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武術大会と、追放された友

第28話

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 私が武術大会にエントリーしたという噂は、あっという間に広まった。ハイデマリーが私の救護係を務めるという噂とともに。
 フリードはもちろん乗り気ではなく、武術大会に関しての文句をいつも言ってくる。そして、ジルたち騎士からもからかわれるのだった。




「なんかさぁ、メリッサ、逞しくなってない? 」

 騎士団でいつものようにジルとお手合わせした時に、ジルに言われた。

「体幹がしっかりしてきたっていうか、筋肉が付いてきたっていうか……」

「そうそう。武術大会に向けて、本気でトレーニングしているからね」

 武術大会に出ることが決まったら、私は前世のトレーニングをし始めた。朝夕のランニングはもちろん、腹筋と背筋百回ずつ、ハイデマリーを持ち上げたままのスクワット百回など。自作で練習器具も作っている。もちろん、フリードの目を盗んでだ。
 そして、こうして騎士団に来て、強い騎士たちとの武術の稽古だ。

 はじめは運動不足の令嬢の体でこなすのは辛かったが、少しずつ調子は上がり始めている。こんな私を、ジルは面白いものを見るように見ている。

「普通女性って、筋肉付くの嫌がるよね」

 ジルは容赦なく酷いことを言う。それも、笑顔で言うのだ。確かに前世みたいにムキムキになってしまったら、フリードは興醒めするかもしれない。しかるべき時に私の体を見て、興味を失うかもしれない、なんて思うと悲しくなる。
 私は強くなりたいが、同時にフリードの前では乙女でもありたい。こんなことを思ってしまうなんて、我ながらどうかしている。


「まぁ、フリード様みたいな大男と釣り合うには、多少逞しいほうがいいんじゃない? 」

 いつの間にかハイデマリーがいて、にやにや笑いながら言う。

「正直、あんたって線が細いから、それでフリード様の夜の相手が出来ているのか不思議なのよ」

 なんでそうなるのだろうか。

「いや……何もないから」

 私はため息混じりに告げる。
 私はフリードとは、まだそんな関係ではない。でもいずれは、そんな関係になるのだろうか。それすら信じられない。
 だが、フリードのことを思うと顔が真っ赤になってしまうのだった。

 ジルはハイデマリーの突然の登場に嫌がるかと思ったが、

「ねぇ。貴女はどうしてメリッサの専属救護係になったの? 」

興味津々でハイデマリーに聞く。

「去年は僕が頼んでも駄目だったし、それ以外の人も皆……」

 ジルはハイデマリーを嫌いと言いながらも、救護係を頼んだのか。それはそれで滑稽でもある。そして、騎士団長のジルが頼むとなると、ハイデマリーの腕は本物なのだろう。

「困っている友達を助けるのは、当然でしょう? 」

 ハイデマリーは翳りのない笑顔で告げた。

「あんたを助けると、あんたのツテで、いい男でも紹介してもらえると思ったのよ」

 私はぽかーんとハイデマリーを見ていた。私だけでなく、ジルだって。そんな私たちを見て、ハイデマリーは顔を歪めて吐き出す。

「あんた、なんでそんな顔すんのよ? それに、騎士団長まで!
 みんなして、私を馬鹿な子にしないでよ!」

 それを聞き、ジルが面白そうに噴き出す。そして、私も笑っていた。

 ハイデマリー、ごめんね。フリードを取ってしまって。
 でも私、ハイデマリーには幸せになって欲しいと思っているの。
 ハイデマリーは素敵な女性だから、きっと相応しいいい男が現れるに決まっているよ。
 ハイデマリーを傷つけてしまうから、こんなことは面と向かって言わないけれど。



 そんななか、

「団長!怪しい男を捕らえました!」

騎士の凛々しい声が響き渡り、薄汚れた服装の男性が、グレーと赤色の隊服を着た騎士たちに抱えられて引き摺られてきた。
 彼はぐったりとして下を向いている。そんな彼に、見覚えがある。

「辺境伯閣下の屋敷の近くで、メリッサ様の名を大声で呼んでいました!」

 その報告を聞き、

「メリッサ!? 」

彼は顔を上げた。そんな彼を見て、

「ヒューゴ!? 」

思わず彼の名を呼んでいた。


 ヒューゴがどうしてここにいるの!? 
 馬車で故郷から四日間もかかる、この辺境の地に……!?


 ヒューゴは虚な目で私を見た。そして、泣きそうな顔で笑う。

「メリッサ……やっと見つけた……」

「あなたは、ヤヌース伯爵領の、メリッサの友人ですね」

 隣にいるジルが驚いたように言う。そして、ヒューゴを捕らえている騎士たちに離すように命じる。
 騎士たちが手を離した瞬間、ヒューゴは地面に崩れ落ちた。もう、体力も限界なのだろうか。だが、どうしてこんなところまで……

 ヒューゴは立つ力もないのだろう。地面に這いつくばって私を見る。その服は汚れ、顔には土が付いている。だが、すがるように私を見て告げる。

「メリッサ!君は好きでもない相手と婚約して、その結果婚約破棄をしようとしている。
 だから僕はようやく決心した。

 ……僕と、駆け落ちしよう」

「……は!? 」

 私はあんぐりと口を開けてヒューゴを見つめている。

 言っている意味が分からない。……駆け落ち!? 

 そして、それを少しずつ理解するとともに、さらに信じられない気持ちでいっぱいになる。
 ヒューゴは冗談を言っているのかと思った。だが、彼は真剣な目で私を見続けるままだ。私はもちろんヒューゴと駆け落ちするつもりはないが……ヒューゴはどうなってしまったのだろう!?


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