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プロローグ

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魔力が凡庸な私はその日、辺境の我が領地から人質と言う名のお役目の為に王宮に来ていた。

二代前の王様は、その就任前のいざこざで人を疑うようになったと言う。
故に王様は、各領地から人質と言う名の妾を後宮に囲って臣下が自身に逆らわないようにとしたのだ。

その悪しき仕来たりは今現在も脈々と受け継がれている。

が、しかし、人を疑う王様とて人の一生を束縛する事は良しとしなかった。
故に、白い結婚の場合は三年の妾奉公の後に領地へと返される習わしだ。
つまり、自分がお手つきにしなかった女性は帰って良いよと言う事だ。
そこにどんな意図があったにせよ、それは人質に出た娘達にとっては、女性としての幸せを掴む為の救いの決まり事になったのだ。

さて、時代はそのまま現在へ。

昨年の終わりに私の再従姉妹がその妾奉公を終えて領地に戻って来た。

戻ると同時に半年以内に別の妾と言う人質を選定して入内させる事になっている。
故に、次の白羽の矢がたまたま私に当たったと言う次第だ。

再従姉妹の家は本家の我が家より裕福で、王宮へ召し上がられた実績を盾にし、とある伯爵家の次男と結婚したのだ。

つまり、爵位のない者にとっては良い箔付けになる為に、婚期前に妾に上がる良家の令嬢も多い。(自主的な人質だ)

また、後宮を辞する時に白い結婚だったとの証明書も魔法で立証されるのだから尚更箔が付くし、貴族はこぞってそんな女性を求める。
極端に言えば、自身の婚約者をあえて妾に出させる男も要る程だ。

つまり、何が言いたいかと言うと、陛下の御手付きにならなければ良いスキルアップの場所だと言う事なのだ。

しかし、今現在私は開いた口が塞がらない思いだった。



ーーーーーーー



「今、何て言いましたか?」

それは美しい調度品がズラリと並べられた、後宮の中でも一際格式高い部屋へ通された後の事だ。

「ですから、晩餐に招待された時は5万リン。その他のルームサービスはメニュー表の通りですわ」

そう言って私にそのメニュー表を寄越したのは、現在妾の中で次の側妃候補と名高いグロリア様だ。
御歳28歳のピチピチ。
第一王子とそんなに歳も違わない彼女は未だに後宮に居座っている。
この国に多い金髪碧眼の美女だ。
かく言う私も金髪碧眼なのだけど。

「まさか貴女、ここに来たら三食ただ飯が食べれると思っていたの?そんな贅沢陛下が許すとお思い?」

確かに、一平民からしたら妾達の食事とか全て税金から支払われると思ったら私だって腹が立つ。

けどさぁ、

「陛下の御手付きになれば毎月ろくが出ますし、お相手をしただけ手当ても増えますわよ」

そう言って嗤うグロリア様。

いやいや……あり得ないわぁ。
だいたいグロリア様だってお手つきになっていませんよね。
男と違って貴族の女性として28歳はそろそろヤバイって。
噂では第一王子狙いで頑張っているというのがあるけど、男はそれで良いかもしれないけど、女はねぇ。
何せお産が命懸けになっちゃうからさぁ。
って、人の事より自分の事か。

「すみません。私、一人娘なので三年後には王宮を辞して領地を継ぐ事になっておりまして……ただ、家はそれほど裕福でもなく」

そうなのだ。

御手付きになんてごめん被る。

「そう。ではアルバイトで収入を得るしかないわね。後で王宮内での仕事の一覧表を届けさせるわ」

そう言ってグロリア様はニコリと微笑んだ。

「ありがとうございます」

「いえ、妾を束ねる私としては当然の事よルクス・ラッセン」

優雅に微笑むグロリア様。
「こう言う事はたまにあるのよ」

ひらりと扇を仰ぐと
「長旅で疲れたでしょうから今日は下がって宜しくってよ」
と話された。

私は一礼をしてから、側に控えていた後宮専属の侍女に促されながら先程決めた自室へと向かう事になった。

確かに色々な意味で疲れたんだけど……何が一番疲れたかって、それはもうこの後宮の料金システムにだよ。
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