女神様の宝石箱

麻生空

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それは突然に思い出した。

17歳の成人の儀式の時に。


魔力の高い私は神殿で16から一年の間、聖女修行をしていた。
もともと身分の高い家の令嬢は行儀見習いを兼ねて修道院でシスター見習いをする事がある。
そして、公爵家の令嬢の私は魔力も高い事からシスター見習いの上の聖女修行をしていたのだ。


……表面上は。


そんな私の神殿卒業……とばかりに数多の神官とシスターが泣き泣き私の卒業を喜び(悪い意味で)今儀式に参列している。
よりにもよって、まさにその時に思い出してしまったのだ。

泉の中央でお祈りもせずにただ佇(たたず)む私を物凄い眼差しで見つめる人々。
多分『早く祈れよ』とか『最後まで迷惑かけんな』という思いが込もっているはず。
それだけ嫌悪される事を私はここで一年間して来た。

集まってくれている人々は皆思っただろう。
何でも良いから早く終わらせてここから出て行ってくれと……。
あまつさえ、二度と来るなと……。
しかし、それでも今の私は呆然としているのだ。

だって私は今、前世で滅茶苦茶ハマった乙女ゲームの悪役令嬢になっていたのだから……。

「嘘でしょう……私があの勉強嫌いでおデブで性格悪くて我儘わがまま高慢こうまんちきで鼻持ちならない勘違いお嬢様、取り柄と言えば魔力だけの……あの悪役令嬢だなんて……」
私の独走に参列している人々は一様に笑いを堪えている。

判っている。

今だって身分だけが良い私の為に集まっているだけなのだ。

だから、私は絶望の縁で祈りを捧げた。

もうそれは必死で。

『あぁ。神様女神様。これからは善良に生きて行きます。だから、火刑や処刑や服毒死は嫌!!せめて市井(しせい)落ちか国外追放が良い!!』
切実にお祈りしてしまう。だって、私は先程も言った様に身分だけは良い。
確実に脂肪……否、死亡フラグが立ってしまう。
『心を入れ替えます』『私虐めなんてしません』『身分に関係なく優しく生きます』と心の中で念仏の様に唱えている。
ひたすら祈りを捧げる私に多分皆「さっきまでやらないと思ったら今度は長いよ」と思った事だろう。
それ位必死にお祈りしたのだ。
一瞬無風のその空間に私の頬を撫でるように空気が動いた。
ピリピリとした緊張感のある気配。
『何だろう?』
先程までの自身の必死さが一瞬で消えてしまった。
そんな私が温かな空気を感じて目を開けると、目の前に光に包まれた女性が現れ思いっきり笑われてしまった。
『フフフフ。もう直ぐ不遇の死をげると良く判ったものだ。面白い子ね』
そう言って私を見る女性は、この世の者とは思えない程の美貌の持ち主だった。
『あの時のわらべがこうも変わるだなんて、あぁ面白い』
深紅の唇が楽しそうにを描く。
『それにお前、あの時とは魂の輝きが違うのね』
そう言うと私のあごに手をえて顔を上げさせる。
『お前の首にあるネックレス』
言われて首を見れば、見たこともないネックレスがあった。
見たこともない?
何だろう……何かが引っかかる様な……。
不思議な輝きを持つそれは黒々と光を放つ。
石は所々グレーかかっていた。
『その色はお前の今までの悪行よ。綺麗なブラックダイヤになったら死ぬ運命だったものを……』
そう言って美女は私の首もとをそっとなぞる。
怪しく見つめるその瞳に一瞬で吸い寄せられそうになった。
『これから善行を積み、見事その全ての石を透明にして見せよ。さすればそちのその呪いは解かれよう』
「呪い……」
『目に見える様にそなたの容姿体型にも影響を及ぼしてある。フフフフなかなかナイスな呪いであろう?』
そう言って目を細めた美女は私の目を見つめる。
『面白い運命だな……フフフ。そなた楽しいのー。それに……もしかしたら私の……』
最後の方が聞き取れず何度も問い掛けるが、その美女は私に向かい微笑むとそのまま消えたのだ。


後で聞いた話では、私の目の前にまばゆい光が降りたとか……多分あれが女神様。
そして、私はその瞬間幼き日々の記憶と前世の記憶を思い出し全ての辻褄が合ったのだった。


そうか……このおデブな体型は女神様のネックレスをかっさらった時に呪いを掛けられたんだ。

道理で食事を制限しても、運動をしても痩せない訳だ。
そう、あれは確か三才になる頃だっと思う。
無知も罪な事だという事を身をもって経験した。

「つまり、この体型とネックレスの色は繋がっているって事?」
まだ完全には染まりきっていないネックレスに手を添えて今日から死亡フラグを消すために頑張ろうと心に誓った。
「悪役令嬢のテンプレは全てへし折ってみせるわ」

そう、それが私の運命を大きく変える女神様が気紛れで授けた原作にはないフラグだとも知らずに。
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