きっと私は悪役令嬢

麻生空

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ルドルフ視点14

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何とか苦手なドリアを完食させるとエドがおもむろに腕時計を見た。

「ルディ。ラクト伯爵の食事中にお邪魔するのも悪いので、少しお茶でも飲んで時間を潰しましょうか」

笑顔で僕にそう提案して来るエド。
けど、僕はそれどころではなかった。

あのエドの細腕にその存在感をデカデカと主張している腕時計には覚えがある。

あれはアレン殿下が王太子殿下と共に陛下から賜ったとても大切な品だ。

希少価値も然ることながら、腕時計の裏側には王家の紋章が刻まれている門外不出の品。

腹心にさえ触らせなかった物を今エドが着けている。

「それって……」

思わず顔が強張ってしまう。

「あ~、これはアレンの腕時計で昨日ちょっと私の腕時計と交換したんです。大分高そうなんで、盗まれたら大変なんでこうして肌身離さず着けているんですよ」

ニコリとエドは大事そうにアレン殿下の腕時計を撫でた。

「でも、大丈夫ですよ。今週の金曜日にアレンから私用にと腕時計をプレゼントして貰う予定なので、その時にはアレンの腕時計はお返ししますから」

つまり、エドはアレン殿下のお手付き……、その証しとして自身の価値と同じ腕時計をエドに……、そして、そんな恋人に腕時計のプレゼントを?
一緒に時を刻もう的な?

「大丈夫ですか?そう言えば夜会の時は体調が悪かったんですよね。ルディはまだ本調子じゃないのではないですか?」

何も知らないようなエドの問い掛け。

「いや、大丈夫だよ。エドの気のせいだから」

何とか自身の心を落ち着かせつつ返事をする。
考えようによってはエドも実は男色家と言う事になる。
アレン殿下と恋敵というのは心苦しいが、以前まで男となんてキモイと思っていないだけ心が救われた。

「それなら良いのですが。明後日からは私も王宮へ行くので、初日に顔見知りのルディがいると心強いかなって、だから、調子が悪いなら早く帰って休んだ方が良いですよ」

そう言って僕を心配するエド。

勿論体調が悪い訳ではない。

いや、むしろエドともっと長く一緒にいたい。

心配の声掛けをするエドに「気にするな」としか言えない自分が情けない。

少し問答を繰り返すとエドは「わかりました」と言葉を切った。

暫しの沈黙の後、エドは何かを思い出すように僕に驚きの提案をする。

それは、王宮での仕事中は妹の名前の「エリス」と呼んで欲しいというのだ。

勿論、他のライバルにエドの名前を呼んで欲しくないと言う気持ちもあり大きく頷いた。

エドの本当の名前を呼べるのは自分だけ、そんな優越感もあった。

「ありがとうルディ。心強いよ」

そう言ってエドは僕の手を取る。

思ったよりも小さな手に心臓がドキリとした。

「僕で力になれる事ならなんでも言ってくれエド」

離れそうになるエドの手を再度取り強く握る。

「何時でも頼ってくれて良いから」

そう。
何時でも僕だけを頼ってくれ。

今日は最高の日だ。

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