境界の国

麻生空

文字の大きさ
上 下
3 / 6

2

しおりを挟む
「シオン様こちらをお向きになって~」

廊下側の教室の窓越しに下級生の女子生徒達が騒いでいる。
主に前に乗り出しているのは貴族の令嬢だ。

「おい、シオン様。ファンの達がお呼びだぞ」
ジョナサンはそう言うと読書にふける友人の頭を小突いた。
「キャーッ」
その途端に黄色い悲鳴が鳴る。

「これって何特ですか~」
「死んじゃうかも~」
「絵になりすぎ~」

数名の令嬢方が悶絶している。

毎度の事ながら思うんだ。
「腐女子スゲー」
ジョナサンは他人事のようにそう言う。
「お前のせいだよ。それに彼女達は私の性別を知っているのだから腐女子と言う言葉は当てはまらない」
シレッとそう言うとアナスタシオは席を立った。

廊下へと移動するアナスタシオ。
「「「シオン様」」」
女子生徒達が殺到する。

何せもうすぐ卒業してしまうのだ、今生の別れのような女性陣の包容の中へアナスタシオは平気で身を捧げている。

「あの。あの」

数人の女子生徒が大きな箱をアナスタシオへと差し出した。
「シオン様の事を思い。有志一同で作りました。是非卒業式で着て下さい」

その場に集まった女子生徒達が潤んだ瞳でこちらを見つめる。

「ありがとう。君達の気持ちは有り難く頂戴するよ」
アナスタシオはニコリと笑いかける。
すると、そこに集った女子全員が「きゃ~っ」と派手に悲鳴を上げたと思ったら、数名の女子生徒が萌え死にした。

そんな様子を教室の中から見ていた同級生一同は「シオン王子恐るべし」とボソリと呟いたと言う。


何故こんなに女子が女子にモテるのか?

元々スラリとした肢体に美形顔。
紫の髪はこの国でも珍しく、本人に言わせれば高値がつくというらしい。
孤児院の為にと、髪を伸ばせば直ぐに切って売ってしまう。

そんな彼女は人当たり良く、特に女性に優しいフェミニスト振り。

平民の、それも孤児の癖に気付けば「王子様」扱い。

勿論その方が色々食べ物を貰えるとあってアナスタシオも黙認している。

但し、弊害として誰もアナスタシオと特別な関係になる者がいない。
つまり、女友達がいないのだ。

何故なら女子達の紳士同盟ならぬ婦女子同盟と敵対したい怖いもの知らずはいないからだ。

そして、倒れた女子に「大丈夫?」と問い掛けたアナスタシオに、婦女子同盟のリーダーでもある公爵令嬢レイチェルが「大丈夫ですわ。私達で医務室へお連れしますので」と軽くアナスタシオに言う。

勿論、アナスタシオもそれ以上は突っ込まない。
と言うのも、以前倒れた女子生徒をお姫様抱っこして大事件になった事があったからだ。

故に、今の不思議な距離感を取っている。

そして、卒業式の服を手に入れたアナスタシオは
「大切に着るね」
と再び微笑んだのだ。

多分。

きっと。

あれは男性用の正装だと思う。

友人達が遠い眼差しでその箱を見ていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

ドSな彼からの溺愛は蜜の味

鳴宮鶉子
恋愛
ドSな彼からの溺愛は蜜の味

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

もう尽くして耐えるのは辞めます!!

月居 結深
恋愛
 国のために決められた婚約者。私は彼のことが好きだったけど、彼が恋したのは第二皇女殿下。振り向いて欲しくて努力したけど、無駄だったみたい。  婚約者に蔑ろにされて、それを令嬢達に蔑まれて。もう耐えられない。私は我慢してきた。国のため、身を粉にしてきた。  こんなにも報われないのなら、自由になってもいいでしょう?  小説家になろうの方でも公開しています。 2024/08/27  なろうと合わせるために、ちょこちょこいじりました。大筋は変わっていません。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

処理中です...