可愛い子羊ちゃん

麻生空

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「キリト先輩」

勇気を出して声を掛ければ冷ややかな眼差しが私を見た。

わっ私。
先輩の眼前を支配してしまったわ。

もう天にも昇る気持ちだ。

「それで、私に何の用ですか?」

あっ、どうしよう。

先輩全然私に興味ない。

脈なしも良いところ。

それ所かすっごく迷惑ってオーラが見えるよ。

それに、私と話しているのに何か違う事考えているよね。

「……」

元々キリト先輩は魔族学園でも歴代の頭脳派の中でも飛び抜けた存在だ。

キリリとしたバンパイア特有の切れ長の眼差しが更にクールだと、女子の間では有名な話だ。

高等科を卒業する時などは、制服のボタンを掛けて死人が出たとか出ないとか。

兎に角、それほどのモテモテバンパイアだと言う事だ。

週替わり日替わりと隣に立つ女性が違うとの噂もあるが……その裏では、一人の女性に執着しないとの噂もある。

つまり、何が言いたいかと言うと、こんな私にもまだワンチャンあるんじゃないか?って言う事だ。

あっ、でも勘違いしないで、別に奥さんや愛人になりたいわけじゃなくって、私の処女を捨てさせてくれるかもって事だから。

だから、

私の処女貰って下さいって言うのよ。

が……頑張れエラ。

「あの……ご迷惑とは思いますが、楽園最後の思い出に私の処女を貰って下さい」

言った。
言えたよ私。

そっとキリト先輩の顔を伺えば一瞬驚いた顔になったけど。次の瞬間には満面の笑みで了承してくれた。

「良いよ。処女は初めてだから楽しみだ。もう日も落ちるから家においでよ」

そう、いつもの冷たい微笑みじゃなくって、ニコリと軽く返事をくれた。

……軽い。
軽すぎじゃない?

「淫魔族なんだよね。いっぱいご馳走してあげるよ」

ナニを……とは言わず、先輩は優しく私をエスコートしてくれた。

トロイ私にしては滅茶苦茶順調。

そう思っていたら、まさかのキリト先輩のお宅の客間が全て埋まっているだなんて……。

やっぱり、私はそう言う星の下に生まれたのかもしれない。

だから途方に暮れながれ私はキリト先輩にすがる思いでおいとまの言葉を吐いた。

きっと、もう、キリト先輩と私の人生は交わることはないのだと思いながら。
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