きっと私は悪役令嬢

麻生空

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女将の計らいで馬を食堂の裏の馬小屋で預かって貰える事になった。

ちゃっかり飼葉と水代も含めて一頭1000ブローも取られたけどね。
本当に商売上手である。

「じゃあ、私はこのシーフードスパゲッティとパイシチューで、ルディは何にする?」
 向かいに座ったルドルフ様に聞けば「僕は何でも良いよ」と答えて来る。

「じゃあ、ビーフシチューとドリアのセットでいいかな?後で一口味見させて」

正直、庶民の食事の味のレベルが知りたいだけなんだけど、私がそう言うとルドルフ様が「じゃあ、それで」と即決していた。

女将さんは「あいよ」と返事をすると厨房の方へとオーダーを伝えた。

そして、一旦奥へ引っ込んだ後に「これはこの辺名物の桑の葉茶だよ」と湯気の立つお茶を置いた。

「桑の葉茶ですか?」

見た目は普通のお茶のような気がするけどと、そう思い一口飲むと苦味の少ない抹茶のような味がした。

「さっぱりしていて美味しいです」

女将に笑顔でそう言うと

「美容にも良いからね」

と何故かウインクされた。

「ここは養蚕業が盛んな地域だからね。蚕の餌の桑の木も多いんだよ」

女将さんはそう言うと私とルドルフ様の方を見て微笑む。

まぁ、ルドルフ様は攻略対象なだけあり国民的アイドル並みのイケメンだ。

熟女にもモテルだろう。

「私達はたまたまこの地域を通っただけなので良く分かりませんが、こちらの領主様はどういった方ですか?お若いとは聞いているのですが?」

単に興味本位で聞く体で尋ねると女将は深いため息をついた。

「ここの伯爵様はね。ここから見ると丁度北の高台にある館に住まわれているんだが、三年前に前方?伯爵のご長男に代替わりしたばかりなんだよ。それと新しい伯爵様は遊び呆けているようで、治水工事も何も全てストップしてしまったのさぁ。それで何回も町の上役が伯爵家に行ったんだが、全て追い返されているんだ。半年前にあった嵐の被害だって援助も何もなく、倒れた大木等も町の男衆だけで対処した位だからね。被害が出た者達は援助も何もないだけでなく、今は昨年と同じ額の税金の徴収にあくせくしている状態さぁ」

女将はそう言いながら「通りすがり方に言う事じゃないね」と苦笑いする。

「因みにですが、三年前に世代交代されたのは何故なのでしょうか?」

確か、前伯爵はご存命で引退後は片田舎に婦人と共に暮らしているとの話だ。

「さぁねぇ。何やら騎士団が押し掛けて来て、その後に領主が交代したとのお触れが出ただけで詳しくは分からないねぇ。けど、前の伯爵も今の伯爵も女にはだらしない方のようだから、その辺で何かヘマやっちまったんだろう」

女将はそう言うと盛大にケタケタと笑いだした。
領主の屋敷のお膝元でこんだけディスられちゃう伯爵様ってどんだけなのだろう?
それに、騎士団が動くと言う事は何かの事件だろうか?

一瞬カナリア様が言っていた孤児院の中抜きしていた貴族かとも思ったが、カナリア様の話では財産没収の上に爵位剥奪だったから、ただ隠居して家督を譲るだけですんでいるラクト伯爵家は違うのでは?とも思ってしまった。
それに、もし中抜きが事実ならラクト伯爵を監督していたルトラーも何かしらの影響が出ていたはず。
そんな話は聞いた事もないんだよね。

「そうなんですね。とても興味深いお話ありがとうございます」

私は女将に営業スマイルで応えた。

「何でも聞いて頂戴。私の知っている事でお役に立てるなら」

女将は顔を朱に染めながらうっとりと私に話し掛けた。

すると、厨房の方から「出来たぞ」と男性の声がする。
女将は「あいよ」と返事をすると直ぐ様奥へと行き料理を持って戻って来た。

「家の旦那の作った料理は美味しいよ。何たって昔は貴族の家の厨房に居た事があるんだからねぇ」

そう言って出された料理はどれも美味しそうな匂いがしている。

「それは期待大ですね。では女将、頂きます」

そう言って手を合わせて食事を開始した。

そんな私をルドルフ様は再び変な顔で見ている。
そして、ボソリ。

「姉上みたいな事をするんだな」

と呟いた。


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