、ルーカスに流されてはいけない。どうやらルーカスは私がセシリアだとは気付いているが、セリオだとは思ってもいないようだ。
「お久しぶりです、ルーカス様」
私はさらっと告げると、ルーカスはさらに悲しげな顔になる。そして不意に私の手を取り、唇を寄せる。ゾッとした私は思わず手を引こうとするが、ルーカスは離してくれない。
「ルーカスでいい。……昔のように接して欲しい」
そんなに甘く切ない声で言わないで欲しい。普段と別人のようなルーカスを見て、そのギャップにやられてしまいそうだから。
「セシリア、会いたかった」
私の手を握ったまま、甘くて掠れた声でルーカスが告げる。
「お前がどんないい女になったか想像して、夜も眠れなかった」
「でっ、でも!想像以下でびっくりしたでしょう? 」
思わず言ってしまった。それもそのはず、私は今や使用人の服に持ち主の分からないスカートを穿いている。カツラを被っていたため、髪も逆立ってボサボサだろう。この空間にいる令嬢に比べたら、哀れなほどに醜い。ここから消えたいと思うほどに。
それなのに、ルーカスは頬を緩めて告げる。
「綺麗だ」
……え!? ルーカスの目は、節穴ですか!?
「想像以上に綺麗で、俺は今戸惑っている」
どうしてそうなるの? 今の私を見てそんなことを言うのだから、ルーカスはからかっているのだろうか。それとも、馬鹿にしているのだろうか。だが、その真剣で甘い瞳は冗談を言っているようには見えなくて、私は真っ赤な顔で俯いた。
「さあ、セシリア。会えなかった八年分の話をしよう」
ルーカスは低く甘い声でそう告げ、私の肩を抱く。ルーカスなんて大っ嫌いなのに、こうやって優しくされて、不覚にもドキドキしてしまうのだった。
鏡を見ると、久しぶりに見る長い髪の私が、こっちを見返していた。今の私は化粧っ気もなく、とても地味だ。あの煌びやかな令嬢を見た後に自分を見ると、酷く惨めな気持ちになる。こんなボロボロの私を見せれば、ルーカスは嫌いになるのかな、なんて思ったりもした。
ルーカスだって、意味不明だ。足を洗って出直せだなんて。だから私は、こうやって足を洗っている。
鏡を見て再びため息を吐いた時……不意に、シャワールームの扉がガチャガチャと音を立てた。私は慌てて飛び上がり、近くにかけてあったスカートを身につける。その瞬間扉が開き、入ってきたのはなんとジョエル様だった。
やばい!ジョエル様にバレてしまう!!
セリオがセシリアだとバレたら、私はどうなってしまうのだろう!!
体に震えが走った。一刻も早く隠れたいのに、シャワールームの中には隠れる場所もない。
シャワールームにぽつんと立つ私を、ジョエル様はしっかりと見つめた。どうしよう、なんて言い訳しようと必死に考える私に、ジョエル様は驚いたように告げた。
「こんなところで、何をされているんですか? 」
……えっ!?
「さぁ、皆のところに帰りますよ」
ちょっと待ってください、なんて言う間もなく、ジョエル様は私の手を引く。そして私は否応なくホールへと連れ戻されてしまった。この、使用人のブラウスとシャワールームにかけてあった所有者不明のスカートを穿いて。
こんな姿、誰にも見られたくない。もちろん美しくないからだし、バレてしまうから。私が大嘘をついていることがバレたら、使用人たちからも白い目で見られ、ルーカスにも愛想を尽かされるだろう。いや、それでルーカスに嫌われたら、しめたものかもしれないが。
「も、申し訳ございません。忘れ物が……」
ジョエル様にそう言って、慌ててシャワールームに戻ろうとしたが……なぜかシャワールームには鍵がかかっている。そして、中からは男女の声が聞こえた。まさか、シャワールームの中でエッチなことをするわけじゃないよね!?
パニックを起こしてシャワールームの扉をガチャガチャとするが、男女は開けてくれない。
最悪だ。こうなったら帰るしかない!そう思った時だった。
「何している」
こんな時に絶対に聞きたくない声が背後から聞こえた。きっと彼は私を見て、怒りに震えながら言うのだ。お前、女だったのかと。
私は下を向きながら、ルーカスに告げる。
「も、申し訳ございません」
どうかこのまま逃げさせて。どうか気付かないでいて。必死に祈る私に向かって、
「……セシリア」
彼は私の本当の名前を呼んだ。
思わず顔を上げてしまった。だってルーカスの声は、普段私をクソチビと呼ぶその声と全然違っていたからだ。とても甘くて切なげで、普段の狂気なんて全く感じられない声だった。
ルーカスの綺麗な碧眼と視線がぶつかる。彼は切なげに眉を寄せ、口元を歪め、頬を紅潮させている。そんなに感情ダダ漏れの顔で、私を見ないで欲しい。そんな顔で見られると、心が揺らいでしまいそうだ。
だが、ルーカスに流されてはいけない。どうやらルーカスは私がセシリアだとは気付いているが、セリオだとは思ってもいないようだ。
「お久しぶりです、ルーカス様」
私はさらっと告げると、ルーカスはさらに悲しげな顔になる。そして不意に私の手を取り、唇を寄せる。ゾッとした私は思わず手を引こうとするが、ルーカスは離してくれない。
「ルーカスでいい。……昔のように接して欲しい」
そんなに甘く切ない声で言わないで欲しい。普段と別人のようなルーカスを見て、そのギャップにやられてしまいそうだから。
「セシリア、会いたかった」
私の手を握ったまま、甘くて掠れた声でルーカスが告げる。
「お前がどんないい女になったか想像して、夜も眠れなかった」
「でっ、でも!想像以下でびっくりしたでしょう? 」
思わず言ってしまった。それもそのはず、私は今や使用人の服に持ち主の分からないスカートを穿いている。カツラを被っていたため、髪も逆立ってボサボサだろう。この空間にいる令嬢に比べたら、哀れなほどに醜い。ここから消えたいと思うほどに。
それなのに、ルーカスは頬を緩めて告げる。
「綺麗だ」
……え!? ルーカスの目は、節穴ですか!?
「想像以上に綺麗で、俺は今戸惑っている」
どうしてそうなるの? 今の私を見てそんなことを言うのだから、ルーカスはからかっているのだろうか。それとも、馬鹿にしているのだろうか。だが、その真剣で甘い瞳は冗談を言っているようには見えなくて、私は真っ赤な顔で俯いた。
「さあ、セシリア。会えなかった八年分の話をしよう」
ルーカスは低く甘い声でそう告げ、私の肩を抱く。ルーカスなんて大っ嫌いなのに、こうやって優しくされて、不覚にもドキドキしてしまうのだった。
25
あなたにおすすめの小説
そんなに義妹が大事なら、番は解消してあげます。さようなら。
雪葉
恋愛
貧しい子爵家の娘であるセルマは、ある日突然王国の使者から「あなたは我が国の竜人の番だ」と宣言され、竜人族の住まう国、ズーグへと連れて行かれることになる。しかし、連れて行かれた先でのセルマの扱いは散々なものだった。番であるはずのウィルフレッドには既に好きな相手がおり、終始冷たい態度を取られるのだ。セルマはそれでも頑張って彼と仲良くなろうとしたが、何もかもを否定されて終わってしまった。
その内、セルマはウィルフレッドとの番解消を考えるようになる。しかし、「竜人族からしか番関係は解消できない」と言われ、また絶望の中に叩き落とされそうになったその時──、セルマの前に、一人の手が差し伸べられるのであった。
*相手を大事にしなければ、そりゃあ見捨てられてもしょうがないよね。っていう当然の話。
転生したので推し活をしていたら、推しに溺愛されました。
ラム猫
恋愛
異世界に転生した|天音《あまね》ことアメリーは、ある日、この世界が前世で熱狂的に遊んでいた乙女ゲームの世界であることに気が付く。
『煌めく騎士と甘い夜』の攻略対象の一人、騎士団長シオン・アルカス。アメリーは、彼の大ファンだった。彼女は喜びで飛び上がり、推し活と称してこっそりと彼に贈り物をするようになる。
しかしその行為は推しの目につき、彼に興味と執着を抱かれるようになったのだった。正体がばれてからは、あろうことか美しい彼の側でお世話係のような役割を担うことになる。
彼女は推しのためならばと奮闘するが、なぜか彼は彼女に甘い言葉を囁いてくるようになり……。
※この作品は、『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。
ストーカー婚約者でしたが、転生者だったので経歴を身綺麗にしておく
犬野きらり
恋愛
リディア・ガルドニ(14)、本日誕生日で転生者として気付きました。私がつい先程までやっていた行動…それは、自分の婚約者に対して重い愛ではなく、ストーカー行為。
「絶対駄目ーー」
と前世の私が気づかせてくれ、そもそも何故こんな男にこだわっていたのかと目が覚めました。
何の物語かも乙女ゲームの中の人になったのかもわかりませんが、私の黒歴史は証拠隠滅、慰謝料ガッポリ、新たな出会い新たな人生に進みます。
募集 婿入り希望者
対象外は、嫡男、後継者、王族
目指せハッピーエンド(?)!!
全23話で完結です。
この作品を気に留めて下さりありがとうございます。感謝を込めて、その後(直後)2話追加しました。25話になりました。
追放された悪役令嬢はシングルマザー
ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。
断罪回避に奮闘するも失敗。
国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。
この子は私の子よ!守ってみせるわ。
1人、子を育てる決心をする。
そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。
さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥
ーーーー
完結確約 9話完結です。
短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。
私は既にフラれましたので。
椎茸
恋愛
子爵令嬢ルフェルニア・シラーは、国一番の美貌を持つ幼馴染の公爵令息ユリウス・ミネルウァへの想いを断ち切るため、告白をする。ルフェルニアは、予想どおりフラれると、元来の深く悩まない性格ゆえか、気持ちを切り替えて、仕事と婚活に邁進しようとする。一方、仕事一筋で自身の感情にも恋愛事情にも疎かったユリウスは、ずっと一緒に居てくれたルフェルニアに距離を置かれたことで、感情の蓋が外れてルフェルニアの言動に一喜一憂するように…?
※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。
偉物騎士様の裏の顔~告白を断ったらムカつく程に執着されたので、徹底的に拒絶した結果~
甘寧
恋愛
「結婚を前提にお付き合いを─」
「全力でお断りします」
主人公であるティナは、園遊会と言う公の場で色気と魅了が服を着ていると言われるユリウスに告白される。
だが、それは罰ゲームで言わされていると言うことを知っているティナは即答で断りを入れた。
…それがよくなかった。プライドを傷けられたユリウスはティナに執着するようになる。そうティナは解釈していたが、ユリウスの本心は違う様で…
一方、ユリウスに関心を持たれたティナの事を面白くないと思う令嬢がいるのも必然。
令嬢達からの嫌がらせと、ユリウスの病的までの執着から逃げる日々だったが……
幼い頃に、大きくなったら結婚しようと約束した人は、英雄になりました。きっと彼はもう、わたしとの約束なんて覚えていない
ラム猫
恋愛
幼い頃に、セレフィアはシルヴァードと出会った。お互いがまだ世間を知らない中、二人は王城のパーティーで時折顔を合わせ、交流を深める。そしてある日、シルヴァードから「大きくなったら結婚しよう」と言われ、セレフィアはそれを喜んで受け入れた。
その後、十年以上彼と再会することはなかった。
三年間続いていた戦争が終わり、シルヴァードが王国を勝利に導いた英雄として帰ってきた。彼の隣には、聖女の姿が。彼は自分との約束をとっくに忘れているだろうと、セレフィアはその場を離れた。
しかし治療師として働いているセレフィアは、彼の後遺症治療のために彼と対面することになる。余計なことは言わず、ただ彼の治療をすることだけを考えていた。が、やけに彼との距離が近い。
それどころか、シルヴァードはセレフィアに甘く迫ってくる。これは治療者に対する依存に違いないのだが……。
「シルフィード様。全てをおひとりで抱え込もうとなさらないでください。わたしが、傍にいます」
「お願い、セレフィア。……君が傍にいてくれたら、僕はまともでいられる」
※糖度高め、勘違いが激しめ、主人公は鈍感です。ヒーローがとにかく拗れています。苦手な方はご注意ください。
※『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。
断罪されてムカついたので、その場の勢いで騎士様にプロポーズかましたら、逃げれんようなった…
甘寧
恋愛
主人公リーゼは、婚約者であるロドルフ殿下に婚約破棄を告げられた。その傍らには、アリアナと言う子爵令嬢が勝ち誇った様にほくそ笑んでいた。
身に覚えのない罪を着せられ断罪され、頭に来たリーゼはロドルフの叔父にあたる騎士団長のウィルフレッドとその場の勢いだけで婚約してしまう。
だが、それはウィルフレッドもその場の勢いだと分かってのこと。すぐにでも婚約は撤回するつもりでいたのに、ウィルフレッドはそれを許してくれなくて…!?
利用した人物は、ドSで自分勝手で最低な団長様だったと後悔するリーゼだったが、傍から見れば過保護で執着心の強い団長様と言う印象。
周りは生暖かい目で二人を応援しているが、どうにも面白くないと思う者もいて…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる