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遺憾ながら婚約発表致します2
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王宮の大広間には色とりどりの仮面を着けた紳士淑女が今日の夜会の話で盛り上がっていた。
その最もたるや、セドリック王太子の婚約発表である。
そして今回急に仮面着用のお触れが出たのはどうやら王太子の婚約者になるマリク公爵家の令嬢の為らしいと……。
私も公爵家の令嬢、それなりにお茶会などで売りたくもない顔を売っていた為、以前の顔を知っている貴族達が王太子の婚約者にしては残念な顔立ちを隠す為だと勘違いしている。
集まった貴族達は今回の婚約は政治的な何かが働いた結果で、自分達の娘の方が美しいと悦に入っているのだ。
何せあの美女線の王太子だ、美しい我が子に心を奪われれば最初は側妃としても将来は寵妃もありだろうと目論んでいる。
故の侮り。
私なんてただのお飾りの妃だと。
将来は自分の娘を引き立てるだけのパセリ程度に存在だと。
そう思っているのだ。
「あのお顔で……」
「政略結婚なんて殿下がお可哀想……」
「もっと器量のよい令嬢がおりますのに……」
などと、エマが聞いたら「そうですよね~止めた方が良いですわよね~」と言いそうな内容で、セドリックが聞いたら「明日には貴族名鑑から名前が消えても?」と笑って言いそうな事が囁かれていた。
そんな中、王太子婚約者有力候補令嬢筆頭と言われていたキャサリン・ウエンダは神妙な面持ちでいつもの取り巻きから離れ兄のオーウェンと話をしていた。
「てっきりセドリックはお前を婚約者にすると思っていたのに」
仮面越しで表情の読めない妹にオーウェンは愚痴の様に囁いた。
「気にしないで下さいまし、お兄様。それよりもライアン様との縁談、お願いしましてよ」
キャサリンはそう言うと艶やかに笑んだ。
「今まで王太子一択だったお前が、先月のお茶会の後に一転、ライアンと結婚したいだなどど言うから驚いたが、こうなって見るとライアンとの話を進めておいて良かったと思うよ」
思わず嘆息するオーウェン。
「フフフお兄様。私いくら相手が王子でも鬼畜は嫌ですの」
キャサリンがそう言えばオーウェンは驚きで目を見開く。
「それに、この方が政治的に均衡がとれるというものですわ」
フフフと笑いを漏らし、未だ開かぬ王間からの入り口を見やる。
「ですから、私が我が家の為にエマ様とも仲良くなりましてよ」
今まで散々嫌味を言ってた相手だ。
好印象があるとも思えない。
「頼もしいね」
オーウェンが目を細めながら妹のキャサリンを見ていると、高らかなファンファーレが鳴り響き王間の扉が開かれた。
「王太子セドリック・アイマロン様、並びにエマ・マリク公爵令嬢」
高らかに名前を呼ばれて二人が登場すれば会場から拍手が鳴り響く。
二人は拍手の嵐の中、国王夫妻の元まで歩みを進めた。
陛下が咳払いをすると拍手は止み静寂が支配する。
「本日は皆に王家として報告する事がある」
国王はそう言うとセドリックの隣へと歩み寄る。
「我が息子セドリックとマリク公爵家のエマ嬢がこの度めでたくも婚約した事をここに宣言する。又、婚姻の日時は追って周知する事とする」
国王の言葉が終わるや先程の比ではない程の拍手がなり響いた。
そして国王に促されセドリックと私は本日の最初のダンスを披露した。
セドリックにリードされながら夜会の最初のダンスをする。
つまりファーストダンスだ。
それの意味する所は、本日の主役は私達と言う事。
セドリックは私の手を取るとスマートにホールの中央までエスコートする。
一瞬にして静まりかえる会場。
セドリックが楽団の方をチラリと見ると指揮者の手が降り仰がれた。
曲が始まればセドリックは強い力で私の体を自身の体に寄せる。
腰に手を回されても正直ここ1ヶ月の経過を思い出すと動揺すら起こらない。
公爵家の令嬢らしく可憐なダンスを披露するとセドリックが満面の笑顔を向けてくる。
うっ……その笑顔にだけは未だ慣れない。
顔を赤らめステップを踏むと、何処からともなく悲鳴や歓声が聞こえて来る。
だって……私のはにかむ顔を見たセドリックが蕩けるような笑顔を向けるのですもの……。
その顔、滅茶苦茶心臓に悪いですわ。
私を殺す気かしら?と本当に思う。
そして、そんな様子を見ていた令嬢方も一瞬で魂を持って行かれた。
だから一曲踊り終わった所で壁の方へ逃げたのは致し方ない事だと明言したい。
「今夜の主役が退出するにはまだ早い。何か食べようか?」
セドリックはそう言うと食事が置いてあるフロアへと足を進める。
一応王太子なのだから皆に挨拶しなくて良いのだろうか?
そうは思うがセドリックに促され、眼前に並ぶ料理を眺めつつピタリと足が止まった。
あそこに見えるはデザートコーナー!
じっと見ているとセドリックが
「別室に運ばせるから好きなだけ選んで」
と魅惑的な誘い文句を言って来る。
「いえ。お気遣いなく」
貴方別室へ連れ込んでナニしようとしてんだ!と睨むとセドリックは苦笑する。
そんな私達の所へキャサリンを連れたオーウェンがやって来た。
「セドリック。今日はおめでとう」
「あぁ、オーウェンとキャサリン嬢。今日は我々の為に有り難う」
気さくに握手するセドリックにオーウェンは不適に笑った。
そんな二人の間にキャサリンが一歩踏み込む。
「殿下、エマ様、ご婚約寿ぎ申し上げますわ」
キャサリンはそう言うと淑女の礼をとる。
キャサリンのそんな台詞に私だけが微妙な笑みを見せ、男二人は訝しむ。
一瞬にしてキャサリンの笑みが深まる。
「殿下。少々エマ様をお借りしても宜しいでしょうか?女同士の親睦を深めたいのですわ」
キャサリンはそう言うと私に向かって笑む。
セドリックは逡巡しているが、私はそんなセドリックにお構い無しにキャサリンの方へと歩みでる。
だって、これはまたとない好機。
悪役令嬢と話が出来るではないか。
「キャサリン様。先日のお茶会では私の不徳の致す所で、あの様な醜態を晒してしまい申し訳ございません」
私は深々と会釈した。
「そんな事気にしてませんわ。どうか頭をお上げになって。お加減は良いのですか?」
キャサリンは慌てたように私に駆け寄るりと私の手を取り見つめて来る。
「有り難うございますキャサリン様。実は私もキャサリン様とお話がしたかったのでございます。で……いえ、セドリック様も別室をご用意して下さると仰っておりますので、是非そちらで」
お互いに手を取り合い固く手を握り合う。
今この時を逃してなるものか!!
そんな意気込みが二人の間にあった。
「ええ。勿論でしてよ」
二人がお互いのパートナーを見ると苦笑された。
「行っておいで」
とセドリックに優しく言われる。
だからだイケメンって……そう思っていると何故かキャサリンが微笑む。
そして、そんな二人の令嬢の様子を遠目から固唾を飲んで皆が注目していたなどとは、二人とも気付いてはいなかった。
何せ片や王太子婚約者候補筆頭、片や想定外のダークホース。
これから起こるであろう惨事を想像して固唾を飲んでいたのは致し方ない。
かくして皆に見守られつつ二人の令嬢はパーティー会場を後にしたのだった。
その最もたるや、セドリック王太子の婚約発表である。
そして今回急に仮面着用のお触れが出たのはどうやら王太子の婚約者になるマリク公爵家の令嬢の為らしいと……。
私も公爵家の令嬢、それなりにお茶会などで売りたくもない顔を売っていた為、以前の顔を知っている貴族達が王太子の婚約者にしては残念な顔立ちを隠す為だと勘違いしている。
集まった貴族達は今回の婚約は政治的な何かが働いた結果で、自分達の娘の方が美しいと悦に入っているのだ。
何せあの美女線の王太子だ、美しい我が子に心を奪われれば最初は側妃としても将来は寵妃もありだろうと目論んでいる。
故の侮り。
私なんてただのお飾りの妃だと。
将来は自分の娘を引き立てるだけのパセリ程度に存在だと。
そう思っているのだ。
「あのお顔で……」
「政略結婚なんて殿下がお可哀想……」
「もっと器量のよい令嬢がおりますのに……」
などと、エマが聞いたら「そうですよね~止めた方が良いですわよね~」と言いそうな内容で、セドリックが聞いたら「明日には貴族名鑑から名前が消えても?」と笑って言いそうな事が囁かれていた。
そんな中、王太子婚約者有力候補令嬢筆頭と言われていたキャサリン・ウエンダは神妙な面持ちでいつもの取り巻きから離れ兄のオーウェンと話をしていた。
「てっきりセドリックはお前を婚約者にすると思っていたのに」
仮面越しで表情の読めない妹にオーウェンは愚痴の様に囁いた。
「気にしないで下さいまし、お兄様。それよりもライアン様との縁談、お願いしましてよ」
キャサリンはそう言うと艶やかに笑んだ。
「今まで王太子一択だったお前が、先月のお茶会の後に一転、ライアンと結婚したいだなどど言うから驚いたが、こうなって見るとライアンとの話を進めておいて良かったと思うよ」
思わず嘆息するオーウェン。
「フフフお兄様。私いくら相手が王子でも鬼畜は嫌ですの」
キャサリンがそう言えばオーウェンは驚きで目を見開く。
「それに、この方が政治的に均衡がとれるというものですわ」
フフフと笑いを漏らし、未だ開かぬ王間からの入り口を見やる。
「ですから、私が我が家の為にエマ様とも仲良くなりましてよ」
今まで散々嫌味を言ってた相手だ。
好印象があるとも思えない。
「頼もしいね」
オーウェンが目を細めながら妹のキャサリンを見ていると、高らかなファンファーレが鳴り響き王間の扉が開かれた。
「王太子セドリック・アイマロン様、並びにエマ・マリク公爵令嬢」
高らかに名前を呼ばれて二人が登場すれば会場から拍手が鳴り響く。
二人は拍手の嵐の中、国王夫妻の元まで歩みを進めた。
陛下が咳払いをすると拍手は止み静寂が支配する。
「本日は皆に王家として報告する事がある」
国王はそう言うとセドリックの隣へと歩み寄る。
「我が息子セドリックとマリク公爵家のエマ嬢がこの度めでたくも婚約した事をここに宣言する。又、婚姻の日時は追って周知する事とする」
国王の言葉が終わるや先程の比ではない程の拍手がなり響いた。
そして国王に促されセドリックと私は本日の最初のダンスを披露した。
セドリックにリードされながら夜会の最初のダンスをする。
つまりファーストダンスだ。
それの意味する所は、本日の主役は私達と言う事。
セドリックは私の手を取るとスマートにホールの中央までエスコートする。
一瞬にして静まりかえる会場。
セドリックが楽団の方をチラリと見ると指揮者の手が降り仰がれた。
曲が始まればセドリックは強い力で私の体を自身の体に寄せる。
腰に手を回されても正直ここ1ヶ月の経過を思い出すと動揺すら起こらない。
公爵家の令嬢らしく可憐なダンスを披露するとセドリックが満面の笑顔を向けてくる。
うっ……その笑顔にだけは未だ慣れない。
顔を赤らめステップを踏むと、何処からともなく悲鳴や歓声が聞こえて来る。
だって……私のはにかむ顔を見たセドリックが蕩けるような笑顔を向けるのですもの……。
その顔、滅茶苦茶心臓に悪いですわ。
私を殺す気かしら?と本当に思う。
そして、そんな様子を見ていた令嬢方も一瞬で魂を持って行かれた。
だから一曲踊り終わった所で壁の方へ逃げたのは致し方ない事だと明言したい。
「今夜の主役が退出するにはまだ早い。何か食べようか?」
セドリックはそう言うと食事が置いてあるフロアへと足を進める。
一応王太子なのだから皆に挨拶しなくて良いのだろうか?
そうは思うがセドリックに促され、眼前に並ぶ料理を眺めつつピタリと足が止まった。
あそこに見えるはデザートコーナー!
じっと見ているとセドリックが
「別室に運ばせるから好きなだけ選んで」
と魅惑的な誘い文句を言って来る。
「いえ。お気遣いなく」
貴方別室へ連れ込んでナニしようとしてんだ!と睨むとセドリックは苦笑する。
そんな私達の所へキャサリンを連れたオーウェンがやって来た。
「セドリック。今日はおめでとう」
「あぁ、オーウェンとキャサリン嬢。今日は我々の為に有り難う」
気さくに握手するセドリックにオーウェンは不適に笑った。
そんな二人の間にキャサリンが一歩踏み込む。
「殿下、エマ様、ご婚約寿ぎ申し上げますわ」
キャサリンはそう言うと淑女の礼をとる。
キャサリンのそんな台詞に私だけが微妙な笑みを見せ、男二人は訝しむ。
一瞬にしてキャサリンの笑みが深まる。
「殿下。少々エマ様をお借りしても宜しいでしょうか?女同士の親睦を深めたいのですわ」
キャサリンはそう言うと私に向かって笑む。
セドリックは逡巡しているが、私はそんなセドリックにお構い無しにキャサリンの方へと歩みでる。
だって、これはまたとない好機。
悪役令嬢と話が出来るではないか。
「キャサリン様。先日のお茶会では私の不徳の致す所で、あの様な醜態を晒してしまい申し訳ございません」
私は深々と会釈した。
「そんな事気にしてませんわ。どうか頭をお上げになって。お加減は良いのですか?」
キャサリンは慌てたように私に駆け寄るりと私の手を取り見つめて来る。
「有り難うございますキャサリン様。実は私もキャサリン様とお話がしたかったのでございます。で……いえ、セドリック様も別室をご用意して下さると仰っておりますので、是非そちらで」
お互いに手を取り合い固く手を握り合う。
今この時を逃してなるものか!!
そんな意気込みが二人の間にあった。
「ええ。勿論でしてよ」
二人がお互いのパートナーを見ると苦笑された。
「行っておいで」
とセドリックに優しく言われる。
だからだイケメンって……そう思っていると何故かキャサリンが微笑む。
そして、そんな二人の令嬢の様子を遠目から固唾を飲んで皆が注目していたなどとは、二人とも気付いてはいなかった。
何せ片や王太子婚約者候補筆頭、片や想定外のダークホース。
これから起こるであろう惨事を想像して固唾を飲んでいたのは致し方ない。
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