命ある限りの贖罪

大里 悠

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「なんでこんなことに!」

    部屋へ戻った僕は、叫んでいる坂出の所へ行き、まずは落ち着かせようとした。

「坂出、とにかく落ち着け」
「これが落ち着いていられる訳無いだろ!香織が死んでるんだ!それに、正人がバケモノに連れてかれたんだぞ!」
「分かってる!だとしても、今はこの屋敷から出ないと僕らも殺されるかもしれないだろ!」
「!………すまん、取り乱した」
「とにかく今は外に出ることを考えよう」
「…ああ」
「そうだ、源玖須は歩けそうか?」
「……うん」

    源玖須は返事をしてくれたけれど、顔はうつむき自分の体を掴んでいる腕は小さく震えていた。

    それから僕達は、この広い部屋を出てからまず地下を出るための階段に向かって歩いた。
    しかし、その途中でさっき来た階段の方に何かがいるような感じがした。そのまま歩いていると、人影が見え、それに気づいた坂出が人影に明かりを向けた。

「正人!無事だったのか!」
「さ、坂出くん!」

    するとそこに見えたのは、さっきバケモノに連れ去られた木ノ下の姿だった。

「良かった、逃げれたんだな、本当に良かった。」
「三人とも……!早く逃げっ!」
「な!しょ、正人!」

    坂出が声をかけると木ノ下は少し安堵した表情を浮かべたけれど、すぐに顔を強ばらせて僕達に逃げろと言った。
    しかし、そう言った瞬間に、木ノ下の後ろに人影が現れ、木ノ下の首と頭を黒々とした手で掴み、そのまま木ノ下の頭を、骨が折れる音と共に勢いよく百八十度回転させた。

「うわああ!」
「き、きゃあああ!!」
「■■■■■■!!」

    僕達が悲鳴をあげるのと同じタイミングでバケモノも聞き取れない言葉で叫び声をあげた。

「う、うおお!!」
「なっ!坂出!」

    バケモノが叫びながら僕達の方へ走り出そうとした瞬間、坂出がそのバケモノに向かって飛び蹴りを放ちこう言った。

「お前ら!さっさと階段を上がって逃げろ!」
「坂出はどうするんだ!?」
「すぐに追いかけるから早く行け!」
「っ!分かった、絶対に死ぬな!」

    坂出は僕の言葉に対して、涙を流しながらも笑顔を作って応えた。

    生きていられる確証も無いのに坂出は、僕達を助けてくれた。
    その事を胸に刻み、残された僕と源玖須はこの屋敷の、分かっている限りで唯一の出口である大きな扉のある所まで走った。

    幸いにも、扉は開かれていてすぐに出られそうだった。

「源玖須、急いで行「危ない!!」!?」

    しかし、僕が源玖須へ話しかけた時、僕は思いっきり押された。
    その結果、僕達がいた所に瓦礫が降ってきていた。
    降ってきた衝撃で舞い上がった砂埃が収まって、僕は、源玖須を探した。
    源玖須はすぐに見つかったけれど、僕を押したせいで降ってきた瓦礫が体の至るところにぶつかり、大きな木片がお腹の辺りを貫いていた。

「おい源玖須!なんで、なんで僕を助けた!?」

    そう問いかける僕に、源玖須は小さく掠れた声で話始めた。

「ねぇ、きょう、たろうくん。たぶん、きづいて、なかった、と、おもうけど、わたしね、ずっ、と、すき、だったの。おぼ、えてる?にゅうがく、しきの、こと。」
「おい源玖須、もうこれ以上喋らないでくれ、これから死ぬみたいなこと、言わないでくれ」
「そ、う?でも、これ、だけは、いわせて。わたしは、あなた、のことが、好き…で……す……」
「おい、なぁ、起きてくれよ、そんな、生きて、くれよ……」

    暫くの間、僕はその場を動くことができなかった。それでも、僕は生きていないといけないと思った。
    今、僕が生きているのは、坂出や源玖須の命を犠牲にしてしまったから。なのに僕が死んでしまったら、それが無意味に終わってしまうことになる。

    そして僕は屋敷を出て、近くの広場で待っていたクラスの皆に説明をし、屋敷へ戻った。

    暫くすると、警察と共に、クラスの代表として学級委員がやって来た。
    中へ入って行った警察が出てきた頃には、すでに朝日が昇り始めていて、そのまま僕達は何があったのかを説明することになった。

    そして中の様子を聞いた僕は驚愕した。
    坂出達の遺体はあったのに、彼らを殺したバケモノのいた証拠がなかったからだ。
    その事から、警察に僕が犯人ではないかと疑われ、状況で判断されてしまいそのまま僕は犯人として逮捕されてしまった。



────



    あれから十年ほど経った今振り返ってみても、やはり僕はどうしようもないほどに卑怯で、愚かな人間だった。
    坂出に助けられた時など、感謝の思いが浮かぶよりも早く、生きていたいという自分本意な考えが思い浮かんだ。

    こんな人間の為に死んでしまった彼らには、今の僕では償いをすることが出来ない。

    それに、あのバケモノはやはり存在していたようだ。これだけは断言できるだろう。


    なにせ、今まさに僕の目の前で、僕から抜き取った心臓を手に、嗤っているのだから。

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