6 / 78
【第一章】片想い編
6. ゲームとは少し違うみたい
しおりを挟む
「失礼します」
そう言って部屋に入ってきたのは、黒いメイド服を着た侍女だった。グルニア帝国でも侍女に会ったが、彼女はやつれて絶望的な顔をしていた。それに比べ、目の前にいる侍女は元気そうでにこにこ笑っている。こんなロスノック帝国の侍女を見て安心したのは言うまでもない。
「ローザ様、お食事をお持ちしました」
侍女はそう言って、ワゴンから次々に食べ物を下ろし、テーブルに並べていく。
いつもなら、ローザと呼ばれて飛び上がって逃げたくなるところだ。だが、空腹で背中とお腹がくっつきそうな私は、逃げることも出来ずじっと凝視している。
ミニサイズのサラダに、美味しそうな香りのするスープ。そして、ハードブレッドにラスク……
「ローザ様、申し訳ありません。この国は現在食糧難のため、お出し出来るのはこのくらいなんですが……」
「いえ……私には、この上ないご馳走に見えます」
私は泣きそうになりながらも素直にそう告げていた。
そう思うのも当然だ。私が今までグルニア帝国で与えられてきた食糧は、人が食べられるようなものではなかった。いくら空腹でも、これは食べてはいけないというものばかりだった。
むしろ、
「食糧難なのに、すみません」
その気持ちのほうが強い。
きっと、私がこうやって食べている間にも、食物がなくて困っている人がいるのだろう。私はグルニア帝国側の人間だったのに、ここまで良くしてくれて申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
ゲームの中でも、ロスノック帝国では飢饉が起こっていると設定されていた。そして、国民を飢えから守るためにも、ロスノック帝国はグルニア帝国の機械を欲しがったのだ。
だが、グルニア帝国の侍女から聞いた話は、少し違っていた。グルニア帝国は、ロスノック帝国の広大な農地を欲しがっているのだ。ロスノック帝国には広大な農地があるのに、なぜ作物が取れないのだろうか。
色々考えを巡らせる私は、この侍女にもっと話を聞きたい。だが、陰キャ特有のスキル『気を遣いすぎて話しかけられない』が発動してしまい、私は黙ってご飯を食べた。
というのも、侍女は私に美味しそうな紅茶を淹れてくれた後、ベッドを整えたり清潔な服を出したりと、何かと忙しそうに世話をしてくれるからだ。
私なんかにここまで良くしてもらって、申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
そして、侍女を気にしながらも食事を食べた私は、思わず微笑んでしまった。というのも、出された食事がとても美味しかったからだ。
この世界に来てからというもの、人道的な対応をされなかった私は、もとの世界に勝るほどこの世界が嫌いになっていた。だけど、ここへ来て初めての、温かい対応だ。
ハードブレッドはほのかな麦の香りがし、バターを塗るととても美味しかった。スープは具こそ入っていないが、癒される温かさだ。
私はとても美味しそうに食べていたのだろう。侍女は私を見てホッとした表情で告げた。
「お口に合って何よりです」
そこで初めて、ずっと言いたかった言葉を伝えることが出来た。
「ありがとうございます」
こんなにも、貴重な食糧を分けてくださってありがとうございます。
こんなにも、優しく対応してくださってありがとうございます。
美味しい食事を終えると、また侍女が全て片付けてくれた。手伝おうとするが、陰キャの私はおどおどとするばかり。そんな私を見兼ねて、侍女は笑顔で言う。
「殿下から、ローザ様は大層お疲れだと聞いています。
殿下が心配されるので、ローザ様はゆっくり休まれてください」
殿下って……きっと、レオン様のことだろう。
この国のレオン様は、ゲームとは違って神かと思うほどの優しさだ。だが、今まで散々人に欺かれてきた私は、もちろんレオン様のことも信じていない。
私は挙動不審になりながらも、なんとか言葉を発して侍女に聞く。
「私が回復したら……レオン様は何をされるつもりでしょうか?」
グルニア帝国に送り返されるのだろうか。それとも、拷問にでも遭うのだろうか。
「……え?」
侍女は驚いたように私を見た。そして逆に聞く。
「何をされるって……
あなた、何か悪いことでもしたのですか?」
私はぐっと口を閉じた。
私は悪いことはしていないが、グルニア帝国側にいた。……いや、私がこの地にやって来た時、予期もせず白い閃光を放っていたのだ。その時は、私の周りにロスノック帝国の戦士が倒れていた。あれは、私のせいだ。
こんなこと、レオン様に言いたくない。だけど私は確実に、処刑されるようなことをやっているのだし、レオン様も知っているだろう。
全身を震えが走った。
私はこの地でも歓迎されず、酷い目に遭うのだろうか。それならば、いっそのこと人生終わってしまいたい。
怯える私に侍女は告げる。
「殿下は正義感が強く心優しいかたです。
あなたが悪い行いをしていないのなら、あなたを悪いようにはしないと思いますが……」
いや、してしまったのだ。
私はロスノック帝国に、大損害を与えたのだ。
どんな顔をしてレオン様に会えばいいのだろう。そして、私はどうなってしまうのだろう。この世界のレオン様はゲームとは違い、正義感が強くて優しかったとしても、敵である私に情けをかけるなんてことはないに決まっている。
悶々と考える私をおいて、侍女は忙しそうに出て行った。
そしてしばらくして、侍女の出て行った扉から入ってきたのは、他ならぬレオン様だったのだ。
そう言って部屋に入ってきたのは、黒いメイド服を着た侍女だった。グルニア帝国でも侍女に会ったが、彼女はやつれて絶望的な顔をしていた。それに比べ、目の前にいる侍女は元気そうでにこにこ笑っている。こんなロスノック帝国の侍女を見て安心したのは言うまでもない。
「ローザ様、お食事をお持ちしました」
侍女はそう言って、ワゴンから次々に食べ物を下ろし、テーブルに並べていく。
いつもなら、ローザと呼ばれて飛び上がって逃げたくなるところだ。だが、空腹で背中とお腹がくっつきそうな私は、逃げることも出来ずじっと凝視している。
ミニサイズのサラダに、美味しそうな香りのするスープ。そして、ハードブレッドにラスク……
「ローザ様、申し訳ありません。この国は現在食糧難のため、お出し出来るのはこのくらいなんですが……」
「いえ……私には、この上ないご馳走に見えます」
私は泣きそうになりながらも素直にそう告げていた。
そう思うのも当然だ。私が今までグルニア帝国で与えられてきた食糧は、人が食べられるようなものではなかった。いくら空腹でも、これは食べてはいけないというものばかりだった。
むしろ、
「食糧難なのに、すみません」
その気持ちのほうが強い。
きっと、私がこうやって食べている間にも、食物がなくて困っている人がいるのだろう。私はグルニア帝国側の人間だったのに、ここまで良くしてくれて申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
ゲームの中でも、ロスノック帝国では飢饉が起こっていると設定されていた。そして、国民を飢えから守るためにも、ロスノック帝国はグルニア帝国の機械を欲しがったのだ。
だが、グルニア帝国の侍女から聞いた話は、少し違っていた。グルニア帝国は、ロスノック帝国の広大な農地を欲しがっているのだ。ロスノック帝国には広大な農地があるのに、なぜ作物が取れないのだろうか。
色々考えを巡らせる私は、この侍女にもっと話を聞きたい。だが、陰キャ特有のスキル『気を遣いすぎて話しかけられない』が発動してしまい、私は黙ってご飯を食べた。
というのも、侍女は私に美味しそうな紅茶を淹れてくれた後、ベッドを整えたり清潔な服を出したりと、何かと忙しそうに世話をしてくれるからだ。
私なんかにここまで良くしてもらって、申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
そして、侍女を気にしながらも食事を食べた私は、思わず微笑んでしまった。というのも、出された食事がとても美味しかったからだ。
この世界に来てからというもの、人道的な対応をされなかった私は、もとの世界に勝るほどこの世界が嫌いになっていた。だけど、ここへ来て初めての、温かい対応だ。
ハードブレッドはほのかな麦の香りがし、バターを塗るととても美味しかった。スープは具こそ入っていないが、癒される温かさだ。
私はとても美味しそうに食べていたのだろう。侍女は私を見てホッとした表情で告げた。
「お口に合って何よりです」
そこで初めて、ずっと言いたかった言葉を伝えることが出来た。
「ありがとうございます」
こんなにも、貴重な食糧を分けてくださってありがとうございます。
こんなにも、優しく対応してくださってありがとうございます。
美味しい食事を終えると、また侍女が全て片付けてくれた。手伝おうとするが、陰キャの私はおどおどとするばかり。そんな私を見兼ねて、侍女は笑顔で言う。
「殿下から、ローザ様は大層お疲れだと聞いています。
殿下が心配されるので、ローザ様はゆっくり休まれてください」
殿下って……きっと、レオン様のことだろう。
この国のレオン様は、ゲームとは違って神かと思うほどの優しさだ。だが、今まで散々人に欺かれてきた私は、もちろんレオン様のことも信じていない。
私は挙動不審になりながらも、なんとか言葉を発して侍女に聞く。
「私が回復したら……レオン様は何をされるつもりでしょうか?」
グルニア帝国に送り返されるのだろうか。それとも、拷問にでも遭うのだろうか。
「……え?」
侍女は驚いたように私を見た。そして逆に聞く。
「何をされるって……
あなた、何か悪いことでもしたのですか?」
私はぐっと口を閉じた。
私は悪いことはしていないが、グルニア帝国側にいた。……いや、私がこの地にやって来た時、予期もせず白い閃光を放っていたのだ。その時は、私の周りにロスノック帝国の戦士が倒れていた。あれは、私のせいだ。
こんなこと、レオン様に言いたくない。だけど私は確実に、処刑されるようなことをやっているのだし、レオン様も知っているだろう。
全身を震えが走った。
私はこの地でも歓迎されず、酷い目に遭うのだろうか。それならば、いっそのこと人生終わってしまいたい。
怯える私に侍女は告げる。
「殿下は正義感が強く心優しいかたです。
あなたが悪い行いをしていないのなら、あなたを悪いようにはしないと思いますが……」
いや、してしまったのだ。
私はロスノック帝国に、大損害を与えたのだ。
どんな顔をしてレオン様に会えばいいのだろう。そして、私はどうなってしまうのだろう。この世界のレオン様はゲームとは違い、正義感が強くて優しかったとしても、敵である私に情けをかけるなんてことはないに決まっている。
悶々と考える私をおいて、侍女は忙しそうに出て行った。
そしてしばらくして、侍女の出て行った扉から入ってきたのは、他ならぬレオン様だったのだ。
67
お気に入りに追加
274
あなたにおすすめの小説
異世界で神様になってたらしい私のズボラライフ
トール
恋愛
会社帰り、駅までの道程を歩いていたはずの北野 雅(36)は、いつの間にか森の中に佇んでいた。困惑して家に帰りたいと願った雅の前に現れたのはなんと実家を模した家で!?
自身が願った事が現実になる能力を手に入れた雅が望んだのは冒険ではなく、“森に引きこもって生きる! ”だった。
果たして雅は独りで生きていけるのか!?
実は神様になっていたズボラ女と、それに巻き込まれる人々(神々)とのドタバタラブ? コメディ。
※この作品は「小説家になろう」でも掲載しています
魔晶石ハンター ~ 転生チート少女の数奇な職業活動の軌跡
サクラ近衛将監
ファンタジー
女神様のミスで事故死したOLの大滝留美は、地球世界での転生が難しいために、神々の伝手により異世界アスレオールに転生し、シルヴィ・デルトンとして生を受けるが、前世の記憶は11歳の成人の儀まで封印され、その儀式の最中に前世の記憶ととともに職業を神から告げられた。
シルヴィの与えられた職業は魔晶石採掘師と魔晶石加工師の二つだったが、シルヴィはその職業を知らなかった。
シルヴィの将来や如何に?
毎週木曜日午後10時に投稿予定です。
転生したおばあちゃんはチートが欲しい ~この世界が乙女ゲームなのは誰も知らない~
ピエール
ファンタジー
おばあちゃん。
異世界転生しちゃいました。
そういえば、孫が「転生するとチートが貰えるんだよ!」と言ってたけど
チート無いみたいだけど?
おばあちゃんよく分かんないわぁ。
頭は老人 体は子供
乙女ゲームの世界に紛れ込んだ おばあちゃん。
当然、おばあちゃんはここが乙女ゲームの世界だなんて知りません。
訳が分からないながら、一生懸命歩んで行きます。
おばあちゃん奮闘記です。
果たして、おばあちゃんは断罪イベントを回避できるか?
[第1章おばあちゃん編]は文章が拙い為読みづらいかもしれません。
第二章 学園編 始まりました。
いよいよゲームスタートです!
[1章]はおばあちゃんの語りと生い立ちが多く、あまり話に動きがありません。
話が動き出す[2章]から読んでも意味が分かると思います。
おばあちゃんの転生後の生活に興味が出てきたら一章を読んでみて下さい。(伏線がありますので)
初投稿です
不慣れですが宜しくお願いします。
最初の頃、不慣れで長文が書けませんでした。
申し訳ございません。
少しづつ修正して纏めていこうと思います。
ぽっちゃり女子の異世界人生
猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。
最強主人公はイケメンでハーレム。
脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。
落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。
=主人公は男でも女でも顔が良い。
そして、ハンパなく強い。
そんな常識いりませんっ。
私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。
【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】
婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです
青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています
チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。
しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。
婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。
さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。
失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。
目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。
二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。
一方、義妹は仕事でミスばかり。
闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。
挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。
※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます!
※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。
30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。
ひさまま
ファンタジー
前世で搾取されまくりだった私。
魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。
とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。
これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。
取り敢えず、明日は退職届けを出そう。
目指せ、快適異世界生活。
ぽちぽち更新します。
作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。
脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。
最弱スキルも9999個集まれば最強だよね(完結)
排他的経済水域
ファンタジー
12歳の誕生日
冒険者になる事が憧れのケインは、教会にて
スキル適性値とオリジナルスキルが告げられる
強いスキルを望むケインであったが、
スキル適性値はG
オリジナルスキルも『スキル重複』というよくわからない物
友人からも家族からも馬鹿にされ、
尚最強の冒険者になる事をあきらめないケイン
そんなある日、
『スキル重複』の本来の効果を知る事となる。
その効果とは、
同じスキルを2つ以上持つ事ができ、
同系統の効果のスキルは効果が重複するという
恐ろしい物であった。
このスキルをもって、ケインの下剋上は今始まる。
HOTランキング 1位!(2023年2月21日)
ファンタジー24hポイントランキング 3位!(2023年2月21日)
異世界着ぐるみ転生
こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生
どこにでもいる、普通のOLだった。
会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。
ある日気が付くと、森の中だった。
誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ!
自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。
幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り!
冒険者?そんな怖い事はしません!
目指せ、自給自足!
*小説家になろう様でも掲載中です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる