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【第一章】片想い編

6. ゲームとは少し違うみたい

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「失礼します」

 そう言って部屋に入ってきたのは、黒いメイド服を着た侍女だった。グルニア帝国でも侍女に会ったが、彼女はやつれて絶望的な顔をしていた。それに比べ、目の前にいる侍女は元気そうでにこにこ笑っている。こんなロスノック帝国の侍女を見て安心したのは言うまでもない。

「ローザ様、お食事をお持ちしました」

 侍女はそう言って、ワゴンから次々に食べ物を下ろし、テーブルに並べていく。
 いつもなら、ローザと呼ばれて飛び上がって逃げたくなるところだ。だが、空腹で背中とお腹がくっつきそうな私は、逃げることも出来ずじっと凝視している。

 ミニサイズのサラダに、美味しそうな香りのするスープ。そして、ハードブレッドにラスク……

「ローザ様、申し訳ありません。この国は現在食糧難のため、お出し出来るのはこのくらいなんですが……」

「いえ……私には、この上ないご馳走に見えます」

 私は泣きそうになりながらも素直にそう告げていた。
 そう思うのも当然だ。私が今までグルニア帝国で与えられてきた食糧は、人が食べられるようなものではなかった。いくら空腹でも、これは食べてはいけないというものばかりだった。

 むしろ、

「食糧難なのに、すみません」

その気持ちのほうが強い。

 きっと、私がこうやって食べている間にも、食物がなくて困っている人がいるのだろう。私はグルニア帝国側の人間だったのに、ここまで良くしてくれて申し訳ない気持ちでいっぱいだ。

 ゲームの中でも、ロスノック帝国では飢饉が起こっていると設定されていた。そして、国民を飢えから守るためにも、ロスノック帝国はグルニア帝国の機械を欲しがったのだ。
 だが、グルニア帝国の侍女から聞いた話は、少し違っていた。グルニア帝国は、ロスノック帝国の広大な農地を欲しがっているのだ。ロスノック帝国には広大な農地があるのに、なぜ作物が取れないのだろうか。

 色々考えを巡らせる私は、この侍女にもっと話を聞きたい。だが、陰キャ特有のスキル『気を遣いすぎて話しかけられない』が発動してしまい、私は黙ってご飯を食べた。

 というのも、侍女は私に美味しそうな紅茶を淹れてくれた後、ベッドを整えたり清潔な服を出したりと、何かと忙しそうに世話をしてくれるからだ。
 私なんかにここまで良くしてもらって、申し訳ない気持ちでいっぱいだ。

 そして、侍女を気にしながらも食事を食べた私は、思わず微笑んでしまった。というのも、出された食事がとても美味しかったからだ。
 この世界に来てからというもの、人道的な対応をされなかった私は、もとの世界に勝るほどこの世界が嫌いになっていた。だけど、ここへ来て初めての、温かい対応だ。

 ハードブレッドはほのかな麦の香りがし、バターを塗るととても美味しかった。スープは具こそ入っていないが、癒される温かさだ。

 私はとても美味しそうに食べていたのだろう。侍女は私を見てホッとした表情で告げた。

「お口に合って何よりです」

 そこで初めて、ずっと言いたかった言葉を伝えることが出来た。

「ありがとうございます」

 こんなにも、貴重な食糧を分けてくださってありがとうございます。
 こんなにも、優しく対応してくださってありがとうございます。




 美味しい食事を終えると、また侍女が全て片付けてくれた。手伝おうとするが、陰キャの私はおどおどとするばかり。そんな私を見兼ねて、侍女は笑顔で言う。

「殿下から、ローザ様は大層お疲れだと聞いています。
 殿下が心配されるので、ローザ様はゆっくり休まれてください」

 殿下って……きっと、レオン様のことだろう。
 この国のレオン様は、ゲームとは違って神かと思うほどの優しさだ。だが、今まで散々人に欺かれてきた私は、もちろんレオン様のことも信じていない。

 私は挙動不審になりながらも、なんとか言葉を発して侍女に聞く。

「私が回復したら……レオン様は何をされるつもりでしょうか?」

 グルニア帝国に送り返されるのだろうか。それとも、拷問にでも遭うのだろうか。

「……え?」

 侍女は驚いたように私を見た。そして逆に聞く。

「何をされるって……
 あなた、何か悪いことでもしたのですか?」

 私はぐっと口を閉じた。
 私は悪いことはしていないが、グルニア帝国側にいた。……いや、私がこの地にやって来た時、予期もせず白い閃光を放っていたのだ。その時は、私の周りにロスノック帝国の戦士が倒れていた。あれは、私のせいだ。
 
 こんなこと、レオン様に言いたくない。だけど私は確実に、処刑されるようなことをやっているのだし、レオン様も知っているだろう。

 全身を震えが走った。
 私はこの地でも歓迎されず、酷い目に遭うのだろうか。それならば、いっそのこと人生終わってしまいたい。

 怯える私に侍女は告げる。

「殿下は正義感が強く心優しいかたです。
 あなたが悪い行いをしていないのなら、あなたを悪いようにはしないと思いますが……」

 いや、してしまったのだ。
 私はロスノック帝国に、大損害を与えたのだ。

 どんな顔をしてレオン様に会えばいいのだろう。そして、私はどうなってしまうのだろう。この世界のレオン様はゲームとは違い、正義感が強くて優しかったとしても、敵である私に情けをかけるなんてことはないに決まっている。



 悶々と考える私をおいて、侍女は忙しそうに出て行った。

 そしてしばらくして、侍女の出て行った扉から入ってきたのは、他ならぬレオン様だったのだ。



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