女神様の宝石箱

麻生空

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その男との出会い

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早速私は怪我をしたその男の様子を見る為に、先程の女の子に案内されながら廊下を歩く。

子供達の居室がある廊下は、進めば進む程暗く湿った空気になって行く。
勿論、廊下には窓はなく左右に対照的に部屋の扉が配置されているのだ。

そして、廊下を突き当たった所にくだんの男の部屋があるようだ。
頼りない木製の扉を開けるとそこは、廊下以上に湿気を含んでいた。

怪我人を寝せるには正直薄暗い裏の部屋だ。
扉の前まで案内をした女の子は
「お姉ちゃん。お兄ちゃんを宜しくね」
無邪気に女の子はそう言うと、私にサンドイッチが乗ったトレーを渡すとダイニングへと急ぎ戻って行った。
女の子からトレーを受けった私はそっと部屋に入りその男を観察した。


奥まった部屋で横になっている男は、多分私とそんなに変わらない歳位に見えた。
泥で汚れたままの姿でベッドに横になり、怪我も適当に包帯を巻いただけと、これで本当に怪我が治るのか疑問である。
それに、何となく部屋は湿気とカビの匂いで衛生的とは思えない事がその気持ちに拍車をかけた。

私は静かに男の元へと足を進める。
顔は泥で汚いけれど、良く見れば整っており服と雑に巻かれた包帯の間から覗く体躯は大分鍛え上げられていた。

私の入室に気付いてか、男はそっと目を開ける。

「何だ。今日はマリーではないのか……」
そう言って身体を起こそうとする男。

マリー?……あぁ、さっきのあの女の子ね。
そう思いながら起き上がった男にトレーを渡す。
「食事を持って来たわ」
私からトレーを受け取った男はサンドイッチを見るや
「今日は何時もみたいな食事じゃなく、まともなんだな」
皮肉気にそう男が言う。
私は思わず笑いが出た。
「正直な方ですね。私はジュリア。貴方は?」
そう問い掛ける。
「名前はアル……それ以外は覚えていない」
ぶっきらぼうにそう言いながらすらりとした指でサンドイッチを取るとそれを頬張る男。
言葉に反してその所作の美しさに疑問が生じる。
「ここではあまり適切な治療が出来ないと思い、貴方を我が家で受け入れる事で先程神父様と話がついています。申し訳ない無いのだけれど、食事が終わったらそのまま私の手配した馬車で我が家に向かってもらうわ」
「ふ~ん。そうか」
そう言って男は私の話に興味無気に食事を進める。
「所で、ジュリアの家って何処の家だい?」

いきなりの呼び捨てである。
所作が綺麗だと思ったけど、とんだ無礼者ね。

そう思い男をマジマジと見た。
「私はウエンズ公爵家の長女ですわ」
そう言うと男は私をマジマジと眺めて来る。
「あんた、公爵令嬢なのか?」
と如何にも驚いて見せる。
益々もって失礼な男。
「そうよ。これでも一応ね。私の様な見てくれの者が公爵令嬢だなんて理不尽だと思うでしょう?」
滅茶苦茶おデブですからね。
「いや、見てくれで身分が決まる訳ではないから……」
 嫌に真面目にそう言う男。
何故か変な反応が帰って来るな……そう思ってしまった。

だって私は知っている。
他の貴族の令嬢達が影で私の事を嘲っているのを
「取り敢えず貴方は私が責任を持って家で預かります。私はこれから後二ヶ所程教会を回りますので、侍女と共に先に我が家へ行っていて下さい」
「分かった。後、ご馳走さま。美味しかったよ」
そう言うと食事を終えた男は私にトレーを差し出して来た。

片付けも私か?

そう思い荒々しくトレーを受け取った。
「お前、面白いな」
アルと名乗った男はそう言って笑ったのだ。
「はぁ?何言っているの?」
思わず眉間にシワが寄ってしまう。

それが私とアルの最悪の出会いだった。
そして、これが私の試練の幕開けとなるとも知らずに、また一つ善行が積めたと馬鹿のように喜ぶ私がいたのだった。
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