愛バラ

麻生空

文字の大きさ
上 下
18 / 76

遺憾ながら婚約発表致します3

しおりを挟む
「さぁ、キャサリン様お召し上がりになって」

私はそう言うと手前にあったケーキを取り分けキャサリン様へと手渡した。

「有り難うございますエマ様」

キャサリン様はにこりと微笑み、ホークで一口大の大きさに切るとそっと手を添えながら召し上がる。

「大変美味しゅうございますわ。エマ様もどうぞお召し上がりになって」
キャサリン様はそう言うと再び微笑む。
「有り難うございます。では」
そう言うと私もキャサリン様に習い一口大に切ったケーキを食べます。
「まぁ本当に美味しゅうございますわ」
「ホホホ……」と二人で笑った所で言葉が途切れた。

私はじっとキャサリン様を見て何と切り出すべきか思案している。
「エマ様どうしまして?」
と水を向けてくれる。
「実は私。キャサリン様にお願いがありますの」
ちょっと声のトーンが落ちてしまったのは決してやましい気持ちからではない。
「どの様な事ですの?私に出来る事でしたら構いませんわ」
小首を傾げながらキャサリン様は快い返事を返す。
それに私は嬉々として身を乗り出す。
「あの、実はキャサリン様は殿下の婚約者候補筆頭令嬢だったとお伺い致しました」
「ええ、そうですわね 」
口にカップを近付けつつキャサリン様は肯定する。
「それで、もし宜しければ殿下の婚約者を代わって頂けないかと思いまして」
私のとんでもない発言にキャサリン様は鳩が豆鉄砲を食らったような顔になる。

「は?冗談でございましょう」

一瞬にして眉間に皺が寄せるキャサリン様。
「いえ。真面目に言っております」
こちらも逃げないとばかりに更に身を乗り出した。
「冗談ではなくってよ。皆の前でも婚約発表したのですから、それ相応の理由がなければ破棄出来ません。それに、殿下と婚約破棄したなどとエマ様の醜聞にもなりましてよ。下手したら生涯結婚すら出来ない事に。お分かりかしら?」
キャサリン様は一気にそこまで言うと深く息をついた。
「重々承知しております、しかし、私には過ぎたご縁なので……」
語尾が低くなる私にキャサリン様が食い付く。

「嫌ですわ。私、今ライアン様と縁談がまとまる所ですのよ」
そこにあり得ないフレーズが入って来る。
「えっ?ライアン様ですか?」
思っても見なかった名前に私はビックリしてしまう。
だって、ライアンルートでは悪役令嬢は一切のちょっかいを出して来なかったはず。
はっきり言えば出来レースな攻略対象。
「正直言いますと、私殿下の事は好みではございませんの。周りが勝手にそう言っていただけでしてよ」
更に悪役令嬢とは思えない発言が続く。
「そうなのですか……」
そう言うと私は顔が蒼白になっていた。
「今回の婚約は政略的な動きはなかったと思いますが、エマ様は殿下の事が好きだからご婚約したのではなくて?」
さも当たり前の様にキャサリン様は問うてくる。
「ち……違います」
断固違います。
「では何故了承しましたの?こう言う言い方は悪いとは思いますが、マリク公爵様は王家から王太子の婚約者の話が出た時に真っ先に離脱の意思を示されたはずですが?」
「……」
私は何も言えなかった。
ただ、途方に暮れた顔になったのは自分でも解る。
「そんなお顔をされないで……宜しければお互いに仮面を取りませんこと?」
キャサリン様はそう言うと自身の仮面に手を掛けた。
「あっ……」
と言う間にキャサリン様の素顔がさらされる。
私もキャサリン様に習い仮面を取る。
「やはり……」
キャサリン様は目を見開き納得いったとばかりに相槌を打つ。

「不躾な質問を致しますわ。エマ様。『いとバラ』はご存知?」
一瞬キャサリン様から出た言葉に身体がフリーズする。
「何故その言葉を……」
キャサリン様は苦笑しながら
「色々納得行きましたわ。どうやら私達二人は転生者の様ですわね」
「転生者……私達が……」
「ええそうでしてよ。私も思い出したのが先月のお茶会でエマ様がお倒れになった時ですの。私もその後倒れてしまって……」
「そうでしたの……」
「思い出して最初に思った事は『これは愛バラのファーストシーズンだ』と言うことですわ」
なかなかついて行かない単語に更なる言葉が降りて来る。
「えっ?ファーストシーズンですか?」
なんだそれ?
「?エマ様知らないのですの?」
驚く私にキャサリン様の方が驚く。
「はい。私、愛バラはまだコンプリ60%でしたので、丁度エマお嬢様との友情エンドをした所で……」
そう、隠しキャラの想い出の君の一歩手前だったんだよ。
そう思うと残念で仕方ない。
「まぁ、そうでしたか。それは御愁傷様です」
「いえ」
何とも不思議な会話だ。
「ではセカンドシーズンなんて知らないのですわね」
それこそ寝耳に水だ。
「知りませんわ」
故に私は即答していた。
「ですわよね。正直最初はファーストシーズンだと思ったのに何やら殿下の動きもおかしく、イヴァン様はあの麗しの想い出の君になっているしで、途中でセカンドシーズンになったのだと思いましたわ」
益々訳のわからない。
大体そのセカンドシーズン事態が分からないのだ。
「あの因みにそのセカンドシーズンとはどの様な物ですの?」
「ああ。そうですわね。では少々内容をお話しますわ」
そう言うと再びケーキを食べる。
あれ?何かさっきよりがさつになっている様な……
「まぁ同じ転生者同士ですし。様付けもやめましょう。それに私達だけの時は素で話しましょう。正直肩が凝って……」
キャサリン様はそう言うと肩を回す。
「そうですね。では、キャサリン……と。それで、セカンドシーズンの内容を聞かせて下さい」
私も負けじとケーキにかぶり付く。

「まずセカンドシーズンの出だしはイヴァン様とアンの結婚式から始まるの。想い出の君と結ばれた二人が攻略対象皆から祝福を受けながら教会から出て来るシーンね。そして、その時マリク公爵家に掛けられていた呪いが解けて麗しの公爵一家として皆から注目が集まるの。その時にエマと話をした攻略対象から色々アプローチがあるんだけど……」
キャサリンはそこまで言うと言葉を切った。

「はっきり言ってセカンドシーズンは18禁のエロしかない作品だから」

「はい?」
思わず大きな声になってしまう。
「まずは攻略対象それぞれのエンドは勿論だけど、複数とのエンドとか。因みにバットエンドが逆ハーなんだよね。有り得ないから」
突然砕けたキャサリンの態度にエマがあんぐりがえる。
「あっ。解っていると思うけどセカンドシーズンの主人公は貴女だからね」
とキャサリンは何気に爆弾を投下して来た。

「な……なんですと~!!」
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

団長様の甘い誘惑(ハニートラップ)

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:853pt お気に入り:2,601

隻眼の騎士王の歪な溺愛に亡国の王女は囚われる

恋愛 / 完結 24h.ポイント:404pt お気に入り:434

【完結】身売りした妖精姫は氷血公爵に溺愛される

恋愛 / 完結 24h.ポイント:639pt お気に入り:3,699

(R18) 悪役令嬢なんて御免です!

恋愛 / 完結 24h.ポイント:482pt お気に入り:4,110

処理中です...