女神様の宝石箱

麻生空

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治癒魔法があれば便利なのに

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翌日、デイビッド先生と共にあの男の所へと向かった。

そう、あの男。
アルである。
「アル。生きておりますか?」
そう問い掛けながら入室する。
男はベッドで横になっていた。
私達の気配に気付いてかムクリと起き上がる。
「あぁ、ジュリアか。ここの食事は教会とは違って美味しいな」
アルそう言って満足そうに微笑む。
って言うか、教会の料理と一緒にしないでもらいたい。
大体サンドイッチでまとも・・・な食事といわれたのだ、曲がりなりにもこの国一番の金持ち公爵家の料理、馬鹿言っちゃいけない。
そう思ってアルに文句を言おうと近づき彼の顔を見た瞬間、身綺麗に洗われたアルの美貌に一瞬頭が停止した。

誰だ?
こいつ?

こんな攻略対象いなかったよね?
そう思わずにはいられない程の美貌。
ってかイケメン。
「おや、もしかして俺に惚れた?」
そう言って笑う男に一瞬で頭がクリアになる。
なんて自信家なのだろうか?と。
「それだけ減らず口がきけるなら、もう大丈夫なのではなくって?」
そう言い彼の側まで歩いて行く。
やけに艶かしい首筋に目が止まる。
心なしか汗ばむ身体に疑問が生じ、無意識に彼の首筋に手を差し出した。
その時、男の手が私の手をとらえる。
「痛っ!!」
軽く捻られた手に苦悶すると、男はハッとして直ぐに私の手を離す。
一瞬だったが、確かに感じた熱に私は先生の方を見た。
「熱があるのですか?」
「申し訳ございません。昨日は説明不足でした。雑菌が入った事で少し発熱しているのです。薬も飲んでいますのでじきに良くなるでしょう」
そう言いながら先生は私とベッドを挟んで反対側に立つ。
「ではジュリア嬢、処置の仕方をお教え致します」
そう言って彼の上半身を覆う包帯をゆっくりと解き始めた。

包帯の下から現れたのは肉付きの良い、かと言って無駄な肉のない綺麗な筋肉。

『細マッチョ』
そんな言葉が頭をよぎる。

いかん。
思わず『美味しそう』なんて思ってしまった。

そんな浅ましい想像をしている私の脇で、先生が的確な処置をして行く。
「軟膏は此くらいで」
そう言って私に軟膏の着いたガーゼを見せると丁寧に傷口に張って行く。
一瞬傷口に染みたのか、アルが顔を歪ませた。

『こんな時に治癒魔法の使い手が居れば良いのに』
そんな事を考えてしまう。

そう、この世界には確かに魔法はある。

けど、実際に使える人はあまりいない。
その使えない魔法の最もたるものが治癒魔法なのだ。
攻撃魔法の使い手はある程度いる。
基本的に貴族がその例。
平民は殆ど魔法は使えない。
ゲームの中でも学園に通っていた貴族の子供は魔法が使えたし、私自身も記憶の通りならゲームの中のジュリアは治癒魔法以外の魔法全て使えたはず。
でも、治癒魔法は神官でも使えない。
聖女にしたってそうだ。
学園生活が始まるとヒロインであるリリアが成人の儀式をしていなかった事が分かり、学園の教会で急遽先生が儀式を執り行い、そこで神様から祝福を頂く事件が発生。
その噂が学園中に広まり、治癒魔法を使う『神の愛し子』と呼ばれ攻略対象が彼女に寄って来るのだ。
だから案外攻略対象には簡単に接触出来てしまうシステムになっている。
でも、この乙女ゲームはそれほど戦闘を重視していない作品の為、治癒魔法と言ってもかすり傷を癒す程度だったはず。
それでも神の奇跡だと皆にモテはやされる。

悪役令嬢の私とは雲泥の差だよね。
確かあの儀式って、ゲームが始まった月に起きるんだよなぁ。

先生の治療を見ながらぼんやりとそんな事を考えていた。
他のRPGなんかに出てくるような治癒魔法があればアルの傷なんて簡単に治るだろうに……と思いながら。
そして、包帯を巻き終わると先生が私の方を見る。
「どうたね。明日から出来そうかな?」
「大丈夫ですわ 。任せて下さい」
私は自信あり気に胸を張りアルの背中を軽く一撫でする。
そんな私にアルは信じられないと言う様な目を向けた。
「おい。まさか、ジュリアが明日から処置をするのか?」
また呼び捨てである。
「そうよ。悪い?」
そう問い掛けると、アルは「お嬢様の遊びじゃないんだぞ」とぼやく。
「私だって遊びで言っていないから。熱があるんでしょう。ほら、もう寝たら」
そう言ってそっぽを向いた。
そんな私達を見ていた先生が「若いって良いな~」と楽しそうに笑っていた。

それに、コスプレで胸を潰して男装もやったし、着物の下にサラシを巻いた女剣士のコスプレもしたのだから、包帯もおちゃのこさいさいなのだ。
そう思い胸を張った。

おデブだけどね。
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