境界の国

麻生空

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王宮の一番豪華な部屋でアナスタシオは寝ていた。

ここには数週間前まで前国王が暮らしていた部屋でもあり、亡くなった部屋だ。

勿論、全て清掃され寝具も新調されている。
とは言ってもこの部屋には術式が組み込まれている為に寝台しか置けない。

アナスタシオの寝ている寝台の脇で、この国の宰相と大神官が話し合いをしていた。

「校長の話では、こちらの『シオン様』は孤児だと言うのだ。父親や母親の素性さえ分からないらしい」

「孤児と言う事は、下手すると我が国の国民かどうかも怪しいと言う事か……」

「ただ、魔術との適合は歴代国王の中でも希な程魔力が融合している」

「それは誠か?」

「兎に角、我が国の者と夫婦になれば何も問題はないだろう。それで戸籍もしっかりする」

二人は暫し沈黙する。

「王妃となれるとなれば、貴族どもは相手が孤児だろうと尻尾を振るだろう」

「早速明日からでも見合いのセッティングをしましょう」

「そうだな。早く我が国の者と血を繋いでもらわねば」

「まずは王族と縁を結ばせれば良い。美姫と歌われた王女達の何方か気に入って頂ければその方を」
大神官が名案とばかりに提案する。
「まて、王女方は二人とも縁談が進んでいるのだぞ」
慌てたように宰相が割って入る。
「それがどうした。全ては国事の為。それ位王族だった者なら解ろう。きっと王女達は同意するだろうよ」
大神官のその言葉に宰相はぐっと歯を食いしばった。

誰でも欲しがる王族の血筋。

それによって将来自分の血筋の者から国王を出すかもしれないのだから。

勿論決まっている縁談の中には宰相の息子も含まれている。

故に、難色を示したのだ。

願わくば、新国王が我が息子の縁談相手の王女を選ばない事だけを願うだけだ。

「分かった。王女方には本日中にでも話をしよう。明日にでも初顔合わせとする」

宰相はそう言うと何かを決意するように立ち上がった。

そして、立ち去る宰相の後ろ姿を見ながら大神官はほくそ笑む。

「お二方共娶られるのも良いか。後継者は多いに越した事はないからな。これ以上宰相の家に力が集中するのも困るし……」

そして、もう次期国王の該当者なしなどとならぬように。

大神官はそう思いシオンを再び見た。
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