愛バラ

麻生空

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エンゲージリングと言う名の7

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昨日と同様にジェイカル商会へと向かう馬車の中。
気のせいか、セドリックが目茶苦茶機嫌が良い。

私の顔を見ては時折思い出し笑いをして意味深にうっとりとする。
セドリックがニヤケるとか……イケメンで似合っているけど正直怖い。
何か企んでいるのではないか?と……。
だってセドリックは腹黒ど鬼畜どS王子なのだから。
私は引きつる笑顔を張り付けたままセドリックに愛想笑いをする。
怖い想像にヒヤヒヤしたり、思わず見惚れたりと……ある意味拷問だった。


ジェイカル商会は貴族街から少し行った所にあるので、然程の時間馬車に乗っていた訳ではないのだが、正直神経を消耗した様に思う。

ジェイカル商会の店先に着くとセドリックが先に降りて私をエスコートしてくれる。
何時もの様に優雅な所作に思わず見惚れてしまう。
そんな私達を既に入口の所に立っていたロベルトが微笑ましそうに見ていた。
二人で店先に並ぶとロベルトが深々と礼をとる。
「いらっしゃいませ。お待ちしておりました」
流れる様な動作で扉を開けて中へと促すロベルト。

奥の部屋へと誘導されるのを見ながら、今日の来店は予約していたのか?と疑問に思ってしまう。

「実は昨日お話していました大口の顧客が昨夜いらっしゃいまして、もう6個程追加して行かれたんですよ。お願い出来ますか?」
ロベルトの申し出に今日はMPが800あるから大丈夫かと安易に計算して「大丈夫ですよ」と笑顔で答えた。
「あの……そのお代の件ですが、昨日購入した宝石に充てては頂けませんか?」
私の申し出にロベルトは「構いませんよ。では、そのように」と快く了承する。
以前貰ったドレスや宝石もセドリックが内職してくれていたと思っただけで申し訳なく思っていた私は、ほっとして笑みをこぼした。
するとセドリックが私の髪を優しく撫でてくれる。
思いっきり子供扱いされた様に思う。
何となくムゥっとしていると
「そこは私に甘えて欲しかったな」
と、私の髪の毛にキスを落とした。

フンギャ~!!
何て事をしてくれるのでしょう?
危なく萌え死にする所だった。
これだから女慣れしているイケメンは恐ろしいのだ。
『平常心、平常心』
心の中で黙々所呪文を唱えた。



そんな私はセドリックに半場ドナドナされるように強制的に足を動かしていた。
そして、昨日と同じ部屋に着くと再び昨日と同じ様に石を持って来たロベルトは私に次々と魔石を手渡して来る。
まぁ、昨日やったのだからコツは解っている。
私は昨日同様に消耗MPを選択し石に術式を定着させて行く。
一瞬ロベルトが目を瞬かせていたが、私はお構い無しに作業を進めた。
6個終わった所でロベルトが箱を運び込み。

「それでは約束の品にございます」
仰々ぎょうぎょうしく差し出して来た。
セドリックが箱を開けて指輪を取り出す。
シルバーリングにはあの双子の片割れのアレキサンドライトが中央を陣取り、周りには私とセドリックの瞳の色に近い宝石が散りばめられていた。
セドリックは私の左手をそっと取ると

「一生君だけを愛すると誓う」

そう言い私の左手の薬指にそっと指輪をはめた。

「ありがとう」

嬉しいけど、なんか違う。

私はお礼を述べセドリックを見ると、セドリックの左手の薬指に同じ様な指輪がはまっていた。
「あのセドリック様」
「セディ」
間髪置かすセドリックが低く訂正する。
「……セディ。もしかしてペアリングですか?」
何か脅迫された様な気がする位の威圧感でセドリックの愛称を呼ぶと、セドリックは破顔して私の左手にはまった指輪にキスして来た。

「ふにゃぁ……」
イケメン半端ない……。
一瞬脳が溶けるかと思ったよ。

ドキドキしているとセドリックが指を絡めて来る。
「これで私達の仲を割く者はとことん排除出来るね」
指輪一つで……否、指輪二つで何が出来るのか?
それに、どうせならもっと雰囲気のある所でプロポーズされたかった。

元々この世界にはエンゲージリングと言う概念が無いから、こういう時にムードが必要なのは理解されないと思うけど。

正直やり直しを要求したい気分だった。

だって、プロポーズだよ。
人生の一大イベントだよね。

けど、 そんな事を考えていたのも束の間。
何故か瞼が重くなって来て私はセドリックに項垂れかかってしまった。

何で?

今日はまだMPが200位残っていると思うのに。

昨日の魔力切れと同じ様な症状に私はフラついてしまう。


完全にセドリックの胸の中に落ちた時には夢現ゆめうつつの世界だった。

微睡む意識の中でセドリックとロベルトの声が聞こえてくる。


「殿下は昔から(その性格が)変わりがございませんね」
「当たり前だろう。何が変わると言うのだ?」
「いえ。特には。それにしても今回はおめでとうございます。初恋は実らぬ物と良く言いますが、流石は悪魔の君と申しますか」
「初恋か……まぁ、今回は褒め言葉と受け取っておこうか」
「事実、褒めているのですがね」
「お前が言うとそうは聞こえない」
「殿下らしいですよ」
「しかし、これでも諦めてはいたんだ」
「嘘はいけませんね。結構拘っておりましたよ」
「そうか?まぁ否定はしない」
クスリとセドリックが笑むのを感じたと同時に瞼に熱い熱を感じた。
「彼女は殿下の幸運の女神になるかもしれない方なのですから大事にしてあげて下さい」
「当たり前だろう。こんなに愛しいのに大事にしない訳がない」
「それだけではないのですがね。まぁ今の所は良いでしょう。私もこの世界との盟約がありますので」
「盟約ね……。まぁ、今後も長い付き合いでいたいものだ」
「それは貴方の御心次第ですね」

ロベルトのその台詞を最後に私は深い眠りにと落ちて行った。
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