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始まりは悪し1
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「いや~~っ!」
今日も館の隅々にまで鳴り響く少女の叫び声。
「やだ……こんな顔では今日のお茶会にも出席出来ないわ」
鏡に映る自身の顔を見ながら溜め息をもらす少女。
御年16歳のその顔は本人も言うように瞼が腫れ上がり目は血走ったように充血し赤っ鼻、顔は浮腫で拡大されその上に涙が止まらない見るに絶えない顔である。
「何なの……」
さらには痒くなる目を擦りながら被害が拡大する顔に絶望を乗せた私は鏡に布を被せた。
「もう嫌……」
泣けば泣くほど無惨になる自身の顔に途方に暮れる。
薔薇の花の匂いが一年中香る白亜の館。
そこに住むのはここアイマロン国の三大公爵家が一つマリク公爵家の人々だ。
家長のロナルド・マリクを始め、妻のリンダ、長男のイヴァン、長女のエマの4人が住んでいる。
概見見目麗しきその館に住む家族を目にした者は『天は二物を与えず』とはこの事だと思うだろう。
「エマ。朝から五月蝿いぞ。早く朝食を摂りなさい。お茶会の時間に遅れるぞ」
突然扉が開いたと思うと兄のイヴァンが薔薇の花を携えて現れた。
多分今日伺うウエンダ公爵家へのお土産なのだろう。
プラチナブロンドに紫眼。
色彩だけは良いのに……
兄も私同様瞼が腫れ上がり目が充血している。
浮腫んだあの顔がすっきりしていたら、きっとイケメンなのだろうが……
「ブサメンが五月蝿い」
思わず罵ってしまう私にイヴァンが変な者を見る目で私を見る。
「何言ってるんだエマ。最近意味の解らない言葉を使うよな」
「あれ?今私何て言ったんだろう」
目をパチクリとさせながら私は兄に問う。
「『ブサメン』って言ったんだろう。大丈夫か?エマ」
兄から可哀想な者を見る目で見られると何故か無性に腹ただしい。
しかし、『ブサメン』って何だったっけ?
言った時は確かに意味が解っていたんだけど……あれ?
「まぁ良い。それよりも早く着替えて食事を摂るように。お茶会に間に合うように後1時間で邸を出るから」
兄はそれだけ言うと扉を閉めた。
呆然とする私の後ろから、私付きの侍女が声を掛けて来る。
「エマお嬢様。そろそろお着替えを……」
「解っているわアン。急ぎでお願いするわね」
そう言うと私はアンの方へと向きを変え笑む。
一応、見るに耐えない位顔が最悪でも怒った顔よりは笑顔だろう。
私が笑めばアンは破顔する。
そんなアンに私はドキリとしてしまう。
だって、正直アンは美人なのだ。
淡いピンクゴールドの髪にアクアマリンの瞳。
容姿はとても整っていて、けどそれをひけらかす事もない。
サイール伯爵家の三女で3年前から何故か我が家に行儀見習いとして来ている。
私は姉の様に慕っているのだが、それは内緒である。
アンは手早くドレスを私に着せてくれる。
いつも思うのだが私には勿体無い位そつがなく出来た人物だと思う。
「エマお嬢様支度が整いました」
「ありがとうアン。では一緒に行きましょうか」
「はい。エマお嬢様」
そう言うとアンは私の後に付き従う様に着いてくる。
階下へ降り、食堂に入るとアンが手早く食事を取り分ける。
食べやすい様に一口サイズに切り分けてあり何時も感謝の言葉もない。
パクパクと急いで食事を摂る。
何せ今日これから向かうお茶会は私にとっては『忍』の一文字に近い様な闘いの場なのだから。
私はサクサクと10分程で食事を終えるとエントランスで待つ兄の元へと向かった。
兄はシルバーのモーニングコートをそつなく着こなしている。
色どり豊かな薔薇を携えたイヴァンは服は上等で品があるのに顔だけが残念でならない。
本当……顔・だ・け・が。
私は盛大に溜め息をもらす。
そんな私にイヴァンはあからさまに嫌な顔をする。
もしかして思っていた事が分かってしまったのか?と思ったほどだ。
「溜め息を付きたいのはこっちだ。もう時間がない。エマ早く馬車に乗りなさい」
イヴァンはそう言うと私をエスコートし先に馬車へと乗せた。
続いてアンの手を取り馬車へと乗せると自身も乗り込む。
そして、そんな時は熟思うのだ。
『兄は顔さえ良ければ理想の王子様なのに』と……。
馬車に揺られながら私とアンは細やかな女子トークを繰り広げていた。
そんな二人の会話に兄がたまにチャチャを入れる。
楽しい一時が過ぎて行く。
馬車は無情にも目的地に近づく。
それが私の……否、私達家族の運命を変える事になるフラグが立つなどと思いもよらずに。
今日も館の隅々にまで鳴り響く少女の叫び声。
「やだ……こんな顔では今日のお茶会にも出席出来ないわ」
鏡に映る自身の顔を見ながら溜め息をもらす少女。
御年16歳のその顔は本人も言うように瞼が腫れ上がり目は血走ったように充血し赤っ鼻、顔は浮腫で拡大されその上に涙が止まらない見るに絶えない顔である。
「何なの……」
さらには痒くなる目を擦りながら被害が拡大する顔に絶望を乗せた私は鏡に布を被せた。
「もう嫌……」
泣けば泣くほど無惨になる自身の顔に途方に暮れる。
薔薇の花の匂いが一年中香る白亜の館。
そこに住むのはここアイマロン国の三大公爵家が一つマリク公爵家の人々だ。
家長のロナルド・マリクを始め、妻のリンダ、長男のイヴァン、長女のエマの4人が住んでいる。
概見見目麗しきその館に住む家族を目にした者は『天は二物を与えず』とはこの事だと思うだろう。
「エマ。朝から五月蝿いぞ。早く朝食を摂りなさい。お茶会の時間に遅れるぞ」
突然扉が開いたと思うと兄のイヴァンが薔薇の花を携えて現れた。
多分今日伺うウエンダ公爵家へのお土産なのだろう。
プラチナブロンドに紫眼。
色彩だけは良いのに……
兄も私同様瞼が腫れ上がり目が充血している。
浮腫んだあの顔がすっきりしていたら、きっとイケメンなのだろうが……
「ブサメンが五月蝿い」
思わず罵ってしまう私にイヴァンが変な者を見る目で私を見る。
「何言ってるんだエマ。最近意味の解らない言葉を使うよな」
「あれ?今私何て言ったんだろう」
目をパチクリとさせながら私は兄に問う。
「『ブサメン』って言ったんだろう。大丈夫か?エマ」
兄から可哀想な者を見る目で見られると何故か無性に腹ただしい。
しかし、『ブサメン』って何だったっけ?
言った時は確かに意味が解っていたんだけど……あれ?
「まぁ良い。それよりも早く着替えて食事を摂るように。お茶会に間に合うように後1時間で邸を出るから」
兄はそれだけ言うと扉を閉めた。
呆然とする私の後ろから、私付きの侍女が声を掛けて来る。
「エマお嬢様。そろそろお着替えを……」
「解っているわアン。急ぎでお願いするわね」
そう言うと私はアンの方へと向きを変え笑む。
一応、見るに耐えない位顔が最悪でも怒った顔よりは笑顔だろう。
私が笑めばアンは破顔する。
そんなアンに私はドキリとしてしまう。
だって、正直アンは美人なのだ。
淡いピンクゴールドの髪にアクアマリンの瞳。
容姿はとても整っていて、けどそれをひけらかす事もない。
サイール伯爵家の三女で3年前から何故か我が家に行儀見習いとして来ている。
私は姉の様に慕っているのだが、それは内緒である。
アンは手早くドレスを私に着せてくれる。
いつも思うのだが私には勿体無い位そつがなく出来た人物だと思う。
「エマお嬢様支度が整いました」
「ありがとうアン。では一緒に行きましょうか」
「はい。エマお嬢様」
そう言うとアンは私の後に付き従う様に着いてくる。
階下へ降り、食堂に入るとアンが手早く食事を取り分ける。
食べやすい様に一口サイズに切り分けてあり何時も感謝の言葉もない。
パクパクと急いで食事を摂る。
何せ今日これから向かうお茶会は私にとっては『忍』の一文字に近い様な闘いの場なのだから。
私はサクサクと10分程で食事を終えるとエントランスで待つ兄の元へと向かった。
兄はシルバーのモーニングコートをそつなく着こなしている。
色どり豊かな薔薇を携えたイヴァンは服は上等で品があるのに顔だけが残念でならない。
本当……顔・だ・け・が。
私は盛大に溜め息をもらす。
そんな私にイヴァンはあからさまに嫌な顔をする。
もしかして思っていた事が分かってしまったのか?と思ったほどだ。
「溜め息を付きたいのはこっちだ。もう時間がない。エマ早く馬車に乗りなさい」
イヴァンはそう言うと私をエスコートし先に馬車へと乗せた。
続いてアンの手を取り馬車へと乗せると自身も乗り込む。
そして、そんな時は熟思うのだ。
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楽しい一時が過ぎて行く。
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