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大切な友を守るために
第34話
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こうして、私たちは無事にヒューゴを取り戻すことが出来た。低体温症になっていたとはいえ、ヒューゴは無事だった。そして、ハイデマリーの治療により、一命を取り止めることが出来た。これも、ハイデマリーがあの場にいたからだ。怖くて行きたくないのに、ついてきてくれたハイデマリーに感謝の気持ちでいっぱいだ。
「イエティは、食事の瞬間まで、獲物を生かしておく習性がある」
次の日、朝食の時間にフリードが教えてくれた。
「そのため、ヒューゴは生きているのではないかと期待していたが、最後まで諦めずに本当に良かった」
まさしく間一髪で間に合ったのだろう。広場にいたイエティは拳を振り上げ、ヒューゴを攻撃しようとしていた。そして、ヒューゴ探しに付き合ってくれたフリードやジル、そして騎士たちにも感謝しないといけない。
「本当にありがとうね、フリード」
礼を言うと、少し笑って応えてくれるフリード。初めて会った時よりも、フリードは随分表情豊かになった。……いや、私がフリードの表情に敏感になっただけかもしれないが。
「俺は、ヒューゴの証言が少し気にかかっている」
フリードはまたもとの無表情に戻り、淡々と告げた。
「ヒューゴは街の外れで見知らぬものに捕らえられ、街の外にいたイエティの前へと投げられたと言っている」
「……え? 」
「ヒューゴは誰かに狙われたのだろう。だが、一体誰が何のために……」
沈黙が舞い降りる。そしてフリードの言葉に、ヒューゴの身を心配した。ヒューゴだって元騎士の一人だ。もちろんこの街の騎士ほどは強くないだろうが、普通の人間がヒューゴを捕まえるのは困難だと思われる。だから、ヒューゴを捕らえたのは、それなりに強い人なのだろう。そして、フリードの言うように、誰が何のためにそんなことをしたのだろう。
「とりあえず、ヒューゴは我が領地の騎士団に入ってもらった。ヒューゴは騎士団に入ることを切望していたし、騎士団の宿舎で生活すれば、今後狙われることも少なくなるだろう」
フリードは、そんなことまで考えてくれたのだ。よそ者のヒューゴを騎士団に入れるのは、フリードにとっても危険である。ヒューゴがもし悪いことを企んでいたら、騎士団を機能不全にすることだって出来るだろう。それなのに、フリードはヒューゴを信じて騎士団に入れてくれた。そしてフリードは、私に恩を売るわけでもなく、それを淡々と述べる。
フリードは悪魔辺境伯だなんて言われるが、どこが悪魔なのだろう。感情表情をあまりしないだけで、内面はすごく優しいと私は思う。そして、そんなフリードがますます好きになる。
「お前も、武術大会に出るのだろう」
フリードはぎろりと私を睨んだ。
「お前が婚約破棄しないと言うから、仕方なく武術大会に出してやるんだ。
武術大会には、領地外からの参加者も多い。用心しろ」
その言葉に、素直に頷いていた。
ついこの前までは、フリードに対して反抗心しかなかった。だが、フリードの内面を知るにつれ、フリードに助けられるにつれ、私はいつの間にか全面的にフリードを信頼していた。フリードが用心しろというのだから、きっと予測不可能な危険に晒される可能性もあるのだろう。私は武術大会を楽しみながらも、決して油断してはいけないと心に誓った。
昼過ぎ。武術の稽古のために、いつものように騎士団へ向かう。今日は誰がお手合わせしてくれるのだろうとワクワクしながら扉を開けた私は、
「メリッサ」
聞き覚えのある声に呼ばれた。声のするほうを見ると、なんとヒューゴが赤とグレーのハンスベルク辺境伯騎士団の隊服を着ているではないか。いつも通りのヒューゴだが、隊服を着ていると強そうに見える。
ヒューゴは私に駆け寄り、
「どう? かっこいいでしょ? 」
まるでファッションショーのようにぐるりと一回転する。
「ハンスベルク騎士団に入れるなんて、夢みたいだよ。
メリッサも昨日、助けに来てくれてありがとう」
すっかり元気になったヒューゴを見て安心した。そして、ヒューゴがハンスベルク騎士団に入って嬉しそうで、私もにやけてしまう。ヒューゴはヤヌース伯爵領の騎士だった。ヤヌース伯爵領の騎士よりも、ハンスベルク辺境伯領の騎士のほうがそんなにも嬉しいのだろうか。
「ヒューゴが元気そうで良かったよ」
笑顔でそう告げた時だった。
「ヒューゴ、そんなところでサボらない!」
ジルが怖い顔をして現れる。そしてヒューゴは、ジルを見てピシッと背を伸ばした。
「ヒューゴにはもっと強くなってもらわないと、ハンスベルク辺境伯領騎士団の仕事は務まらないからね」
「はい!すみません、団長!」
ヒューゴはまるで軍隊のように返事をし、ジルに頭を下げる。ヒューゴでもまだまだなのだと、改めてこの街の騎士たちの強さを思い知るばかりだ。そして、ヒューゴもジルを上長だと認めきっている。
「ジル。ヒューゴは回復したばかりなんだし、お手柔らかにね」
苦笑いをしながらジルに告げた時……
「ハイデマリー!! 」
ヒューゴの真面目な顔が、急にほころんだ。そして、ジルと私を差し置いて、入り口のほうに駆けていく。
入り口にはブロンドの髪を輝かせたハイデマリーがおり、駆け寄るヒューゴを面倒そうに見ている。だが、ヒューゴはそのハイデマリーの凍るような視線にも負けないのだ。恐るべし鈍感力。
「ハイデマリー!助けてくれて、ありがとう!! 」
そう言って縋りつくヒューゴを、ハイデマリーが嫌そうに押しのける。
「誰も、あんたが好きだから助けた訳じゃないわよ」
「でも!君は僕にとっての女神だ!」
どうやらヒューゴは、ハイデマリーに惚れ直したらしい。それもそのはず、ハイデマリーは命の恩人であり、怖がりながらもヒューゴのもとまで駆けつけてくれたのだから。
「ヒューゴ。僕の命令が聞けないのなら、騎士団から出て行ってもらってもいいよ」
ジルがハイデマリーからヒューゴを引き離しながら、イラついたように言う。そして、ジルはハイデマリーに申し訳なさそうに告げる。
「ごめんね、僕がヒューゴから君を守るから」
あ、ジルもハイデマリーが好きなのか。そして、ヒューゴと取り合いをしているのか。私は二人を見て笑っていた。どうか、三人とも幸せになれますように。私は今、とても幸せだから。
「イエティは、食事の瞬間まで、獲物を生かしておく習性がある」
次の日、朝食の時間にフリードが教えてくれた。
「そのため、ヒューゴは生きているのではないかと期待していたが、最後まで諦めずに本当に良かった」
まさしく間一髪で間に合ったのだろう。広場にいたイエティは拳を振り上げ、ヒューゴを攻撃しようとしていた。そして、ヒューゴ探しに付き合ってくれたフリードやジル、そして騎士たちにも感謝しないといけない。
「本当にありがとうね、フリード」
礼を言うと、少し笑って応えてくれるフリード。初めて会った時よりも、フリードは随分表情豊かになった。……いや、私がフリードの表情に敏感になっただけかもしれないが。
「俺は、ヒューゴの証言が少し気にかかっている」
フリードはまたもとの無表情に戻り、淡々と告げた。
「ヒューゴは街の外れで見知らぬものに捕らえられ、街の外にいたイエティの前へと投げられたと言っている」
「……え? 」
「ヒューゴは誰かに狙われたのだろう。だが、一体誰が何のために……」
沈黙が舞い降りる。そしてフリードの言葉に、ヒューゴの身を心配した。ヒューゴだって元騎士の一人だ。もちろんこの街の騎士ほどは強くないだろうが、普通の人間がヒューゴを捕まえるのは困難だと思われる。だから、ヒューゴを捕らえたのは、それなりに強い人なのだろう。そして、フリードの言うように、誰が何のためにそんなことをしたのだろう。
「とりあえず、ヒューゴは我が領地の騎士団に入ってもらった。ヒューゴは騎士団に入ることを切望していたし、騎士団の宿舎で生活すれば、今後狙われることも少なくなるだろう」
フリードは、そんなことまで考えてくれたのだ。よそ者のヒューゴを騎士団に入れるのは、フリードにとっても危険である。ヒューゴがもし悪いことを企んでいたら、騎士団を機能不全にすることだって出来るだろう。それなのに、フリードはヒューゴを信じて騎士団に入れてくれた。そしてフリードは、私に恩を売るわけでもなく、それを淡々と述べる。
フリードは悪魔辺境伯だなんて言われるが、どこが悪魔なのだろう。感情表情をあまりしないだけで、内面はすごく優しいと私は思う。そして、そんなフリードがますます好きになる。
「お前も、武術大会に出るのだろう」
フリードはぎろりと私を睨んだ。
「お前が婚約破棄しないと言うから、仕方なく武術大会に出してやるんだ。
武術大会には、領地外からの参加者も多い。用心しろ」
その言葉に、素直に頷いていた。
ついこの前までは、フリードに対して反抗心しかなかった。だが、フリードの内面を知るにつれ、フリードに助けられるにつれ、私はいつの間にか全面的にフリードを信頼していた。フリードが用心しろというのだから、きっと予測不可能な危険に晒される可能性もあるのだろう。私は武術大会を楽しみながらも、決して油断してはいけないと心に誓った。
昼過ぎ。武術の稽古のために、いつものように騎士団へ向かう。今日は誰がお手合わせしてくれるのだろうとワクワクしながら扉を開けた私は、
「メリッサ」
聞き覚えのある声に呼ばれた。声のするほうを見ると、なんとヒューゴが赤とグレーのハンスベルク辺境伯騎士団の隊服を着ているではないか。いつも通りのヒューゴだが、隊服を着ていると強そうに見える。
ヒューゴは私に駆け寄り、
「どう? かっこいいでしょ? 」
まるでファッションショーのようにぐるりと一回転する。
「ハンスベルク騎士団に入れるなんて、夢みたいだよ。
メリッサも昨日、助けに来てくれてありがとう」
すっかり元気になったヒューゴを見て安心した。そして、ヒューゴがハンスベルク騎士団に入って嬉しそうで、私もにやけてしまう。ヒューゴはヤヌース伯爵領の騎士だった。ヤヌース伯爵領の騎士よりも、ハンスベルク辺境伯領の騎士のほうがそんなにも嬉しいのだろうか。
「ヒューゴが元気そうで良かったよ」
笑顔でそう告げた時だった。
「ヒューゴ、そんなところでサボらない!」
ジルが怖い顔をして現れる。そしてヒューゴは、ジルを見てピシッと背を伸ばした。
「ヒューゴにはもっと強くなってもらわないと、ハンスベルク辺境伯領騎士団の仕事は務まらないからね」
「はい!すみません、団長!」
ヒューゴはまるで軍隊のように返事をし、ジルに頭を下げる。ヒューゴでもまだまだなのだと、改めてこの街の騎士たちの強さを思い知るばかりだ。そして、ヒューゴもジルを上長だと認めきっている。
「ジル。ヒューゴは回復したばかりなんだし、お手柔らかにね」
苦笑いをしながらジルに告げた時……
「ハイデマリー!! 」
ヒューゴの真面目な顔が、急にほころんだ。そして、ジルと私を差し置いて、入り口のほうに駆けていく。
入り口にはブロンドの髪を輝かせたハイデマリーがおり、駆け寄るヒューゴを面倒そうに見ている。だが、ヒューゴはそのハイデマリーの凍るような視線にも負けないのだ。恐るべし鈍感力。
「ハイデマリー!助けてくれて、ありがとう!! 」
そう言って縋りつくヒューゴを、ハイデマリーが嫌そうに押しのける。
「誰も、あんたが好きだから助けた訳じゃないわよ」
「でも!君は僕にとっての女神だ!」
どうやらヒューゴは、ハイデマリーに惚れ直したらしい。それもそのはず、ハイデマリーは命の恩人であり、怖がりながらもヒューゴのもとまで駆けつけてくれたのだから。
「ヒューゴ。僕の命令が聞けないのなら、騎士団から出て行ってもらってもいいよ」
ジルがハイデマリーからヒューゴを引き離しながら、イラついたように言う。そして、ジルはハイデマリーに申し訳なさそうに告げる。
「ごめんね、僕がヒューゴから君を守るから」
あ、ジルもハイデマリーが好きなのか。そして、ヒューゴと取り合いをしているのか。私は二人を見て笑っていた。どうか、三人とも幸せになれますように。私は今、とても幸せだから。
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