女神様の宝石箱

麻生空

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抜き打ち教会訪問

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私の急な訪問に、明らかに教会内の空気が変わる。

「これはこれは、ジュリア様。今日は訪問のお約束は無かったかと……」
脂ぎった小肥りな中年男性が手を擦りながら私の方へと近付いて来る。
私も人の事は言えないが、ハゲ・デブ・チビと三拍子揃った神父は更に皮脂がギトギトで、四拍子揃えて性格悪ければこの人に何が残るのか?
正直疑問が残る。

それに、彼は畏まってはいるが、私の腹黒帳簿では彼の行いはベターな悪役に次ぐものがあった。

孤児の食事を粗末にし私腹を肥やす?
寄付の横領?
なんて、生易しい物ではない。
孤児を定期的に社会貢献と言う名目で金のある貴族に奉公に行かせ、その家の弱味を見つけて恐喝するなどしている。
その孤児の派遣内容にも十分に問題があるが。

まぁ。

私も人に言えない様な性癖があるので、その奉公先の家主の趣味についてはこれ以上は言及しないけど。
そして、そんな茶番劇を繰り広げながら神父はなに食わぬ顔で応接室まで私を通す。

「私、聖女の御祓みそぎの儀式の時に神の啓示を受けて突然社会貢献に目覚めましたの」
そう言って懐から金貨の入った革の袋を取り出す。
神父がゴクリと生唾を飲み込む音が聞こえる。
そして、その袋から金貨を1枚程取り出した。

この世界の通過はブローと言い、1ブローが日本円で言う所の1円であるが、通貨は10ブローつまり10円刻みとなっていた。
10ブローは小さな銅貨で、銅貨は大きさを変えながら100ブロー1000ブローとなり、その上に銀貨が使われ1万ブロー10万ブローとなる。

察しの良い方はもうお気づきだろう。
私が差し出した金貨は日本円で言う所の100万円。
それをジャラジャラ音をさせている私は差し詰め良いカモだろう。

「これから私も教会運営に乗りだそうと思いまして父に相談しました所、父からそれならとこの様に資金を用立てて貰いましたの」
私は似非スマイルで神父に微笑めば、神父はただでさえ見えない目を更に細めながら
「そうでしたか。流石は公爵様。敬虔な信者に幸有らんことを」
そう言って胸の前で十字を切った。

流石は乙女ゲームだけあり、前世の文化が息づいているな。 
そんな所に感心してしまう。

それに、私は国でも一番金を持っている公爵令嬢。
今の神父にはカモにしか見えないだろう。
そう思い思わず笑む。

まぁ。
年頃の娘と言っても私の今の姿は見た目160センチの身長に体重100キロ位の見た目。
私の身に付けている服を着る前に見ると普通の令嬢位の服の大きさなのだが、そこは呪いの力でねじ曲げられている。
そんなおデブ令嬢が「フフフフ」と笑う姿はある意味引いてしまうと思うに、今、神父は『マネー』と言う魅惑の魔法に掛けられていてそんな事を気にする節もない。

だから私はマネーの魅惑魔法が有効な内にちゃっちゃと大事な契約を済ませてしまった。
教会運営に私も一口噛むと言う。

さっと出した書類には『教会運営について我が公爵家の管轄とし、健全な運営の為ならあらゆる手段を用いて教会運営の健全化に助力を惜しまない』

一見教会側がとても有利に見えるこの書類。
でも、健全な運営でなければ?

しかし、マネーの魅惑魔法に犯された神父様は『行け行けゴーゴー』とサインをしてしまった。

「実は神父様。早速ですが、今日の昼食の準備をして来ましたの」
そう言って応接室を出るとホールでは私の連れて来た侍女達と子供達が楽しそうにサンドイッチを作っていた。
「私達も共に食事をしますので、食材を勝手に持ってまいりました。失礼でしたでしょうか?」
私は神父にそう尋ねると
「滅相もございません」
と微笑まれた。
胡散臭い笑いだなと思いながら此方も微笑む。
すると、その脇を小さな女の子がサンドイッチをお盆に乗せて裏の居室の方へと持って行こうとしている。
どう見てもその女の子は居室の方を目指して歩いているではないか。
「あら?何処に持って行くの?ダイニングは逆よ」
私はそう問い掛けると
「あぁ。多分昨日の朝川岸で怪我をしていた男の所でしょう。記憶も無いらしく困っていた所です」
神父が大層迷惑そうに私に説明する。
「川岸で……怪我?」
何か聞いた事がある様な無いような内容である。
「こちらでは医師の派遣も金銭的に大変でしょう?我が公爵家は援助を惜しみませんので、その者を我が家で預り治療致しましょう。ここでは小さい子供達もいるので大変でしょうから」
そう申し入れると神父は「貴女の様な優しい方はおりません」と脂ぎった手で握って来た。

この神父、本当にキモいから。
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