お隣のお兄さんは私を弟認定しているらしい

麻生空

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私と隣のお兄さん

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中学3年生の春の終わりに、家の隣にお兄さんの一家が越して来た。

普通の家5軒分のその土地は、数年前まで老夫婦が住んでいた場所で、越して来たお兄さんの家族はその老夫婦の娘の家族なのだと言う。

「こんばんは、今日から隣に越して来た鮎川早苗です。そして、息子の匠です」
「こんばんは」
「主人は仕事でご挨拶には伺えませんでしたが、これから宜しくお願いします」
そう言って頭を下げる二人。

品のあるお母さんと、ちょっと、いや、だいぶイケメンの息子。

「これはお近づきの印に、引っ越し蕎麦ですが」

そう言って家の母に結構大きな箱の入った袋を手渡しする。

「まぁ、ご丁寧にありがとうございます。私は小林由香里で、この子が葵葉、そしてこっちの子が春樹です。家も主人は仕事で」
そう言って母に促されながら私と春樹は「宜しくお願いします」とお辞儀をした。
私は丁度部活帰りのジャージ姿、春樹は私の1歳下の中学2年生で、文化部のため制服姿だ。
身長は私とあまり変わらず、良く近所のひとからは双子みたいと言われていた。

「二人とも真嶋中学校なんです。匠君は学校はどちらに?」
デリカシーのない母の問に早苗さんはニコリと品良く笑うと
「明日、真嶋一高の一年生に編入する事になってますの」
と、なんの事なく話す。
真嶋一高は偏差値75の共学の高校だ。
その下に真嶋第二の偏差値70の男子校と真鳥女子偏差値65が来る。
つまり、匠さんの通っていた前の高校は偏差値75以上かもしれない。

「真嶋第一でしたら葵葉の第一志望なんです。良ければ、たまにうちの葵葉に勉強を教えてくれないかしら?」

塾に行っている訳でもない私は、正直真嶋第一は荷が重かった。

「家庭教師代はそれほど出せないけど、もし、良ければ」

家は正直裕福ではない。
故に母は、良い学校へ入って良い会社に就職させたいと昔から私達に言っていた。

「まぁ、家庭教師のお金なんて良いですのよ。匠もこちらに来てまだお友達もいませんから、是非お友達として話相手になってください。勿論、同じ高校へ入ってくれるのなら匠も心強いと思いますし」

両母は何気に意気投合して当の本人の意志をまるっと無視して話をまとめている。

こんなイケメンのお兄さんが私なんかの相手をするとも思えない。

ここは、空気の読める私がなんとかしないと。
「そんな、匠さんにご迷惑だし、良いよ。自分で頑張るから」

「そんな事言ったって、高校受験は人生の岐路よ。これで進路も大体決まるのよ。今が一流企業に就職できるかフリーターになるかの分岐点なんだから」

とても大袈裟な話題の拡張だ。

そんな母に反論しようとした時、

「あの、葵葉君が良ければ、ここに来て最初の友人になりたいです。勿論一緒の高校へ行けるのなら僕も葵葉君の勉強を応援させて頂きます」
とイケメンのお兄さんがニコリと微笑んだ。

神、神が来た。
イケメン最高です。

「まぁ、葵葉良かったわね。匠君、これからも宜しくね」 

ゲに恐ろしき母のゴリ押し。

どう見ても早苗さんはあまり良い顔していない様子。

尚も微笑んでくるイケメンお兄さん。

これがお隣のお兄さんと私の出会いだった。
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