境界の国

麻生空

文字の大きさ
上 下
2 / 6

1

しおりを挟む
国王が身罷みまかった事を国民が知る事になったのは、国王が亡くなってから7日が過ぎた頃だった。

時は3月。

「アレキサンダー王がお隠れになったとか……この国は大丈夫だろうか?」

大勢の貴族が王宮へと続く道に長蛇の列を作っていた。

既にアレキサンダー王の血縁者達は前日の内に登城している。

儀式は丁度正午から始まるらしい。

「どうにかなるだろう?今までも大丈夫だったのだから」

生真面目に話す同級生達にアナスタシオは深い溜め息を吐いた。
艶やかな紫の髪を襟元で切り揃えてあり、そんなアナスタシオの姿を見る度にジョナサンはため息を吐きたくなる。

「我々青二才がどうこう言ったって何も始まらないよ。それに、貴族ならまだしも、我々のような一般市民には雲の上の出来事さ。それより来週の卒業式の後の宴会の打ち合わせをしようよ」

朝からする話ではないが、何せ時間がない。

卒業生から選ばれた7人で宴会の準備をする事になっていたが、何せこの騒ぎだ。
貴族のボンボンの4人は数日前から家に帰っている。

「あいつらが当日来るとは限らないだろう?私達でやらなきゃならないんだ」

そう言ってアナスタシオは親友のジョナサンの背を叩いた。

丁度校門を通った所で女生徒からの黄色い悲鳴が飛び交う。

「お~。朝から人気あるなジョナサン。モテモテで羨ましいよ」
アナスタシオがまたもやジョナサンの背を叩き茶化す。

ジョナサンはゴホゴホと噎せながらアナスタシオを見た。

「ジョナサン。アナスタシオの鈍感振りは有名だから」

後ろから着いて来ていたテッドが呆れ顔でそう指摘して来た。

「テッド……こいつに少し自覚ってもんを教えてやっていれ」
ジョナサンのその言葉にテッドは鼻で息をする。
「無自覚だから平和なんだよ。ジョナサン」
テッドはそう言うと二人の腕を取り校内へと入って行った。

「ただでさえ中央通りは道路が混んでいるんだ。こんな所で渋滞を作っちゃいけないよ」

強引に連れ立たれた二人はお互いに不平不満をテッドに浴びせながら校内を闊歩する事になった。

相変わらず黄色い悲鳴は続いていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

愛のゆくえ【完結】

春の小径
恋愛
私、あなたが好きでした ですが、告白した私にあなたは言いました 「妹にしか思えない」 私は幼馴染みと婚約しました それなのに、あなたはなぜ今になって私にプロポーズするのですか? ☆12時30分より1時間更新 (6月1日0時30分 完結) こう言う話はサクッと完結してから読みたいですよね? ……違う? とりあえず13日後ではなく13時間で完結させてみました。 他社でも公開

ドSな彼からの溺愛は蜜の味

鳴宮鶉子
恋愛
ドSな彼からの溺愛は蜜の味

処理中です...