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私が席に着くとアレンデル殿下が「では頂こうか」と声を掛けられ朝食が開始される。
先ずは種類豊富にバスケットの中に入っているパンを手前から一つ頂く。
持った瞬間の手触りが「このパンはただ者ではない」と訴えている。
試しに一口頬張るとフワッフワの食感に思わず目を見開く。
家のパンも柔らかくて美味しいと思っていたが、流石は王宮の食事。
食材が違うと舌鼓を打つ。
続いてスープを下からすくい上げ口に流し込むと、その色味に反する深い味わいに驚いてしまう。
野菜の味にしてもハーブの薫りにしてもそうだ。
料理人の腕もなかなかの物で、これだけの食材を使っても味に統一感がある。
「凄い……美味しい」
思わず感嘆してしまうと、アレンデル殿下が嬉しそうに笑う。
「エリスにそう言って貰えると嬉しいな。後でシェフを誉めておこう」
紳士スマイルで対応するアレンデル殿下。
流石は王族、教育が行き届いている。
「食事が終わったら少し話がしたいんだが、良いかな?」
アレンデル殿下は眉根を下げながらそう言われた。
何となく捨てられた子犬のようで私は全力で頷いていたのだ。
その後、特に会話もなく食事は進んだ。
お陰で料理を堪能する事が出来た。
もし、食事中にアレンデル殿下から話し掛けられたとしたら、ここまで食事を楽しむ事は出来なかっただろう。
まぁ、そのお礼も兼ねて食後のお茶を入れてアレンデル殿下のお話を聞くべくローテーブルがある方へと移動したのだが。
何故か三人掛のソファーに並んで座る事になってしまった。
何故だろうか?
「昨夜の事なんだが……」
アレンデル殿下はそう言うと私の方を見た。
「本当に申し訳なかった」
アレンデル殿下はそう言うと眉根を下げた。
昨夜の事と言うのはあの接吻事件の事だろう。
改めて言われると顔に熱が上がる。
しかし、少し話をしただけで分かる。
アレンデル殿下は子供だけど、それでもやはり王子らしく年齢以上に思慮深い方だ。
短絡的にあんな事をするとは思えない。
「あの……理由をお聞きしても……」
色々とファーストキスには夢があったが、それはもういい。
どんな理由にしろ私のファーストキスは奪われたのだから。
その事実は変わらない。
だから、王族がした事とはいえその理由位聞く権利はあると思う。
いや、絶対にある。
「理由を聞いたらエリスはもう逃げられなくなるよ」
アレンデル殿下は至極真剣な面持ちで私を見つめた。
「アレンデル殿下、今更ですよ。それに、この件に関しては私から慰謝料を請求しても罰は当たらないと思っているくらいですし」
何だか話しやすい感じだった為に、ちょっと強気に抗議して見た。
実際にはそんな事はしないけどね。
「そうだね。エリスにはキチンとした形で私の誠意を示そうと思っているし、婚約者であるルドルフの目の前でキスしてしまったのだから、きっとルドルフから浮気だと婚約破棄されるかもしれない。本当に申し訳ない」
アレンデル殿下は深く頭を下げられた。
「アレンデル殿下、止めて下さい。頭を上げて下さい」
私はそう言ってアレンデル殿下の手を取る。
「まだ社交界デビューをしていない子供の悪戯を本気にする貴族は多分いませんわ。だから気にしないで下さい」
私は慌ててアレンデル殿下にそう言った。
多分フォローにはなっていないだろうが、社交界デビューしていない子供の失敗はスルーするのが大人の嗜みだ。
「そうだね。社交界デビューした大人なら訂正出来ないけど、デビュー前なら大目に見て貰えるからね」
そう言って安堵するアレンデル殿下。
「そうですよ。つまり、これは子供の悪戯。きっと皆さん気にされていません。子供とのキスなんておやすみの挨拶と同じでノーカンですよ」
そう、あれはノーカン。
だって相手は子供だから。
「けど、ルドルフの目の前で……エリスは嫌だったでしょう?」
上目遣いにそう聞いて来るアレンデル殿下。
「いえ、別に書類上の婚約、はっきり言って政略結婚の相手です。私はルドルフ様の事を何とも思っていませんし、ルドルフ様だって私との婚約を嫌がっていますよ。現に、私達婚約してから二回しか会っていませんし、一回目なんて30分しか顔を会わせていません。どう考えてもエリスはルドルフ様に嫌われています」
客観的に見てもそうだと思う。
胸を張って宣言する私にアレンデル殿下は目を輝かせた。
「では、エリスはルドルフの事が好きではないと?」
「好き嫌いは特にないです。けど、それ以前に私はルドルフ様から嫌われているご様子ですので」
そうだよ。
エドに対する態度とエリスに対する態度の振り幅が激しいのなんのって。
「あっ、ダンスの時に思ったのですが、もしやルドルフ様はミランダさんみたいな方が好きなのかもしれません」
「ミランダさん?」
アレンデル殿下の問い掛けに私は自分の失態を悟ってしまう。
あっ……あれは秘密だったんだ。
ごめんミランダさん。
先ずは種類豊富にバスケットの中に入っているパンを手前から一つ頂く。
持った瞬間の手触りが「このパンはただ者ではない」と訴えている。
試しに一口頬張るとフワッフワの食感に思わず目を見開く。
家のパンも柔らかくて美味しいと思っていたが、流石は王宮の食事。
食材が違うと舌鼓を打つ。
続いてスープを下からすくい上げ口に流し込むと、その色味に反する深い味わいに驚いてしまう。
野菜の味にしてもハーブの薫りにしてもそうだ。
料理人の腕もなかなかの物で、これだけの食材を使っても味に統一感がある。
「凄い……美味しい」
思わず感嘆してしまうと、アレンデル殿下が嬉しそうに笑う。
「エリスにそう言って貰えると嬉しいな。後でシェフを誉めておこう」
紳士スマイルで対応するアレンデル殿下。
流石は王族、教育が行き届いている。
「食事が終わったら少し話がしたいんだが、良いかな?」
アレンデル殿下は眉根を下げながらそう言われた。
何となく捨てられた子犬のようで私は全力で頷いていたのだ。
その後、特に会話もなく食事は進んだ。
お陰で料理を堪能する事が出来た。
もし、食事中にアレンデル殿下から話し掛けられたとしたら、ここまで食事を楽しむ事は出来なかっただろう。
まぁ、そのお礼も兼ねて食後のお茶を入れてアレンデル殿下のお話を聞くべくローテーブルがある方へと移動したのだが。
何故か三人掛のソファーに並んで座る事になってしまった。
何故だろうか?
「昨夜の事なんだが……」
アレンデル殿下はそう言うと私の方を見た。
「本当に申し訳なかった」
アレンデル殿下はそう言うと眉根を下げた。
昨夜の事と言うのはあの接吻事件の事だろう。
改めて言われると顔に熱が上がる。
しかし、少し話をしただけで分かる。
アレンデル殿下は子供だけど、それでもやはり王子らしく年齢以上に思慮深い方だ。
短絡的にあんな事をするとは思えない。
「あの……理由をお聞きしても……」
色々とファーストキスには夢があったが、それはもういい。
どんな理由にしろ私のファーストキスは奪われたのだから。
その事実は変わらない。
だから、王族がした事とはいえその理由位聞く権利はあると思う。
いや、絶対にある。
「理由を聞いたらエリスはもう逃げられなくなるよ」
アレンデル殿下は至極真剣な面持ちで私を見つめた。
「アレンデル殿下、今更ですよ。それに、この件に関しては私から慰謝料を請求しても罰は当たらないと思っているくらいですし」
何だか話しやすい感じだった為に、ちょっと強気に抗議して見た。
実際にはそんな事はしないけどね。
「そうだね。エリスにはキチンとした形で私の誠意を示そうと思っているし、婚約者であるルドルフの目の前でキスしてしまったのだから、きっとルドルフから浮気だと婚約破棄されるかもしれない。本当に申し訳ない」
アレンデル殿下は深く頭を下げられた。
「アレンデル殿下、止めて下さい。頭を上げて下さい」
私はそう言ってアレンデル殿下の手を取る。
「まだ社交界デビューをしていない子供の悪戯を本気にする貴族は多分いませんわ。だから気にしないで下さい」
私は慌ててアレンデル殿下にそう言った。
多分フォローにはなっていないだろうが、社交界デビューしていない子供の失敗はスルーするのが大人の嗜みだ。
「そうだね。社交界デビューした大人なら訂正出来ないけど、デビュー前なら大目に見て貰えるからね」
そう言って安堵するアレンデル殿下。
「そうですよ。つまり、これは子供の悪戯。きっと皆さん気にされていません。子供とのキスなんておやすみの挨拶と同じでノーカンですよ」
そう、あれはノーカン。
だって相手は子供だから。
「けど、ルドルフの目の前で……エリスは嫌だったでしょう?」
上目遣いにそう聞いて来るアレンデル殿下。
「いえ、別に書類上の婚約、はっきり言って政略結婚の相手です。私はルドルフ様の事を何とも思っていませんし、ルドルフ様だって私との婚約を嫌がっていますよ。現に、私達婚約してから二回しか会っていませんし、一回目なんて30分しか顔を会わせていません。どう考えてもエリスはルドルフ様に嫌われています」
客観的に見てもそうだと思う。
胸を張って宣言する私にアレンデル殿下は目を輝かせた。
「では、エリスはルドルフの事が好きではないと?」
「好き嫌いは特にないです。けど、それ以前に私はルドルフ様から嫌われているご様子ですので」
そうだよ。
エドに対する態度とエリスに対する態度の振り幅が激しいのなんのって。
「あっ、ダンスの時に思ったのですが、もしやルドルフ様はミランダさんみたいな方が好きなのかもしれません」
「ミランダさん?」
アレンデル殿下の問い掛けに私は自分の失態を悟ってしまう。
あっ……あれは秘密だったんだ。
ごめんミランダさん。
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