愛バラ

麻生空

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王太子ルート回避出来ません3

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本当に来たよ。

翌日朝も早くから仕立て屋がやって来た。
丁度食事を終え兄イヴァンとアンと三人でお茶をしようとしていた矢先だった。
正直私の憩い(想い出の君とアンのベストショットを見る為)の時間を取られた事に対して、心の中で王太子相手にマジで抗議したのは言うまでもない。
『あいつ。私からファーストキスを奪うだけじゃなく憩いの時間までも取り上げるつもり!!』
淹れたての紅茶を飲もうとカップを持ったまま固まる私に滅茶苦茶仕事人風の仕立て屋は無情な宣言をする。

「お嬢様。採寸だけ致しますのでどうぞ別室へ」
と言うや、とっとと仕事に取り掛かる。
そして、私は一口も紅茶を飲まないまま別室へとドナドナされたのだ。

何と言うか……その後の仕事が早く、メジャーを持った数人の仕立て屋さんに左右グルグル回されながら数字を記される。
勿論全員女性で何故か皆スタイルが良い。
出るとこ出て凹むところが凹んでいる。
そんな男性受けの良い彼女達に私の貧相な身体が採寸されて行くのだ。
そして、そんな彼女達に何故か指のサイズまでも計られ辟易していると細かな数字が書き込まれた紙が目に入った。
胸の部分の数字が気になるが、聞くにも聞けない。

だってさ~聞いた後に「気にされる事ありませんよ」なんて慰められたらどうする?
それも、こんなナイスバディなその道のプロ達に哀れみの目で見られながら言われるんだよ。
絶対立ち直れない。

セドリックにキスをされた時の様に開き直れないよ。
そんな感じで更に事細かく採寸される所採寸される所気にしつつ悶々としながら身体をくまなくはかられ、気付くと既に昼を過ぎていた。
採寸ってこんなに疲れるものだったかしら?
大体手の指までは分かるけど、何故足の指まで長さを計られるのか全然理解出来ない、それともこれがこの世界の基本的な採寸方法なのだろうか?
そんな私の疑問が顔に出ていたのか、仕立て屋の方が帰り際にデザインがまだ決まっていない為にあらゆる部位を採寸する事になったと釈明していった。
正直こんなに採寸に時間が掛かるならデザインを先に決めて欲しかったと思う。
そして一人遅れて昼食を摂り、午前中を採寸に取られた私は疲れたとばかりに午後から昼寝をしようと自室で横になった。

だって、一昨日からの王太子の行動のせいで滅茶苦茶疲れているんだよ。
主に神経が……
疲れたせいか睡魔は直ぐにやって来る。
スヤスヤと昼寝にしては本気寝になっていた私の部屋の扉を、ノックも無しにそっと入って来る者がいた……

まさかのセドリック襲来である。


気持ち良くうたた寝していると、どっしりと横に陣取り服の隙間から胸を揉みしだく。
その何とも言えない違和感で目を覚ますとセドリックが
「やぁ。今日も胸の育成に来たよ」
のたまう。
殴ったろうか?とも思うが『不敬罪』……と頭によぎる。
「殿下」
反覚醒の状態でそう言うと
「セドリックだ」
と真顔で返された。
「セドリック様」
思考が徐々に覚醒して行く。
「今日から『様』も要らない。陛下から正式に婚約を認めて頂いたからね」
婚約………………
「……」
思いっきり覚醒しましたが言葉が出て来ません。

殿下って仕事早い……。

私は急に回転した頭で昨日の事を思い返し、思わず達観してしまう。
そして学習したばかりの言葉を紡ぐ様に
「セドリック」
と言うと、おもいっきり破顔された。


お兄様程でなくても美形は美形である。
イケメン眼福ものだな……って見惚れていると思いっきり口付けをされた。

そう。
濃厚なヤツですよ。

大体毎日来るとか暇なんでしょうか?と思ってしまう。
「婚約発表まで……否、婚姻するまで、エマに変な虫が付かない様に
巡回しなきゃね」
頬に触れる手が何かなまめかしい。

へっ?
まさかのストーカー宣言ですか?
これって本当に愛なの?
それとも鬼畜仕様?
やめて恐いから。

私は「いやいや」と首を振ると「滅茶苦茶そそる」と熱を孕んだ瞳でセドリックが言う。
そして「思いっきりってきたよ」と自身の硬い物体を、私の下腹部へと押し当てて来る。
「あぁ。本当に婚姻まで持つのかな」
と熱い息を吐く。
「我慢が効かなくなったらごめんね」
と言って擦り寄せて来る。
いや……何か、こんな序盤から飛ばし過ぎなのでは?進行速すぎめではないのか?と思う。


大体ゲームだと基本的に恋愛シュミレーションでお互いに好感度を上げつつ最長三年でのエンディングであったはず。
一昨日会ったばかりの私達にどれだけの好感度を上げるイベントがあったのだろうか?
大体ゲームでもエンディングを迎えるまでの間セドリックは我慢出来ていたんだよね?と問いたい。

ん?

あれ?

でも、王太子ルートって結構攻略が簡単で、割りと早い一年でエンディング見れた様な……三年分のスチルを見る方が大変だった様な……。
そこまで思い至ると、さっと顔から血の気が引いた。


製作者にもの申したい。
王太子殿下に我慢と言う言葉を教えるべきだったのでは?と。
そしてここで補足しておこう、現在の私は知らなかったのだが、後からセドリックはモラルを守る為に18歳……つまり未成年には絶対一線を越えない様にしているのだと……故にゲーム開始時にセドリックルートへ突入すると、既に成人しているアンとあれよあれよと言う間に速攻で一線を越えてしまうらしい。


「まぁ。やってしまったら仕方がないけど、その時は出来るだけ孕ませない様に頑張るからね」
有り難くもない言葉を頂き、唯々ただただ絶句する私であった。

結論から言えば本日の貞操は死守出来ました。
そうです。
本日も上半身だけ弄ばれただけで済みました。
あれ?
可笑しい。
この場合、上半身の犠牲は良い事のなのだろうか?
段々と慣らされて行く自分が恐い。

このままでは本当に行き着く所まで行ってしまいそう。
ううう。
どうしてこうなったのだろうか?
私の知ってるエマ・マリクは攻略対象全員から歯牙にもかけて貰えない存在だった筈なのに。
蓋を開けて見れば、あのど鬼畜どS王子にベタ惚れされるだなんて。
誰が想像出来ただろうか?
まぁそうかと言って他の攻略対象もごめんなので今更なんだけど。

そう私の目指していたキャラは隠しキャラの『想い出の君』一本だったのだから。
しかし、それは今の私にはタブーのまさかの近親相姦である。
こうなったらとことん妹ポジションでスチルを見まくるしかない。
そしてあのど鬼畜王子からどうやって逃げるかだわ。
三年なんて待っていられない。
こうなったら王太子ルートの一年を上回る早さでお兄様達の結婚式に漕ぎ着けなければ、そして私はあの鬼畜仕様の王子から逃げてやるんだから。

そんな風に鼻息荒くしている私を見て、セドリックがとんでもない勘違いをしたのは仕方がない。

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