愛バラ

麻生空

文字の大きさ
上 下
48 / 76

もう一人の転生者キャサリン視点13

しおりを挟む
思い返せば、セドリックが来た翌日。

毎朝の(前世からの)日課の長湯をしながらコマンドを開き一人思案していた私は、魔術でお湯を沸かし直しつつ色々試行錯誤しながら魔法やスキルを発動させていた。
湯水を使い、色々な魔法を試したり。
減った湯水を魔術で出したりと、兎に角魔力を使いまくった。
それこそ湯水の如く。

その結果、私は魔力切れを起こして浴室でへばってしまったのだ。

何故それまで魔力を使うのを止めなかったのかって?

答えは簡単。
回復アイテムで魔力を回復しようと思っていたから。

はい。
お分かりですね。

そうです。
アイテムが使えなかった私は真っ裸で風呂場でダウンしてしまったのですよ。
これはもう不可抗力ふかこうりょくだよね。
だって、魔術やスキルが使えたんだよ。
普通だったらアイテムだって使えると思うのが人情と言うものでしょう?


こんなオチ、もう笑うしかない。
フフフ……挙げ句心配した兄達に散々な目に合うし……ハハハ……もう乾いた笑いしか出ないよ。
どんな目にあったかだって?内容は言いたくない。
て言うか、思い出したくもない。

それ以降、侍女が必ず一人浴室に待機しているという状況になったのはとても痛い。

何せ元来の日本人。
長風呂は欠かせない。


後日談になるが、そう言えば魔力切れに気付いたセドリックから貰ったドリンク。
あれって魔力回復アイテムだったのかしら?
あれを飲んだ後凄く楽になったんだよね。
後で聞いてみよう。


そんな事を考えていると何度かアイテムの使用を試したエマが呆然としていた。

ああ。
やっぱり駄目だったのね。

そう思った私はニコリと微笑み

「分かりました?」

と言ってみる。
そんな私にエマは苦笑気味に
「使えません……ね」
とだけ言った。


「それと、コマンド画面を表示しているだけでも魔力は消費していきますので気を付けた方が良いですよ」
私の苦い経験で助言をして見る。
あくまでも老婆心からそう言う。
何せ私はエマをあの悪魔に差し出したのだから。
「魔力切れで死ぬことはありませんが、いざと言う時の為に温存しておいた方が良いですよ。何せこの世界はあの『愛バラ』の世界ですからね」
そう。
ファーストシーズンなら兎も角セカンドは色々な意味でヤバい。
 苦笑気味にそう言うとエマは唸る様に頷く 。

その後食事をりながら再びエマと愛バラの話になった。
まぁ、大体想定内だよね。
しかし、想定外の事も起きた。
それは食事が終わり侍女達に食器を下げて貰っている時だった。
親しい侍女が私の傍らまで来てそっと「殿下がいらしています」と告げて行ったのだ。
私は「直ぐに行く」事と「何かあったら直ぐに知らせる」事を侍女に頼むとエマに断りを入れてセドリックの待つ部屋へと急いだ。


一体何しに来たんだか。
内心舌打ちしつつ扉を開けば優雅にお茶をしているセドリックがいた。そんな余裕セドリックを見て再び心の中で舌打ちする。
「おはようございますデンカ。前触れもなしにいらっしゃるので御迎えも出来ませんでしたわ」
嫌味炸裂とばかりに笑顔で言えば
「なに。気にするな」
と素っ気なく言われる。
この男……全然嫌味が通じない。
本日何度目かの舌打ちを心の中ですると、セドリックが「時間がないから要件だけを言おう」と宣った。
「それ私のセリフだから」
と思いっきり突っ込みを入れてしまっていた。
「あっ」やってしまったよ。
そんな私をセドリックはあえて無視して席を進める。
「立ち話もなんだから。先ずは座れ」
『ここ私の家』
今度は心の中で突っ込みを入れる事に成功し、私は静かに従った。

「先ずは君とライアンの件だが、私なりに根回しはしたのだが、少々厄介な問題が発生してしまった」
「『厄介な』とは一体どういった内容でしょうか?」
何か嫌な予感がバリバリするんですけど……。
「王族……と言うか、魔力の強い一族に良くある事なのだが」
そう言われてピンと来る。
「後継者問題ですか?子孫が出来にくいという?」
だから一夫多婦なんだよね。
「そうだ。故に側妃をとの声があるらしい。正直私も当分白の結婚を強いられる事になるから、エマとの魔力の相性についてもはっきりとは言えないのが弱味だ」
嘆息するセドリックに少し疑問が沸く。
ゲームとしての愛バラの設定は知っているが、この世界そのものの事は良く解らないからだ。
「魔力の相性ですか?魔力量の差ではなくてですか?魔力量の差があるから体内で魔力が暴れて子供が出来にくいのだと思っておりましたが……」
だからセドリックとエマの婚姻に何の障害もないはず。
そう思っていた。
「まぁ、相当の魔力量の差があれば相性が良くても子供は出来にくいだろうが、魔力の相性が悪い場合は魔力量の差なんて関係なく無理なんだ。今までのスキンシップでエマとは少量の唾液の交換をしてみた感じでは相性が良いように思う。けど、唾液は然程(さほど)の魔力を帯びていない。故に大丈夫だとは言い切れないのも事実なんだ」
あぁ、だからゲームではハッピーエンドでも側妃を置いたんだ。
「魔力を有する者の体液には大なり小なり魔力が宿る。その中でも精液には自身の情報源等も含まれる為に練り込まれている魔力も半端ない。故に白の結婚をしている1~2年が勿体ないと言う重鎮がいるのだ。その者の中には君を押す者もいて少々困っている」
「はぁ⤴️?」
思わず間抜け声を上げてしまった事にも気付かず、私は怒りに任せて言葉を紡いでいた。
「別に処女のままでも確認出来るでしょう!要は貴方の精液をエマの体内に取り込めばいいのだから」
そんな私の言葉にセドリックが生唾を飲み込む。
「下の口じゃなくったって上の口で致して貰えば良いじゃない」
「上の口?」
「そう上の口で『フェラチオ』して貰えば良いじゃないのよ」
怒涛の様に捲し立てる私に、セドリックは顎に手を当てながら問いかけて来た。
「キャサリン嬢。その『フェラチオ』とは何だ?」
「はぁ⤴️!」
今度こそ、とても間抜けな声を上げてセドリックを見てしまった。

しおりを挟む

処理中です...