きっと私は悪役令嬢

麻生空

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ダンスが終わるとルドルフ様のエスコートを受けてダンスホールから離脱。

「喉が渇きましたね」

ルドルフ様はそう言うと近くを通り掛かった給仕からドリンクを2個受け取り、一つを私の方へと当たり前のように寄越しました。
「ありがとうございます」
礼を言ってグラスを受け取り一口飲む。
爽やかな柑橘系のソフトドリンクで口の中がさっぱりとする。
ピクニックの時も思ったのだが、色々と気配りは出来る方のようで少しホッとしていると後ろから声がかかった。
 
「やぁ、ルドルフ。私にも婚約者を紹介してくれないかな?」

ルドルフ様を呼び捨てに?
誰?

そう思いながら声のした方を振り向くと、少年とも青年とも言えない微妙な年頃の男の子が立っていた。
身長は丁度私位で、年齢にしたら15歳前後だろうか?
金髪碧眼の美少年。
子供から大人に成り変わるだろうこの微妙な時期の危うさが人目をやたらと惹き付ける少年だ。
こんな子がその辺を歩いていたら変なおじさんの餌食になるのでは?と真面目にお姉さんは心配になった。

「はい。アレンデル殿下。こちらは僕の婚約者のエリス・リトラーです。エリス。こちらは第二王子のアレンデル殿下であられます」

一瞬で頭に描き出されたアレンデル殿下の顔。
でも、気のせいか実物は少し幼いようにも見える。

「お初にお目通り致します。リトラー公爵が娘のエリスでございます」

恭しくカーテーシーをすると、アレンデル殿下は「そんなに畏まらないで」
と手を差し伸べて来た。

何故か左手を。

仕方なしに左手を差し出すと私の手を取ったアレンデル殿下はそっと私の手の甲へと口付けた。

途端に辺りからは何故かどよめきが。

「ファーストダンスも済ませたようですし、良かったら次は私と踊っては頂けませんか?」

にこやかに、人当たりの良い笑顔でそう申し出るアレンデル殿下。

「ルドルフも良いよね」

優しい口調だけど、何故かそこには断れない強さを秘めていた。

「ええ。構いませんよ」

似非スマイルで対応するルドルフ様。

しかし、良いもダメもルドルフ様は私の事を嫌っているから私が例え誰と踊っても気にしないと思うんだよね。

「では、ルドルフの許可も頂いたのでどうぞお手を」

そう言ってアレンデル殿下は手を差し出す。

「喜んでお受けします」

そして、私はその手を取る。

この人も攻略対象だが、ルドルフ様の断罪イベントに参加するかは不明だ。
一応仲良くしておくのは私にはプラスだと頭の中で素早く計算する。

「あの、アレンデル殿下は婚約者の方と踊らなくて宜しいのですか?」

一応気にしていますアピールな為にそう問い掛けておく。

勿論ルドルフ様経由で隣国の姫と婚約している事は聞いていたし、こちらの国へ来た事がないことも知っている。

しかし、私の質問にアレンデル殿下は難色を示す。

何故か?と問う前に曲が始まってしまった。

流れるようにリードするアレンデル殿下。

流石に王子なだけありダンスも徹底されている様子。

「かの国より婚約を白紙にして欲しいとの書状が来ているんだ」

切なそうに話すアレンデル殿下。

「何故?とお聞きしても?」

大分不敬な質問だが、こちらも命が掛かっているのだ。
情報は大切だ。

「興味本位ではないようだから、敢えて不敬とは言わないけど。私が男色家だと言う噂を聞いたと、それでは王女が不敏だと話しを出して来たが、諜報部の調べでは最も好条件の縁談がかの国へあったとの話だ。もともと、王族の婚姻は如何に国に有利に働くかが重要なんだ。結婚したならいざ知らず、結婚前に婚約が白紙になる事は良くある事なんだよ」

そう言って笑われるアレンデル殿下。

「あの、殿下はまだお若いのできっと良い出会いが有りますわよ」

一応フォローしておこう。

攻略対象には出来るだけ好印象を、それが悪役令嬢の鉄則。

「ありがとうエリス」

「因みに、殿下はおいくつですか?」

「15だが」

えっ、15歳?
滅茶苦茶年下じゃない。

それで男色家?

「今不敬な事を思っていただろう。エリスは良く顔に出るね。ルドルフとは正反対だ」

あのエドにやたらと百面相してくるルドルフ様が?

「あいつは昔から無愛想で」
誰が?
「隙も何もなく取っ付きにくい男だから」
えっと、これってルドルフ様の事だよね。
「でも、最近は珍しい表情が見れて王宮内では天変地異が起きるってもっぱらの噂だよ」

そう言って無邪気に笑われた。

ダンスをしている時の距離もダンス教師と変わらない、まるで模範生のようなダンスだった。


けど、けどさぁ。

攻略対象が15歳ってもしかして、まだ乙女ゲームは始まってないって事?

それとも、このゲームにはショタコンルートがあるとか?

ヒロイン何気にショタなの?

あぁ、そうか、弟キャラだ。

「お姉様とか言うヤツ」

ちょっと私の理解の範疇を越えているようにさえ思えるんですけど。

そう思ってしまい思わず笑いが出てしまう。

「フフフ、エリスはお姉様って言って欲しいの?」
と無邪気に聞き返して来るアレンデル殿下。

まさか、
「今、声に出てましたか?」

「うん。バッチリね。じゃあ今日から『お姉様』って呼ぼうかのかな~」

無邪気にそんな事を言って来るアレンデル殿下。

なんて素直な子供なのかしら。

でも、優良物件の王子様から『お姉様』はないよな。
他の貴族令嬢から嫌がらせや刺客が送られて来たら洒落にならない。
まさにバンドエンドフラグだよ。

「いえ、それは恐れ多いので名前でお願い致します」
丁重にお断りをしておくに越したことはない。
「分かったよ。じゃあ、その代わりに今日からエリーって呼ぶね」

クスクスと笑うアレンデル殿下。

何か可愛い弟にお願いされたようで胸の奥がホッコリとした。

「光栄です。アレンデル殿下」

「フハ、エリーって見ていて飽きないね。全部顔に出ているよ」

そう言ってアレンデル殿下は妖しく微笑まれた。
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