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ダンスレッスン
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「ワン・ツー・スリー・ワン・ツー・スリー」
公爵家の中に響き渡るアルの声。
今日も朝から鬼のようなメニューが組まれていた。
最初はテンポのゆっくりなワルツから。
一応幼い頃にダンスの練習を公爵令嬢らしく習ったらしく体が少し覚えていて、それに助けられていると言う感じだ。
前世ではそれほど運動が出来ない訳ではなかったはず。
創作ダンスだってそれなりにやれていたと思う。
でも、でもさ。
なんで、こんなに密着するのかな?
握られた手が、腰に回された手が、耳にかかる息が、全てが既にキャパオーバー。
「ジュリア、もっと肩の力を抜いて。クイック・クイック・スローだよ」
すっと体を密着させながら私の耳元で甘く囁く。
『んぎゃーっ!!心臓に悪い!!耳元で囁くなーっ!こちとらリア充なんてなかったオタクなんだよ』
そうだよ。
中学の時に男の子と手を繋いで踊ったのだって学園祭の時のマイムマイムだし。
こんなに異性と密着した踊りなんて踊った事もないし。
「ジュリア、ノルマは3曲だからね。これから毎日みっちり私が手取り足取り教えてあげるよ」
アルは極上の笑みを称えると私の腰をクイッと引き寄せた。
「さぁ、私がリードするから安心して身を任せると良い」
既に何の曲を踊っているのか分からない。
何せ伴奏も何もないアルの掛け声のみ、こんなんで曲に合わせられるのか疑問だ。
「アルもう足が痛いよ」
朝からぶっ通し踊る事3日目。
私の足も悲鳴を上げている。
いや、一番悲鳴を上げているのはこんな状態に慣れない心臓だろう。
どうにかして心の休息が欲しい。
体はついでだ。
そう思っていると、ピタリとアルの足が止まる。
「そうだね。少し飛ばし過ぎたかもジュリアはか弱い女性なんだから労らないとね」
アルの言葉に安堵する。
これで地獄の飴と鞭から解放されると。
私はふらつく足でアルから離れようとすると、何故かがっちりとホールドされてしまった。
思い返せば北の教会から帰った4日前の夕方。
家族で晩餐を食べていると、突如アルがダンスの話を切り出した。
「義父上。ジュリアのデビュタントの件でご相談が」
アルの声に父は上機嫌で応えた。
「アル殿から父上と呼ばれるとは。嬉しい限りです。して、相談事とは?」
『父上』じゃなく『義父上』だから。
「ジュリアと話した所、どうもダンスが不得手とのお話です。不肖ながら婚約者である私がジュリアのダンスの講師兼相手役を勤めたいと思います。宜しいでしょうか?」
えっ………それって今言う事?
それに、何気に決定事項のような話なんだけど。
お父様、断る?断らない?
「そう言えばジュリアはダンスも理屈をこねて逃げていたな」
兄の余計なひとことに父が穏やかに笑いながら私を見た。
『怒っているよ………笑いながら怒るとか、恐いから』
「アル殿。ジュリアの躾が行き届かなく申し訳ない。早速アル殿が納得するまでダンスの特訓をして頂いてかまいません」
何ですか?その納得するまでって………。
父はそう言うと私の方を向き、恐ろしい程の笑みを見せた。
これ怒っているよね。
「ジュリア。誠心誠意アル殿の手解きを受けなさい。最優先次項だ」
父の言葉に威圧感を感じる。
「判ったね」
更に念を押して来る。
満面の笑みの父。
黒い。
黒いよ。
そんな父に家族は何も言わない。
いや、言えない。
思わず項垂れてしまう私は既に諦めの境地。
「ワカリマシタ………」
そうして、今に至るのだ。
「ジュリアはもう少し私に体を預ける事を学んだほうが良い。けど、確かに休憩はたいせつだ。ダンスは後にして少し休憩を兼ねてお茶にしようか」
「えっ………」
そう。
それはお茶と言う名の羞恥プレイ。
体は休まっても精神的に疲労するあれだ。
「す………すみません。足が疲れたので私はここで一人休んでいますわ。アル一人で先にお茶をして………」
最後まで言い終わらない内に何故か体が浮遊する。
「なっ!!」
何故にお姫様抱っこ?
がっちりとアルに体を抱きかかえられる。
真っ直ぐに横を見ればアルの口元が直ぐ目の前に。
「足が痛いのだろう。ソファーまで運んでやる」
アルの満面の笑み。
良くありがた迷惑って言葉があるけど、正にそれ。
何故かキスをしなくなったアルは、その反動の分ボディータッチが多くなったように思う。
あぁ、更なる拷問が始まるのかと意識が一瞬遠くなった。
公爵家の中に響き渡るアルの声。
今日も朝から鬼のようなメニューが組まれていた。
最初はテンポのゆっくりなワルツから。
一応幼い頃にダンスの練習を公爵令嬢らしく習ったらしく体が少し覚えていて、それに助けられていると言う感じだ。
前世ではそれほど運動が出来ない訳ではなかったはず。
創作ダンスだってそれなりにやれていたと思う。
でも、でもさ。
なんで、こんなに密着するのかな?
握られた手が、腰に回された手が、耳にかかる息が、全てが既にキャパオーバー。
「ジュリア、もっと肩の力を抜いて。クイック・クイック・スローだよ」
すっと体を密着させながら私の耳元で甘く囁く。
『んぎゃーっ!!心臓に悪い!!耳元で囁くなーっ!こちとらリア充なんてなかったオタクなんだよ』
そうだよ。
中学の時に男の子と手を繋いで踊ったのだって学園祭の時のマイムマイムだし。
こんなに異性と密着した踊りなんて踊った事もないし。
「ジュリア、ノルマは3曲だからね。これから毎日みっちり私が手取り足取り教えてあげるよ」
アルは極上の笑みを称えると私の腰をクイッと引き寄せた。
「さぁ、私がリードするから安心して身を任せると良い」
既に何の曲を踊っているのか分からない。
何せ伴奏も何もないアルの掛け声のみ、こんなんで曲に合わせられるのか疑問だ。
「アルもう足が痛いよ」
朝からぶっ通し踊る事3日目。
私の足も悲鳴を上げている。
いや、一番悲鳴を上げているのはこんな状態に慣れない心臓だろう。
どうにかして心の休息が欲しい。
体はついでだ。
そう思っていると、ピタリとアルの足が止まる。
「そうだね。少し飛ばし過ぎたかもジュリアはか弱い女性なんだから労らないとね」
アルの言葉に安堵する。
これで地獄の飴と鞭から解放されると。
私はふらつく足でアルから離れようとすると、何故かがっちりとホールドされてしまった。
思い返せば北の教会から帰った4日前の夕方。
家族で晩餐を食べていると、突如アルがダンスの話を切り出した。
「義父上。ジュリアのデビュタントの件でご相談が」
アルの声に父は上機嫌で応えた。
「アル殿から父上と呼ばれるとは。嬉しい限りです。して、相談事とは?」
『父上』じゃなく『義父上』だから。
「ジュリアと話した所、どうもダンスが不得手とのお話です。不肖ながら婚約者である私がジュリアのダンスの講師兼相手役を勤めたいと思います。宜しいでしょうか?」
えっ………それって今言う事?
それに、何気に決定事項のような話なんだけど。
お父様、断る?断らない?
「そう言えばジュリアはダンスも理屈をこねて逃げていたな」
兄の余計なひとことに父が穏やかに笑いながら私を見た。
『怒っているよ………笑いながら怒るとか、恐いから』
「アル殿。ジュリアの躾が行き届かなく申し訳ない。早速アル殿が納得するまでダンスの特訓をして頂いてかまいません」
何ですか?その納得するまでって………。
父はそう言うと私の方を向き、恐ろしい程の笑みを見せた。
これ怒っているよね。
「ジュリア。誠心誠意アル殿の手解きを受けなさい。最優先次項だ」
父の言葉に威圧感を感じる。
「判ったね」
更に念を押して来る。
満面の笑みの父。
黒い。
黒いよ。
そんな父に家族は何も言わない。
いや、言えない。
思わず項垂れてしまう私は既に諦めの境地。
「ワカリマシタ………」
そうして、今に至るのだ。
「ジュリアはもう少し私に体を預ける事を学んだほうが良い。けど、確かに休憩はたいせつだ。ダンスは後にして少し休憩を兼ねてお茶にしようか」
「えっ………」
そう。
それはお茶と言う名の羞恥プレイ。
体は休まっても精神的に疲労するあれだ。
「す………すみません。足が疲れたので私はここで一人休んでいますわ。アル一人で先にお茶をして………」
最後まで言い終わらない内に何故か体が浮遊する。
「なっ!!」
何故にお姫様抱っこ?
がっちりとアルに体を抱きかかえられる。
真っ直ぐに横を見ればアルの口元が直ぐ目の前に。
「足が痛いのだろう。ソファーまで運んでやる」
アルの満面の笑み。
良くありがた迷惑って言葉があるけど、正にそれ。
何故かキスをしなくなったアルは、その反動の分ボディータッチが多くなったように思う。
あぁ、更なる拷問が始まるのかと意識が一瞬遠くなった。
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