壁の穴

麻生空

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4メタポな旦那

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小学校まで徒歩15分のそのアパートの家賃は決して安くはなかった。

ファミリー向けのそのアパートは2LDKで月額8万円。

旦那の職場から賃貸手当が2万円ついて、月々の実質的な収入は26万円。
児童手当が三人の子供合わせて2万円。

光熱費(スマホ等含む)が月々8万円かかっており、残りの12万円で食費や学校のお金、そして旦那の小遣いを捻出しているのだ。

学校は学童含み、三人合わせて4万円位かかり、旦那の小遣いは月々2万円。

残りが、食費と衣服代になっている。

正直、貯金をする余裕も、保険を掛ける余裕もない。

だから、旦那は毎日自転車で片道30分の道のりを通勤しているのだ。

そんな旦那は夜の8時に決まって帰宅する。

勿論、旦那は一人で食事を取る。

子供が生まれてからは旦那と平日に食事を取った事がない。

夕食は子供達と一緒に7時前に終わられて、片付けも済ませる。

旦那が帰って来る頃には、子供達が入浴を始める時間だ。

8時に長女と次女が一緒に入り、その次に、食事の終わった旦那と長男が一緒に入る。

私はみんなが入り終わった後に風呂掃除も兼ねて入浴するのだ。

まぁ、浴槽には残り湯を明日の朝の洗濯用に取ってはいるんだが。


「早く食べて下さいね。剛が待っているんですから」

夕食を温め直しながらいつもの台詞をいつも通りに話す。

すると、明らかに嫌な顔をする旦那は
「俺だって仕事で疲れて帰って来ているんだ。少しはゆっくりと夕飯位食べさせてくれよ」

あ~、またこの台詞か。

数日に一回の割合で出るこの言葉。

そして、必ず続く次の言葉にムカつくんだよ。

「お前みたいに一日遊んでないんだからな」

ほら、この台詞。

「何言ってんの?私だって食事の準備に掃除に洗濯、子供の迎えまで一人でやっているのよ。貴方の毎日来ているワイシャツだって毎日アイロンかけているんだから」

一気にそうまくし立てると旦那は黙り込む。

とても不満そうな顔で私を見る。

昔はこんなんじゃなかったのに。

そう思うと、なんでこんな男と結婚したんだか……と思う毎日。

昔はハンサムだったのに、今では見事なメタポ腹の中年おじさんだ。

こんなんだったら高校の時の常田君と結婚していれば良かったよ。

実は、家の旦那の前に告白されたんだよね。

結局、その時はスタイルこそは良いものの、生真面目過ぎる常田君に触手が動かなかったのだ。

面白味がないと言うか……でも、そんな常田君は私の友人の一人の早苗と結婚して、職業は安定の国家公務員。

先日偶然早苗と会ったらブランド物の鞄や高そうなアクセサリーを着けていた。

そして、常田君もそれ相応の身なりで、正直家の旦那より格好良かった。

勿論メタポじゃないし……ね。
『あの時の選択は間違っていたわね』
そう思うと深いため息がでしまう。
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