愛バラ

麻生空

文字の大きさ
上 下
23 / 76

取り敢えずセドリック一択で3

しおりを挟む
邸の一階へ降りた所でアンと合流し三人で虹の薔薇園へと向かう。
その途中イヴァンがアンの方を何度かチラチラと見る。

『もしかして、お兄様とアンは既にそういう仲なのでは?』と淡い思いにかられていると
「アン。エマの治癒をお願いしたいんだが」
イヴァンが言いにくそうにそう切り出した。

治療?
何の?
私、怪我していないわよ。

「治療ですか?エマお嬢様何処かお怪我を……」
心配そうにアンはイヴァンに詰め寄った。

私も聞きたい。
私何処を怪我したのかしら?

「ああ」
イヴァンは逡巡しゅんじゅんする。
チラリと私の首元を見るイヴァンに、その意味する所を悟った。

言いにくいですわよね。
正に『妹の体にあるキスマークを消してくれ』と言っている様なものだから。
思わず赤面してしまいますよ。

少し斜め上を見ているイヴァンに業を煮やしたアンが今度は私に詰め寄って来る。
「エマお嬢様。どちらを怪我されたのですか?」
真剣に聞いて来るアン。
私が返答に困っていると
「セドリックに噛みつかれた様なんで」
と兄がまたもや言いにくそうに言う。
まぁ『噛みつかれた様な』ものかとも思うが、ニュアンスが微妙ですよ。
それでは無数のキスマークを着けた事より、益々セドリックが変態になってしまう様な気がする。

そんな私の心情を察してか、アンは「まぁ。それは大変」とその『怪我』を確認する事なく私に手をかかげて治癒の呪文を唱えた。

一瞬にして身体が熱くなる。
治癒魔法の発動だ。

私はそれを聖霊の動きで分かった。
光を携えた聖霊達が私に寄り添い私の身体に干渉して行く。
『温かいな』と思っていると治療が完了していた。

「ありがとう。アン」
私はアンの心遣いに感謝しながらそう述べた。
本当は怪我の場所を確認してから発動させると魔力の消費が少なくてすむのにと思いながら。

流石ヒロインチートだと感心してしまう。

そんなやり取りをしながら園の中央にある広場まで行く。
「ここだな」
イヴァンは意を決して私が教えた言葉を紡ぐ。

「愛しき君に捧げる薔薇は、華々しく散らぬ約束を永久に捧げよう」

イヴァンの声が高らかと木霊する。
ブワッと風が渦巻くと薔薇の花びらが空中に舞う。

「我が永遠の友よ。久しいな」
アリアは姿を現すや私に微笑む。
そして、今度はゆっくりとイヴァンを見た。
「次代よ。古き言葉を紡いだと言う事は我と契約すると言う意思があると解釈するが」
「はい。アリア様」
イヴァンはアリアの姿を見るや緊張した様に返答する。
「ふむ。では我の側まで」
アリアの言葉に促される様にイヴァンは前に出る。
アリアはそっとイヴァンの手を取り、手の甲へと口付けた。
「次代よ、契約の印だ。我に用があるならば何時でも呼べ」
「はい」
アリアは淡々と話すとイヴァンの後ろに控えるアンを見やる。
「ほぉ~少々珍しい者がおるな」
一瞬アリアと目が合ったアンはドキリとして、そして固まるようにアリアを凝視する。
「混ざり者か、どれ」
アリアはそう言うとアンの所まで移動すると瞳を覗き込んで来た。
「大分薄い様だが……ふむ。故に次代に惹かれるか……なかなか興が沸くと言うもの……」
アリアの台詞にアンの頬はみるみる紅潮する。
「今日は面白いものが見れた。楽しかったぞ。次代よ」
アリアはそう言うとイヴァンに微みその場からさっと消えてしまう。

何時もながら忙しい方の様だ。

しかし、先程アリアが言っていたアンに『混ざり者』とは?

そう思い私がアンを見ていると、イヴァンも何やら思う所がある様にアンを見やる。
するとアンがきまりが悪い様な顔になり
「すみません。我が伯爵家にはたまにですが私の様な魔力持ちが現れるのです」
と言う。
またまた出たよヒロインチート設定が。
「あっ。でも、それほど強い物ではないのです」
焦った様にアンは弁解するが……

確かに治癒能力に優れてはいたが、攻撃系統はからっきしだった。
でも、正直この世界は攻撃系統や補助魔法はあっても治癒能力は稀で、そんな事出来たら下手すると聖女に祭り上げられて一生神殿住まいとか……。

いや~ないわ~。

何となくアンが不憫ふびんに思えてくる。

そんな事を思っていると「治せても多少の切り傷や火傷程度で」とゴニョゴニョと言いにくそうに話す。
『?……なんでその程度?確かに攻撃系統は多少だったけど、治癒能力はもっと凄かったと思うし、それに補助魔法も使えたはず……何で?』
そう思ったら確かめたくなるもの
『オープン・ザ・コマンド』
私はそう心で思い、アンのステータスを覗き見る。
すると……

アンの魔力がほぼ初期値の200
魔術師を名乗る上では初級の上、中級の下といった所か
そう言えばアンはレベル上げとかする訳がないよね。
そう思い至るとレベル上げに必要なイベントってこれから攻略対象と接触する事で発生する各イベントでのはぐれ聖霊とのバトルだったと思い出す。

いや~ちょっとそれまずいよね。
他の攻略対象との好感度上げるのは……。

まぁ手っ取り早くレベル上げるなら将軍の息子のジョセフ辺りと仲良くなると、お弁当持ってピクニックに行く先行く先で何故かはぐれ聖霊が出るんだけど、彼奴あいつはキャサリン情報では体力馬鹿の絶倫らしいし。
もう、この際レベル上げなくても良いからこのままにしておこう。

そう思ったから私はアンに向かって
「何も気にする事なんてないのよ。いざとなったら私とお兄様でアンを守るから」
と微笑んだ。
そんな私を見てアンが申し訳なさそうに
「エマお嬢様の足元にも付かない私ですがお側に支えても宜しいですか?」
と聞いて来た。
「アン何を言っているの?」
その時は本当に頭が回っていなかった。
アンのその言葉を聞くまでは
「エマお嬢様から感じられる魔力の足元にも付かない私ですが……」
潤んだ目で見てくるアン。
『あっ。そうか。この場合私の方がヒロインチートだった』
間抜けに口を開けポカンとする私と追い縋るアンを見つつ、兄のイヴァンが何とも言えない顔で見ていた。

何でしょうか?
私決してユリではありませんのよ。
お兄様勘違いしないでくださいましね。

そう思いつつ私はアンを落ち着かせる為に背に手を回して優しく撫でたのでした。

でも、この時ゲームの内容をちゃんと熟知していなかった事を後で反省する事になるとは、この時の私は思ってもいなかったのです。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

白い結婚は無理でした(涙)

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。 明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。 白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。 小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。 現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。 どうぞよろしくお願いいたします。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

完全なる飼育

浅野浩二
恋愛
完全なる飼育です。

パート先の店長に

Rollman
恋愛
パート先の店長に。

処理中です...