女神様の宝石箱

麻生空

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デイビット先生曰く

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教会を去る前にあの男の事を他の孤児達に事情聴取する。

どうやら、昨日の朝に八百屋から貴族宅へと食材の配達をして帰って来た年長組の三人が、川岸に倒れている男を見つけたらしい。
なんでも、大きな袋を持って倒れていたとの事。

「何かの手がかりになるかもしれないわね。神父様」

子供達が正直に話した事を神父が物凄い目で見ていたのを私は見逃さない。
私はニコニコと微笑みながら神父を見た。

「記憶を取り戻す上でも大事な品物だと思いますの。是非その荷物を私に全て譲って頂けないでしょうか?」
あの男の物なのだから本来ならそれはどうかと言う申し出だが。
『だってこの神父の事だからきっとその荷物も売ってしまうわ』
私はニコニコと笑いながら懐から金貨を一枚取り出す。
「今回の善行に私からの寄付ですわ」
そう言うと神父は一も二もなく荷物を取りに行くようにと、近くにいた少年に言付ける。
「直ぐに持って来なさい」
少年は直ぐに神父に言い付けられた袋を持って来た。

ずたぼろの袋を。

「まだ濡れていますので中身は確認しておりません」
そう言って差し出すそれを私の侍従が受け取る。
「神に感謝を」
そう言って十字を切る。
このタヌキめ。
そう思って。

私は男を屋敷へ向かう馬車に乗せた後も予定通りに教会訪問を行った。
勿論、最初の教会のようなハプニングはなく、その後の教会は筒がなく訪問出来た。


心なしか首元のネックレスの色が少し薄くなっている様な気もする。

希望的願望でないと思いたいが……。

「いやいや。あまり希望的観念は捨てよう」
だって私は悪役令嬢なんだから。
教会三ヶ所回ってクッキーを配った程度で善行が積めたとは思えない。
それに、鏡に映る自身の姿になんら変わった所もない。
相変わらずの巨漢……?
いや、女なんだからこの場合は……メス豚?

思わず溜め息が出てしまう。
「お嬢様。今日連れて来た男の事で主治医がお話があるとお待ちです」
屋敷に着くと古参の侍女が私に矢継ぎ早に報告をする。
「判ったわ。直ぐに向かいます」
そう言って私は我が家の応接室へと足を向けた。

「デイビット先生。お久しぶりです」
入室するなり私は先生に挨拶をする。
私が生まれる前から我が家の主治医をしている先生だ。
年齢も私の父より少し上らしいく、歳のせいか少し頭も寂しくなってきたな……と思わず先生の顔よりも頭を見てしまうのはご愛嬌あいきょう
そんな先生は私を見るなり、すっとソファーから立ち上がり一礼をした。
「ジュリア嬢は相変わらずお美しい」
こんなおデブ令嬢に、下手な世辞もここまで来ると笑えるな。
そう思い苦笑いしてしまう。
「心にもないお世辞は良いのですよ。デイビット先生、それで?彼の様子は?」
そう言いながら私は先生に席に着くよう促しながら、自身も先生の向かいに腰を下ろした。
先生は「お世辞ではないのですが」とボソリと言ってから腰を下ろすと直ぐに話の本題に入る。
「実は、彼の診察をしたのですが……」
少し言い辛そうに話を切り出す先生。
「背中と脇腹に浅く切り傷があります。形からして刀傷でしょう。処置が雑で雑菌も入っておりました。多分切られた後に不衛生な物に触れたのかと」
まぁ、泥だらけで包帯を巻かれていたのだ、ずさんにも程がある。
「そうですか。して、どのくらいで治りますか?」
単直に話を進める私に先生は困った様に手を擦る。
「毎日傷薬を張り替えれば一月もあれば治りますが……」
「……が?何か問題でも?」
私の問いに先生が困った様に頷く。
「私事ですが、明後日娘の結婚式で、3日程ここを留守にするので……」
「まぁ。娘様が?おめでとうございます。私からも何かお祝いの品を贈りますわ」
そう言うと後ろに控えていた侍女に何か見繕う様に指示を出す。
「ありがとうございます。……その……彼の治療がその間出来かねるので……」
言い辛そうにそう言う先生。
「あら、じゃあ私が処置致しますわ。早速明日にでも教えて下さいますか?」
だってこれは絶好の善行を積む機会なのだから。
「お嬢様がそんな事される必要は……他の医師仲間に頼もうかと思っているのですが」
慌てる先生と侍女に
「あら、私は聖女修行で簡単な手当ての仕方を習って来てますよのよ。わざわざ他の方の手をわずらわせる事でもございませんわ」
そう言ってオホホホホと笑う。
そんな私に先生と侍女の顔が引きつっていた事など、私は知るよしもなかった。
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