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25英雄の孫

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キルトは昔から私の居場所を直ぐに見つけてくれた。

魔の森で迷子になった時でも、どんな所に隠れていても直ぐに見つかってしまう。 

一度キルトに「何故何時も私を見つけられるの?」と問い掛けると「お嬢様の血が私を呼ぶのですよ」と意味不明な回答を貰った。

けど、不思議なんだ。

キルトはまるで私のお父様のような気がする時がある。

生物学上の父親はちゃんといるのに不思議だ。

それに、私の中の血もキルトを直ぐに見つけてしまうから。

演習場の中央で佇む私。

この広大な王宮の中から迷わず私の所へ来ると疑う事もない。

隣にはジルベルト様と団長が立ち何故か冷や汗を流している。

団長の指示で演習場の端に移動した他の団員達。

竜の中でも希少種の白龍が優雅に演習場の上を旋回している。

「おい、あれって白龍だろう。俺初めて見たぜ」

「伝説級の白龍が二体も……すっげ~な」

騎士達が初めて見る白龍に目が釘付けになっている。

そんな観衆の元、優雅に降り立った二頭の白龍から一人の青年が降り立った。

「おや、少し見ない間にお嬢様にお仕えするナイトが二人?」

キルトは値踏みをするように二人……つまり、団長と副団長を頭から爪先までを観察する。

「ふむふむ。まぁギリギリ合格ラインでしょうかねぇ?三年後に期待と言った所でしょうか」

そう言うとキルトは団長の方へと歩み寄る。

「おや、この血の匂いには覚えがありますね」

そう言ってクイッと団長の顎を人差し指で持ち上げる。

「ああ、そうか。君は王族ですか?あの張りぼてクライスの匂いがします」

クライスとは現在の国王陛下のお名前だ。
不遜な態度で不敬な事を言い出すキルト。

しかし、そんなキルトに団長は「ええ、そうです」とだけ同意して見せる。

キルトは相変わらずの不遜な態度。

昔から執事の癖にお父様より偉ぶっているんだよね。

けど、誰もそんなキルトに注意する事もない。

私も師匠には到底勝てないからそんな命知らずな事はしないけどね。

そんな私達の所へゴツイ騎士が一人近付いて来た。

「部外者の癖に団長にその態度は無いんじゃねぇですかい?」

身長が2メートルあるような巨体の持ち主がドスドスと音を立てて近付いて来る。

「ジル兄上、彼は?」

正直に言えばあまり強そうな感じがしないのに、やけに血の気だけは多い感じがする男なんだけど。

そう思ってジルベルト様に聞くと。

「彼はザイン・カルチェ。三代前に男爵の位を貰った英雄殿の孫だ。騎士科も実技だけなら主席を取る成績だったらしい」
ジルベルト様の『実技だけなら』と言う下りから、どうやら頭は脳筋だと理解した。
けど、実技だけなら優秀と言う事か。

「我が名はザイン・カルチェ。英雄レナルド・カルチェが孫にしてカルチェ家の長子。演習中に乱入して来た不審者殿。いざ尋常に勝負されよ」

ザイン・カルチェは軽装とは言え武具を装備して現れた。

抜かれた剣は刃が潰れていない真剣だ。
それに対してキルトは執事服。
腰には細身の剣サーベルと言う出で立ちである。

それで尋常に勝負?

ハンデですかね?

「ククククク。まぁ、良いでしょう。私は目障りな葉虫は排除する派ですので、気にせずかかって来なさい」

目を細めながらザインを見るキルトはどこか楽し気に微笑んだ。

「今日はとても気分が良い。特別に軽く指導して差し上げますよ」

キルトはそう言うと薄く笑った。

そんなキルトにザインが吠えた。

「いつまでもすかしてられると思うなよ」
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