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16本日初日

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翌日は何時も通りの時間に目が覚めた。
起きると直ぐに寝間着を脱ぎ昨日巻いていたサラシを丁寧に胸を潰すように巻いた。
それほど大きくはない胸だが、それを潰すとなるとやはり少々息苦しい。

なんとか巻き終われば昨日王妃様から畏れ多くも下賜された、殿下方が昔着られたと言う男の子用の服を着る。
流石は王妃様のセンスが良いのか、下賜された服は全て私好みの物ばかりだった。

「うん。我ながらバッチリ」

本日は勤務初日なので白のシャツに濃紺のベストと同色のスラックスを着用。
やはり王族が着ていた服なだけあり生地の質が良い。

そうして最後の仕上げに髪の毛を編み込みカツラを被って魔法で定着させる。
正直戦いに重きを置いていた私としては髪を編むのは正直言って苦手である。
故に、ここまでの所要時間が一時間も掛かってしまったのだ。

氷魔法で鏡を作りクルリと全身を確認して見る。
完璧、どこから見ても男の子。

しかし、身支度に一時間は正直な話これから毎日となると辛い。
髪の毛を編むのも魔法で出来ないか後で検討してみよう。
と、休日の予定を作る。
決して私がズボラな訳ではない。
全て実用的な事なのだ。
だって、そのような繊細な魔法は魔力コントロールの特訓にもなると思うんだよね。

一人で「うん、うん」と納得すると室内を一応見渡した。

「さて、そろそろ行きますか」

少し早いけど、第一騎士団の建物へと向かう事にした。

だってさぁ、6時から勤務の7時朝食なんだよ。

早く行って気合いを入れねば、きっとお腹が鳴っちゃう。
本来ならグーちゃんの朝食を摂らせながら自身も既に朝食を食べている時間だ。
これからは少し遅い時間の朝食にも慣れさせなきゃいけない。
主に自分の腹時計を。

取り敢えず、気持ちは朝食。
ルンルンとスキップする勢いで部屋の窓から飛び降りて脱出する。

私の部屋は伊達に奥の端っこにある訳じゃない。
それに、二階だから窓を空けていても入って来る人もいないだろうし。
何せ、何も無い部屋だからね。

こっそり出入りするのに何の不自由もない場所だ。

窓を開けると外が全然見えない程の茂みになっていたけど、それには感謝だな。 
何の躊躇いもなく私は窓枠に足を着けると何もない空間へと飛び出した。
茂みに触れるか触れない距離を綺麗に弧を描いて落下する。
念のため音をたてないように風魔法を使いゆっくりと着地。 
誰にも見られないように茂みから西の中庭へと滑り込む。

「よっと」

後宮と王宮の境目にある垣根かきねの隙間を潜る。
はい、脱出成功。

昨日はアルフィー殿下と夕食後、王妃様の所へ戻ってから後宮に戻ったから女の格好だったけど、これからはそうはいかない。

だって勤務が6時からだよ。

普通の貴族女性の朝は遅いんだよ。

故に、これからは多少のリスクのある出勤になる。
まぁ、人に見られないように阻害魔法は少しだけ転回させるけどね。
気分は『朝食』と足取り軽く第一騎士団を目指す。

ものの15分程で建物が見えて来た。

「うっ……アルフ。もう居るよ」

建物の前では数人の騎士達が素振りや模擬戦をしていた。

勿論、アルフィー殿下はボッチだったけど、キチンと一人で稽古をしていた。

「おはよう。アルフ」

私は軽く手を上げてアルフィー殿下に近付きながら挨拶をする。

「ああ。おはようルーク」

アルフィー殿下は反応の薄い返事をすると、直ぐに素振りの続きをする。

「皆さん早いんだね」

現在の時刻は5時30分だ。
剣の素振りをするアルフィー殿下に声を掛けると
「ああ、結構早くから来ている人もいる。騎士は基本的に実力社会だから、少しでも強くなって出世したいんだろう」
と、ぶっきらぼうにそう返答する。

まぁ、確かに強くなきゃ出世はしないだろうけど。
基本的に騎士団の1日は鍛練に充てられるのだろうから、その鍛練を有意義なものにする為にも、あまり朝から自主トレに精を出すのは逆効果にならないだろうか?
体力温存も騎士としての大切な仕事なのだ。

まぁ、上司にそのヤル気をアピールするのには良いかもしれないけどさぁ。
けど、私には関係ないか。
だって三年したら実家に帰るんだし。

別に出世してもなぁ。

「1日の流れを話すと勤務時間は6時から。第一騎士団と第二騎士団は基本的に竜の世話から始まるんだ。だから、竜の世話をする前にこうやって自主トレーニングをする者が殆どだ」
 
えっ、皆さんするの?時間外だよね。

「勤務時間になると竜舎に行って、まず自分の竜の状態を見て餌を与え寝床を直す。その作業に大体は一時間位かかる。竜の餌は魔獣討伐で備蓄があるから竜舎の隣にある倉庫から運ぶんだ」

竜の餌を備蓄ねぇ。

余程管理が良い倉庫なのだろうか?

家のグーちゃんグルメだからなぁ。

「その後、7時から一時間朝食を取りながら一日の指示を確認して行動するんだが、まぁ、大体の予定は休憩室のボードに書かれているから食事前に見ておくと良いよ」

アルフィー殿下の助言に少し懸念事項があるが、それは後で判る事。
故に、私は営業スマイルを顔に張り付けて
「了解しました」
と微笑むだけに留めたのだった。
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