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最後に

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「ミア、誕生日おめでとうございます」
満面の笑みを浮かべたブレイグ様が包みを私に向け差し出します。それを私は座ったまま受け取りました。きっと中身は学園にいたころを含めて5年間変わらず。包みを丁寧にはがすと中にはたくさんの高級な毛糸玉と刺繍糸。
「ブレイグ様、毎年毎年ありがとうございます。本当にうれしいです」
私が笑うとブレイグ様も嬉しそうにします」
「ミアが本当に喜ぶものを考えると、物を贈るよりも自分で作れるもののほうが嬉しいと思いまして。あとはブレイグ、と呼ぶ捨てにしてくれれば私もうれしいのですが」
そういわれても数年間直らなかったものはおそらく今後も直らないと思います。曖昧な笑顔を向けた時にふと思い出しました。
「そういえば、ブレイグ様は婚約した年から毛糸玉と糸を贈ってくださいましたね。聖女のお茶会で一度会っただけ、顔合わせでもほとんど会話をしていないのに私の趣味がよくわかりましたね?」
幼いころと趣味が変わっているなんてことはよくあることのはずですが。
私の質問にす、と顔をそむけたブレイグ様は一瞬逡巡してからあきらめたように言います。
「婚約者への贈り物、なんていうものは義務ですから。誕生日のプレゼントぐらいなら贈っても問題はないと思ってしまったのです。あなたの趣味はシュヴェストカ子爵から聞きました。あなたの本意ではない、あなたに優しくもしない婚約者からの贈り物でも、できればあなたに喜んでほしかったのです」
あなたの知らないところで勝手にあなたについて聞いてしまったことは申し訳ないと思っています。しゅんとしてしまったブレイグ様の服の袖を引き、私はまた微笑みかけます。
「ただのちょっとした疑問ですよ。あなたが私のことを知りたいと、私を喜ばせたいと思ってくれたことは嬉しいです。私はあなたのことを婚約者とは名ばかりの他人だとあの時は思っていたので」
私の方が申し訳ないです。過去のことを思い出したのか悲しげなブレイグ様の機嫌を取るために隣に寄り添って座りながら私は秘密を切り出すタイミングをうかがっていました。

それから少しして。
「・・・ミア、君が使うのにも私にくれるのにもそれは小さくありませんか?」
ブレイグ様が不思議に思うのも無理はありません。作りかけの、少しだけ形となった靴下は私の掌よりも小さいものですから。私やブレイグ様には使えません。こみあげてくる微笑みを抑えながら私はすまして答えます。
「もうすぐこれを使う子が私たちのもとに来るのですよ」
笑って私のおなかを撫でて見せると、一瞬だけぼんやりとした顔つきになったブレイグ様の顔が一気に明るくなりました。
「ミア!もしかして私たちの子供なのですか?この靴下はその子が履くための物?・・・あぁ!ありがとうミア!本当にありがとう!ミア、愛している!」
わたしを抱き上げようとして寸前に思いとどまったブレイグ様は代わりに私のことをそっと抱きしめました。ブレイグ様を抱き返しながら私は笑います。
「私も愛していますブレイグ様」
いつまでもいつまでもブレイグ様の喜びの声と私の笑い声が部屋には響いていたのでした。

おしまい

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本編完結
番外(聖女目線)を書く予定です。
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