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アンジェラ視点27
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夕食は前公爵夫妻と一緒に食堂で三人で頂いた。
「ご免なさいね。アンジェラさん。本来なら今日はアンジェラさんが来た初日だから仕事を休んで貴女を迎えなきゃいけないのにキースったら仕事に行っているなんて、挙げ句、未だに帰っても来ないで、何を考えているのかしら?身重の新妻をほっとくなんて」
そう怒りながらも申し訳なさそうにそう言うのは前公爵夫人であるユーリア様。
「いえ、お義母様。気になさらないで下さい。殿方は外で家族を守る為に戦っているのですから」
一応気を使ってそう言ってみると、前公爵閣下であるシグルス様は少し怖い顔をされた。
「それくらいどうにかするのが男の甲斐性だろう」
一瞬部屋の温度が数度下がったのかと思えてしまう声だった。
きっと私の為に怒ってくれているんだろう。
だから、
「お義父様。私は気にしていませんから大丈夫です」
と、少し困ったように笑えんだ。
しかし、そんな私を見てシグルス様は益々眉をひそめた。
「新妻に初日から会わないとは、キースは本当にアンジェラ殿の事を好きなのか?」
鋭い質問ですわね。
それに、お義母様は『アンジェラさん』でお義父様は『アンジェラ殿』。
凄く距離を感じてしまうわ。
「キース様の愛は既にここに頂いておりますので、私はキース様のお心を何も疑う事はありませんわ」
私はそっとお腹を撫でて微笑んで見せた。
嘘ではないから全然後ろめたくないしね。
でも、それでもお義父様は機嫌悪そうにされていた。
食事が終わるまで。
何の苦行なのか?
何故か途中から無言の食事を済ませてから部屋へと移動すると、前公爵夫人であるユーリア様が直ぐにやって来た。
「アンジェラさん。少しお話しましょうか」
そう言って微笑まれたユーリア様。
ユーリア様は部屋に設置されたテーブルまで足を運ぶと、そっと私に銀のカップを「お祝いに」と寄越した。
「私の実家はね、アンジェラさんのお母様のご実家であるワーナント公爵家の親戚筋にあたる伯爵家だったの。だから、アンジェラさんとはまるっきり他人でもないのよ」
そう言って微笑まれたユーリア様。
そんな話、お母様からは聞いていない。
お兄様からもだ。
「少し、昔話をしましょうか」
悲しそうにそう言うとユーリア様はその銀のカップへ持参した果実水を注いぎ私に差し出す。
そして、ユーリア様は普通のカップに自分の分の果実水を注いだ。
「私の実家は正直ウイナルド公爵家に嫁げる程の財産もない名前だけの伯爵家だったの」
何故か伯爵家の事を先程から過去形で話すユーリア様。
そう言えば、ユーリア様のご実家の話は今まで聞いた事もなかったわね。
「私の叔父にあたる人がね。どうしようもない散財家で、あまり良くない人達からもお金を借りていたようなのよ」
そう言って苦しそうに微笑まれるユーリア様。
いったいどんな話がしたいのかしら……。
「その借金は、伯爵領土を全て手放しても返せるものではなくなった時に、その人達がある仕事を叔父さんに依頼して来たの。それはとても簡単な仕事『ある女性とある場所で会って欲しい』ただそれだけだったの。それに対しての報酬はそれまでの借金全て、どう考えで釣り合いが取れないような依頼に伯父さんは飛び付いたわ」
確かに、伯爵領土全て手放しても足りない借金と人に会うだけの仕事では割に合わないわね。
そして、ユーリア様は一口果実水を口に含んだ。
「アンジェラさんもどうぞ召し上がって」
ニコリとユーリア様は私を促す。
でも……あえて私だけに銀の食器を渡した理由は?
「フフフ……アンジェラさんは銀の食器の意味を知っているのね」
どこか遠くを見るようなユーリア様。
「本当にそう言う意味なんですか?」
だから問いたくなっていた。
ユーリア様の真意を。
「ご免なさいね。アンジェラさん。本来なら今日はアンジェラさんが来た初日だから仕事を休んで貴女を迎えなきゃいけないのにキースったら仕事に行っているなんて、挙げ句、未だに帰っても来ないで、何を考えているのかしら?身重の新妻をほっとくなんて」
そう怒りながらも申し訳なさそうにそう言うのは前公爵夫人であるユーリア様。
「いえ、お義母様。気になさらないで下さい。殿方は外で家族を守る為に戦っているのですから」
一応気を使ってそう言ってみると、前公爵閣下であるシグルス様は少し怖い顔をされた。
「それくらいどうにかするのが男の甲斐性だろう」
一瞬部屋の温度が数度下がったのかと思えてしまう声だった。
きっと私の為に怒ってくれているんだろう。
だから、
「お義父様。私は気にしていませんから大丈夫です」
と、少し困ったように笑えんだ。
しかし、そんな私を見てシグルス様は益々眉をひそめた。
「新妻に初日から会わないとは、キースは本当にアンジェラ殿の事を好きなのか?」
鋭い質問ですわね。
それに、お義母様は『アンジェラさん』でお義父様は『アンジェラ殿』。
凄く距離を感じてしまうわ。
「キース様の愛は既にここに頂いておりますので、私はキース様のお心を何も疑う事はありませんわ」
私はそっとお腹を撫でて微笑んで見せた。
嘘ではないから全然後ろめたくないしね。
でも、それでもお義父様は機嫌悪そうにされていた。
食事が終わるまで。
何の苦行なのか?
何故か途中から無言の食事を済ませてから部屋へと移動すると、前公爵夫人であるユーリア様が直ぐにやって来た。
「アンジェラさん。少しお話しましょうか」
そう言って微笑まれたユーリア様。
ユーリア様は部屋に設置されたテーブルまで足を運ぶと、そっと私に銀のカップを「お祝いに」と寄越した。
「私の実家はね、アンジェラさんのお母様のご実家であるワーナント公爵家の親戚筋にあたる伯爵家だったの。だから、アンジェラさんとはまるっきり他人でもないのよ」
そう言って微笑まれたユーリア様。
そんな話、お母様からは聞いていない。
お兄様からもだ。
「少し、昔話をしましょうか」
悲しそうにそう言うとユーリア様はその銀のカップへ持参した果実水を注いぎ私に差し出す。
そして、ユーリア様は普通のカップに自分の分の果実水を注いだ。
「私の実家は正直ウイナルド公爵家に嫁げる程の財産もない名前だけの伯爵家だったの」
何故か伯爵家の事を先程から過去形で話すユーリア様。
そう言えば、ユーリア様のご実家の話は今まで聞いた事もなかったわね。
「私の叔父にあたる人がね。どうしようもない散財家で、あまり良くない人達からもお金を借りていたようなのよ」
そう言って苦しそうに微笑まれるユーリア様。
いったいどんな話がしたいのかしら……。
「その借金は、伯爵領土を全て手放しても返せるものではなくなった時に、その人達がある仕事を叔父さんに依頼して来たの。それはとても簡単な仕事『ある女性とある場所で会って欲しい』ただそれだけだったの。それに対しての報酬はそれまでの借金全て、どう考えで釣り合いが取れないような依頼に伯父さんは飛び付いたわ」
確かに、伯爵領土全て手放しても足りない借金と人に会うだけの仕事では割に合わないわね。
そして、ユーリア様は一口果実水を口に含んだ。
「アンジェラさんもどうぞ召し上がって」
ニコリとユーリア様は私を促す。
でも……あえて私だけに銀の食器を渡した理由は?
「フフフ……アンジェラさんは銀の食器の意味を知っているのね」
どこか遠くを見るようなユーリア様。
「本当にそう言う意味なんですか?」
だから問いたくなっていた。
ユーリア様の真意を。
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