女神様の宝石箱

麻生空

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巷の噂

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流石はあの父にしてこの子ありと言うか、兄のエリックはアルの前では思いっきり猫をかぶっていた。
それも特大の猫をだ。
「アル殿。この鳥の肉は我が領地で各地に卸している若鶏の肉です」
そう言いながら今日の食事の解説をする。
「エリック殿。私はもう身も心も弟だと思っております。どうか『アル』と」
そう言いながら綺麗な所作で鶏肉を切り分ける。
「それで言えば私の事も『エリック』と呼んで頂きたい。見た所失礼だが、私と同じ……もしくは上にお見受けするが」
兄の言葉にアルが苦笑いする。
「そうですね。年は覚えています。今年で確か19だったと……」
アルの言葉に父が鼻息荒くする。
「なんと……では、直ぐにでも仮の結婚式を」
ガバリと立ち上がる父に
「何言ってますの?まだ婚約したばかりなのに」
思わずため息を吐く。
「何を言っている。婚約と結婚では重みが違う。誰かに取られる前に既成事実を完璧に……」
ほぼ乱心してしまっている父に私達兄妹は冷めた目を向けてしまった。

多分アルが記憶喪失だと言うのは嘘だ。
アルには父がこれだけの奇行に走るだけの何かがある。

そう思い再びため息をついた。

夕食が終わると私はアルの部屋へ行き傷薬を塗布する。
『早く治りますように』
そう念じながらテキパキと処置をして行く。
毎日やっていた成果なのか、とても様になってきた。
アルが我が家に来て既に一週間。
傷口も化膿する事なく綺麗に膜を引いて来た。

「毎日ありがとう。優しいのだな」
そう言って私の方を見たアルはそっと唇にキスをして来た。
「貴方毎回恥ずかしくないの?」
これは何度目のキスだろうか?
そう思ってしまう。
「可愛い婚約者に、これ以上の事をしない私を誉めて欲しいなー」
そう言ってまた唇を舐める。
何でこの人こんなにいちいち色気があるの?
私、これから死亡フラグ折るために色々と大変なのに……ドキドキしている場合じゃないんだからね。
そう思うも彼の捕食者の様な目から目が離せない。
「それに、こんな美人なかなかいない。誰かの物になる前に唾をつけられてラッキーだったよ」
そう言いながら私を抱き締める。
「美人って、貴方目が悪いの?」
「目か……そうだね。眼鏡をかける位には」
そう言って楽しそうに笑う。
死亡フラグを折る為とはいえ、私とんでもない人と婚約してしまったのでは?
そう思うと自分の迂闊さに腹がたってしまう。

「貴方、記憶喪失なんて嘘ね」
鋭く見据えてそう断言してやると、アルは人の悪い笑みを見せた。
「ちょっと諸事情があってね。身分は証せないんだ」
「婚約者の私でも?」
「ジュリアが本当に私の事を愛していて婚約者なんて物になってくれたのなら喜んで教えただろうけど……」
そう言うとアルはすっと目を細める。
「違うよね。ちまたうわさとも様子が違うようだし」
「巷の噂……」
呆然とそんな事を考えているとアルが含み笑いをする。
「我が儘で高飛車。高慢ちきで勉強もせず、取り柄といえばその高い魔力だけ。けど、努力嫌いな為に使える魔法はない。聖女の一年の修行中も受け入れた先の神官やシスター達に身分を傘に多大な迷惑を掛けたとか?その癖、矜持だけは高い」
「あっているわね」
うんうんと頷き彼の言う所の私に同意する。
そう、私の認識の悪役令嬢ジュリアその者である。
「でも、君は何故か教会の慰問をしたり、素性の分からない俺を看病したりと噂からは到底考えられない様な行動をとっている。かと思えば好きでもない俺と婚約するし」
「貴方は私がこの婚約は本意ではないと知っていてあんな……は……破廉恥はれんちな……」
指でアルを指しながらプルプルと顔を赤らめ次の言葉をパクパクとしていると。
「あんなってキスの事?」
そう言ってあろう事か再び唇を重ねて来る。
「言っている側から何やらかしているんですか!!」
思わず胸を押しキリッと睨むと益々楽しそうにアルが笑う。
「そう言う可愛い所が堪らないな」
そして私の髪をそっと撫でた。
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