王女から逃げる為に頑張った結果

麻生空

文字の大きさ
上 下
77 / 86

アンジェラ視点36

しおりを挟む
「まずは食事をしよう」

キース様の言葉にコクリと頷く。

パンを契りスープに浸して食べる。

普通ベーコンとかハムエッグとか位出ないのかしら?

そう思いながらもあるものだけで食事を進めた。

「朝食のメインは父が全て食べてしまったようで、何も残っていなかったそうだ」

あぁ、成る程ね。

「本当なら入浴している間に調理を頼もうと思っていたのだが……すまない」

そう言って頭を下げられるキース様。

本来なら公爵夫妻の食事位準備しておくのが本当だと思う。

これは職務の怠慢か?
それとも本当に嫌がらせなのか?

「キース様のせいではありませんわ。私が我儘を言ったから……申し訳ございません」

そうだ。
少なくともキース様の落ち度ではない。

本来ならこう言う事は女主の仕事。

つまり、私の仕事と言う事になる。

落ち度は私。

これからゆっくりと教育して行けば良い話だ。

それに
「キース様と二人で食べる食事ですから、美味しいですわ」

これは私達が初めて二人だけで朝食を摂った記念日。

きっとこの味は一生忘れませんわ。

一口、二口と味を噛み締めて味わう。

「ところで……アンジェラに聞きたいことがあるんだ」

キース様のその言葉にドキリとした。

私に声をかける……どころか、私の名前を呼び捨てに……。
まるで恋人のようだわ。
思わずキュンとなってしまう。

「何でしょう?」
何食わぬ顔でキース様を見る。
何せ長年の修行の賜物で私の顔には分厚い仮面が装着されているのだ。

『冷たい王女』と言う仮面が。

「アンジェラはアンを知っているのか?」

キース様は何かを問いたい。

そんな顔だった。

「何故でしょう?なにやらアンと言う名のメイドをキース様がお探しになっていると、王宮に居る時にお兄様から聞いていますが、お会いした事はありませんわ」

そう。
だって、私だもの。

「そうなのか?使っている石鹸も香水の香りも同じだったからてっきり……」

……。

匂い。

匂いですか?

あんたは犬かよ。

「王宮で使われている石鹸がたまたま同じ物だったのでは?それに、私の使っている香水は侍女達も知っていますもの、同じ物を使っているとしたら、そのアンと言うメイドが私の真似をしただけですわ」

それは嘘なんだけどね。

だって、私の香水はお兄様特製の香水。

売ってなどおりませんわ。

「そうなのか?」

困惑したようなキース様。

「はい。大体ですね、同じ石鹸やら香水やらと言いますが、そんな事を言っていたら売り物の数だけ同じ物が世の中にありますのよ。考えるだけ無駄ですわね」

少ない料理の数にもう食事も終わってしまった。

「ご馳走さまです。キース様。私先にお風呂を頂いて宜しいかしら?」

そう尋ねると「あぁ」と何処か心ここにあらず状態のキース様が同意する。

「では、お先に頂きますわね」

そう言って呆然とするキース様を置いて湯殿へと足を向けた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

闘う二人の新婚初夜

宵の月
恋愛
   完結投稿。両片思いの拗らせ夫婦が、無意味に内なる己と闘うお話です。  メインサイトで短編形式で投稿していた作品を、リクエスト分も含めて前編・後編で投稿いたします。

完全なる飼育

浅野浩二
恋愛
完全なる飼育です。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

元彼にハメ婚させられちゃいました

鳴宮鶉子
恋愛
元彼にハメ婚させられちゃいました

【R18】深層のご令嬢は、婚約破棄して愛しのお兄様に花弁を散らされる

奏音 美都
恋愛
バトワール財閥の令嬢であるクリスティーナは血の繋がらない兄、ウィンストンを密かに慕っていた。だが、貴族院議員であり、ノルウェールズ侯爵家の三男であるコンラッドとの婚姻話が持ち上がり、バトワール財閥、ひいては会社の経営に携わる兄のために、お見合いを受ける覚悟をする。 だが、今目の前では兄のウィンストンに迫られていた。 「ノルウェールズ侯爵の御曹司とのお見合いが決まったって聞いたんだが、本当なのか?」」  どう尋ねる兄の真意は……

お飾りの侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
今宵もあの方は帰ってきてくださらない… フリーアイコン あままつ様のを使用させて頂いています。

処理中です...