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プロローグ
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その日、私は24時間営業をしているファミレスでお代わり自由のコーヒーを永遠と飲みながら、明日まで提出期限のレポートを黙々と書いていた。
店に入ったのが午後10時だったが、今は午前2時を回った所だった。
……入店してから既に4時間。
その間をお代わり自由のコーヒー呑みで居座っている自分を、店員がそろそろ不穏な目で見ている。
「後1日あるから今日はこの辺にして帰るか……」
少々店員の視線も厳しくなって来た為、重い腰を上げかけた私は目の前の席の男性の肩に目が奪われた。
……なんて濃いブルーなんだろう?
私はそう思うと気付かれない様に背後から肩の上のモヤモヤを祓う。
端から見ると気違いか変態と思われるかも知れないその行動。
しかし、私には意味がある。
肩のモヤモヤを払い終わると一通り自分に納得しその場を離れようとした時、背後からドスの効いた声が降り注いだ。
「お嬢さん。今、そのお方に何をした」
全身黒付くめのスーツを纏い如何にも見るからに一般人ではないという雰囲気を醸し出した男性が二人、テーブル脇の通路に仁王立ちしていた。
「あの、なんかモヤモヤっとしたものがあったので祓っていただけです」
二人の男は意味が分からないと言いたげに冷たい眼差しを向けていた。
「佐竹。その辺で止めて下がっていてくれるかな。私はそこのお嬢さんと少し話がしたい」
先程の背を向けていた男性がいつの間にか私と黒スーツの男達の間に割って入っていた。
凄いイケメンである。
「社長……しかし……」
佐竹と呼ばれた男は納得いかないという様子が見えたが、社長と呼ばれた男性が「頼むよ」と優しく笑んで見せると静静と後ろへ下がって行った。
「恐い思いをさせて申し訳無かったね」
心底申し訳ないとその男性は苦笑いをした。
「こちらの席に来て少しこの老いぼれの話し相手になってはくれないかな?怖がらせたお詫びもかねて何かご飯を奢らせて欲しいのだが」
物腰良く紳士的な振る舞いに思わず頷く。
決してご飯に釣られたわけではない……と、言えない自分が少々情けなくもあった。
私は席に着くと一番安い食事を探して注文する。
「遠慮しなくて良いんだよ」
と、男性は更に苦笑いをした。
年の頃は40代後半から50代っといった感じで、髪はツーブロックショートを軽くワックスで流していてとても清潔感がある。
切れ長の目と薄い唇が整った面立ちを更に際立たせていた。
イケメンって居るところには居るんだな~と言うのが私の感想だった。
食事が運ばれて来るのを待つ間、私は先程のお礼をせねばと勢い良く言葉を発していた。
「私、安倍明(あべあかり)といいます。先程は無礼な事をしてしまい申し訳ございません。又、助けて頂きましてありがとうございます」
勢い良く起立して頭を下げた為テーブルに足を打付けてしまい痛みを堪える形になってしまった。
ちょっと情けなく顔をしかめていると、突如男性は虚を着かれたと大笑いし出してしまった。
「面白いお嬢さんだね」
「はい、大変申し訳無いです」と更に頭を垂れてしまう。
「そう言えば私もまだ自己紹介をしていなかったね。私は神尾毅(かみおたけし)と言う者で神尾グループの社長をやっている」
無知な自分でも知っている会社名に吃驚していると「だから遠慮せずにデザートも頼もう」とサイドメニューをそっと差し出す。
気さくな笑顔に気持ちが緩むが、今日会ったばかりの人にそんなに奢って貰うのは気が引けたので遠慮する。
少しすると店員が同じドリンクの入ったグラスを2客持って来た。
「では、今日の出会いに乾杯しよう」
軽く触れるグラスの勢いそのままにコクコクと喉を潤わせる。
「何、これ美味しい」
ファミレスで飲んだ事があるのはいつもお代わり自由のコーヒーやドリンクだった為か一杯幾らたと付く飲み物は生まれて初めて飲んだ。
こんなに美味しいなら一杯幾らと値段が張るのも頷ける。
「目から鱗……」
沁々とグラスを見ている私に気を良くした神尾さんは店員が持って来た食事を更に勧める。
「こんなまともな食事久し振りかも」
そう呟きながら黙々と一食平らげる。
食事が終わる頃にはお代わりのドリンクが置かれていた。
「さっき君が私にしたのはなんだい?とても肩が軽くなったのだが」
「やっぱり気付いてますよね。」と思うも我が家の秘術の為口外はして来なかったのだが、何故か本日の私は饒舌になっていた。
「え~と、私の家は何故か人のオーラが見えて、悪いオーラを治療出来るんです」
「オーラ?」
毅さんは目を見開くと「どういう事?」とさらりと続きを促す。
「はい。人にはその人のオーラがあり、病んでいる所のオーラは濁ったりするんです。さっきは肩の辺りにモヤモヤしたのがあったので祓ってみました」
コクコクと2杯目のドリンクを傾けながら得意気に話す。
それでも全ては説明していないし本当の事は言っていない。
あくまでも我が家の建前を並べ立てる。
これで納得してくれないかな?とも思い更にグラスを傾けた。
テキーラ・サンライズをそんなにゴクゴク飲む明の姿に毅は更に目を細める。
「服の上からでも一目で分かる位モヤモヤしていたので苦しいかと思いました。勝手なことしてご免なさい」
謝罪の言葉とは裏腹に体がフヨフヨと高揚して来る。
段々話している内容に脈絡が無くなって来ている事にすら明は気付いていない。
「死んだ父は私より熟練していたので、私も早くあの域になりたいと思っております」
何処となく呂律が怪しくなっているのを自覚してはいるが、気分は良い。
そして眠い。
……そう眠いのだ。
最近まともに寝ていないからな~とも思う。
「お父さん亡くなっているの?」
毅が優しく聞いて来る。
「はい。3ヶ月前に事故で。母も居ませんから生活費と学費を稼ごうとバイトを増やしているので、あまりまともな食事も出来ず。今日はとても助かりました。生き返ったようです……」
眠い。
限界かも…。
そう言うやテーブルに突っ伏して寝息をたててしまった。
その様子を神尾は笑顔で見つめていた。
「お父さんは見知らぬ人には気を付けろとは教えなかったのかな?」
神尾は不適な笑みを称えそっと明の髪を撫でた。
店に入ったのが午後10時だったが、今は午前2時を回った所だった。
……入店してから既に4時間。
その間をお代わり自由のコーヒー呑みで居座っている自分を、店員がそろそろ不穏な目で見ている。
「後1日あるから今日はこの辺にして帰るか……」
少々店員の視線も厳しくなって来た為、重い腰を上げかけた私は目の前の席の男性の肩に目が奪われた。
……なんて濃いブルーなんだろう?
私はそう思うと気付かれない様に背後から肩の上のモヤモヤを祓う。
端から見ると気違いか変態と思われるかも知れないその行動。
しかし、私には意味がある。
肩のモヤモヤを払い終わると一通り自分に納得しその場を離れようとした時、背後からドスの効いた声が降り注いだ。
「お嬢さん。今、そのお方に何をした」
全身黒付くめのスーツを纏い如何にも見るからに一般人ではないという雰囲気を醸し出した男性が二人、テーブル脇の通路に仁王立ちしていた。
「あの、なんかモヤモヤっとしたものがあったので祓っていただけです」
二人の男は意味が分からないと言いたげに冷たい眼差しを向けていた。
「佐竹。その辺で止めて下がっていてくれるかな。私はそこのお嬢さんと少し話がしたい」
先程の背を向けていた男性がいつの間にか私と黒スーツの男達の間に割って入っていた。
凄いイケメンである。
「社長……しかし……」
佐竹と呼ばれた男は納得いかないという様子が見えたが、社長と呼ばれた男性が「頼むよ」と優しく笑んで見せると静静と後ろへ下がって行った。
「恐い思いをさせて申し訳無かったね」
心底申し訳ないとその男性は苦笑いをした。
「こちらの席に来て少しこの老いぼれの話し相手になってはくれないかな?怖がらせたお詫びもかねて何かご飯を奢らせて欲しいのだが」
物腰良く紳士的な振る舞いに思わず頷く。
決してご飯に釣られたわけではない……と、言えない自分が少々情けなくもあった。
私は席に着くと一番安い食事を探して注文する。
「遠慮しなくて良いんだよ」
と、男性は更に苦笑いをした。
年の頃は40代後半から50代っといった感じで、髪はツーブロックショートを軽くワックスで流していてとても清潔感がある。
切れ長の目と薄い唇が整った面立ちを更に際立たせていた。
イケメンって居るところには居るんだな~と言うのが私の感想だった。
食事が運ばれて来るのを待つ間、私は先程のお礼をせねばと勢い良く言葉を発していた。
「私、安倍明(あべあかり)といいます。先程は無礼な事をしてしまい申し訳ございません。又、助けて頂きましてありがとうございます」
勢い良く起立して頭を下げた為テーブルに足を打付けてしまい痛みを堪える形になってしまった。
ちょっと情けなく顔をしかめていると、突如男性は虚を着かれたと大笑いし出してしまった。
「面白いお嬢さんだね」
「はい、大変申し訳無いです」と更に頭を垂れてしまう。
「そう言えば私もまだ自己紹介をしていなかったね。私は神尾毅(かみおたけし)と言う者で神尾グループの社長をやっている」
無知な自分でも知っている会社名に吃驚していると「だから遠慮せずにデザートも頼もう」とサイドメニューをそっと差し出す。
気さくな笑顔に気持ちが緩むが、今日会ったばかりの人にそんなに奢って貰うのは気が引けたので遠慮する。
少しすると店員が同じドリンクの入ったグラスを2客持って来た。
「では、今日の出会いに乾杯しよう」
軽く触れるグラスの勢いそのままにコクコクと喉を潤わせる。
「何、これ美味しい」
ファミレスで飲んだ事があるのはいつもお代わり自由のコーヒーやドリンクだった為か一杯幾らたと付く飲み物は生まれて初めて飲んだ。
こんなに美味しいなら一杯幾らと値段が張るのも頷ける。
「目から鱗……」
沁々とグラスを見ている私に気を良くした神尾さんは店員が持って来た食事を更に勧める。
「こんなまともな食事久し振りかも」
そう呟きながら黙々と一食平らげる。
食事が終わる頃にはお代わりのドリンクが置かれていた。
「さっき君が私にしたのはなんだい?とても肩が軽くなったのだが」
「やっぱり気付いてますよね。」と思うも我が家の秘術の為口外はして来なかったのだが、何故か本日の私は饒舌になっていた。
「え~と、私の家は何故か人のオーラが見えて、悪いオーラを治療出来るんです」
「オーラ?」
毅さんは目を見開くと「どういう事?」とさらりと続きを促す。
「はい。人にはその人のオーラがあり、病んでいる所のオーラは濁ったりするんです。さっきは肩の辺りにモヤモヤしたのがあったので祓ってみました」
コクコクと2杯目のドリンクを傾けながら得意気に話す。
それでも全ては説明していないし本当の事は言っていない。
あくまでも我が家の建前を並べ立てる。
これで納得してくれないかな?とも思い更にグラスを傾けた。
テキーラ・サンライズをそんなにゴクゴク飲む明の姿に毅は更に目を細める。
「服の上からでも一目で分かる位モヤモヤしていたので苦しいかと思いました。勝手なことしてご免なさい」
謝罪の言葉とは裏腹に体がフヨフヨと高揚して来る。
段々話している内容に脈絡が無くなって来ている事にすら明は気付いていない。
「死んだ父は私より熟練していたので、私も早くあの域になりたいと思っております」
何処となく呂律が怪しくなっているのを自覚してはいるが、気分は良い。
そして眠い。
……そう眠いのだ。
最近まともに寝ていないからな~とも思う。
「お父さん亡くなっているの?」
毅が優しく聞いて来る。
「はい。3ヶ月前に事故で。母も居ませんから生活費と学費を稼ごうとバイトを増やしているので、あまりまともな食事も出来ず。今日はとても助かりました。生き返ったようです……」
眠い。
限界かも…。
そう言うやテーブルに突っ伏して寝息をたててしまった。
その様子を神尾は笑顔で見つめていた。
「お父さんは見知らぬ人には気を付けろとは教えなかったのかな?」
神尾は不適な笑みを称えそっと明の髪を撫でた。
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