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王太子視点8
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就寝しようとベッドへ入ろうとした時に扉にノックが響いた。
「何?」
問い掛ければ入り口を警備している近衛騎手が「アンジェラ様から届け物です」と遠慮がちに話し出す。
こんな夜中に?
常識的に考えれば有り得ないが、それだけ至急の用件なのだろうと扉を開いた。
「これを」
そう言って差し出されたのは小さな箱にリボンがかかった物。
そして、手紙だ。
部屋に設置されたサイドテーブルまで行くと手紙を開いた。
『お兄様へ
本日シグルス様から手ずからお茶を頂きましたの。私が飲むのは恐れ多いので、飲んだ振りをしました。故に、お兄様へお渡しします。ご感想お願い致します。
アンジェラ』
「……。」
私はそっと持ち込まれた箱を開けて中のビンを取り出す。
色は黄色かかった飴色。
蓋を上げ匂いを確認すると甘い香りが漂った。
「どこかで嗅いだ匂いだ」
毒の類いは一通り嗜んでいる。
「死に至る毒ではない?」
その中でも死ぬ危険性のある毒は日頃から嗜んでいた。
たまにキースにも付き合わせていたが……あいつは鼻が効いて仕込んでいるのが直ぐにバレた。
「でも、嗅いだ事があると言う事は毒には違いない」
試しに舐めて見る。
すると、まるで蜂蜜でも入れたのかと疑いたくなるような甘さが口の中に広がる。
そこで初めてそのお茶の正体に気付いた。
それはたまたま偶然だが、南国の方の小さな国へ訪問した時だった。
『毒性は低いが美味しい茶がある。あまり飲むと依存性がついてやめられなくなるが、数回なら大丈夫だ。珍しい茶だ』
そう言って呑まされたお茶だった。
この味には覚えがある。
「子殺しの茶か……」
脈が早くなり一種の興奮状態や多幸感に陥る。
一種の麻薬のようなお茶だ。
数回なら依存性はなく、大人が嗜むには丁度よいとされているらしい。
但し、幼児と結婚している女性は飲むべからずとなっていた。
何故なら、大人にはそれほどでもないが、未熟な子供には毒なのだ。
結婚している女性も、万が一子供を宿している場合を想定して禁止されているらしい。
「つまり……シグルスはこれでアンジェラのお腹の子供を殺そうとしたのか?」
確かに、普通に考えればアンジェラを殺す物ではない。
故に、王族殺しが成り立つか?と聞かれると、今お腹にいる子供は公爵家の子供となり王族殺しに該当しない。
しかし……。
「今までウイナルド夫妻の間の子供は全て死産……」
その答えにたどり着き、私は珍しく人らしい怒りに体が震えた。
自分がもう直ぐ父親になるからだろう。
シグルスのした事が家畜以下に思えてしまった。
私は直ぐ様手紙をしたためた。
相手はウイナルド公爵家の執事宛。
そして、怒りで震える手を押さえながら次なる指示を出す。
「こんなに怒りを覚えたのは久し振りですね。我が母上の身内の女性がここまでこけにされて来たなどとは……」
その晩、クツクツと妖しい笑いが王太子の部屋から漏れていたと、翌日の当直の騎士が漏らしていたらしい。
「何?」
問い掛ければ入り口を警備している近衛騎手が「アンジェラ様から届け物です」と遠慮がちに話し出す。
こんな夜中に?
常識的に考えれば有り得ないが、それだけ至急の用件なのだろうと扉を開いた。
「これを」
そう言って差し出されたのは小さな箱にリボンがかかった物。
そして、手紙だ。
部屋に設置されたサイドテーブルまで行くと手紙を開いた。
『お兄様へ
本日シグルス様から手ずからお茶を頂きましたの。私が飲むのは恐れ多いので、飲んだ振りをしました。故に、お兄様へお渡しします。ご感想お願い致します。
アンジェラ』
「……。」
私はそっと持ち込まれた箱を開けて中のビンを取り出す。
色は黄色かかった飴色。
蓋を上げ匂いを確認すると甘い香りが漂った。
「どこかで嗅いだ匂いだ」
毒の類いは一通り嗜んでいる。
「死に至る毒ではない?」
その中でも死ぬ危険性のある毒は日頃から嗜んでいた。
たまにキースにも付き合わせていたが……あいつは鼻が効いて仕込んでいるのが直ぐにバレた。
「でも、嗅いだ事があると言う事は毒には違いない」
試しに舐めて見る。
すると、まるで蜂蜜でも入れたのかと疑いたくなるような甘さが口の中に広がる。
そこで初めてそのお茶の正体に気付いた。
それはたまたま偶然だが、南国の方の小さな国へ訪問した時だった。
『毒性は低いが美味しい茶がある。あまり飲むと依存性がついてやめられなくなるが、数回なら大丈夫だ。珍しい茶だ』
そう言って呑まされたお茶だった。
この味には覚えがある。
「子殺しの茶か……」
脈が早くなり一種の興奮状態や多幸感に陥る。
一種の麻薬のようなお茶だ。
数回なら依存性はなく、大人が嗜むには丁度よいとされているらしい。
但し、幼児と結婚している女性は飲むべからずとなっていた。
何故なら、大人にはそれほどでもないが、未熟な子供には毒なのだ。
結婚している女性も、万が一子供を宿している場合を想定して禁止されているらしい。
「つまり……シグルスはこれでアンジェラのお腹の子供を殺そうとしたのか?」
確かに、普通に考えればアンジェラを殺す物ではない。
故に、王族殺しが成り立つか?と聞かれると、今お腹にいる子供は公爵家の子供となり王族殺しに該当しない。
しかし……。
「今までウイナルド夫妻の間の子供は全て死産……」
その答えにたどり着き、私は珍しく人らしい怒りに体が震えた。
自分がもう直ぐ父親になるからだろう。
シグルスのした事が家畜以下に思えてしまった。
私は直ぐ様手紙をしたためた。
相手はウイナルド公爵家の執事宛。
そして、怒りで震える手を押さえながら次なる指示を出す。
「こんなに怒りを覚えたのは久し振りですね。我が母上の身内の女性がここまでこけにされて来たなどとは……」
その晩、クツクツと妖しい笑いが王太子の部屋から漏れていたと、翌日の当直の騎士が漏らしていたらしい。
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